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第520話「……わずかだが、魔力の残滓を感じる」

『了解!』


返事をし、大きく頷いたリオネルは、ファイアドレイクを促すと、

魔導光球を先導させ、150階層への階段をともに降りていった。


当然、索敵……魔力感知を最大限に張り巡らせているが、敵の気配は勿論、

危険は感じない。


だが、リオネルは用心深く階段をくだる。


シーフ職スキルを駆使し、


『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。


やがて……

魔導光球が照らす階段を降りきってみれば、ケルベロスの報告にあった通り、

久々に見る懐かしい光景?が広がっていた。


階段下の目に前に開けた広場のような場所があり、

ケルベロス達仲間全員が待機している。


仲間達は落ち着いており、索敵にも敵の反応はない。


脅威が無い事を確認した上、リオネルは、魔導光球をゆっくりと動かし、辺りを照らしてみた。


広場のその先は、地下120階層までと同じく、古びた石壁が続く通路と、

扉のない、いくつもの部屋で構成されていた。


地下1階層から120階層まで、散々見て来た光景……


既視感(デジャヴュ)に満ちあふれる光景だ。

ははは、と、リオネルは苦笑する。


苦笑したリオネルの下へ、ケルベロス達仲間が駆け寄って来た。


仲間を代表し、ケルベロスが言う。


『さあ、主よ、いつもの通り我らが先導し、探索しよう』


『ああ、そうだな』


『このフロアで待つという、イェレミアスが現れそうなストーンサークルを中心に回ろうか?』


リオネルは念の為、改めて魔力感知を最大限に張り巡らせるが、

ゴーレムから感じられたイェレミアスの気配はない。


先ほどケルベロスとの会話通り。

……多分、アールヴ族の魔法使い、イェレミアス・エテラヴオリは、

リオネルが地下150階層へ到着したのをどこからか監視し、状況を把握している事だろう。


確かにストーンサークルへ赴き、待っていればイェレミアスに会える確率は高いかもしれない。


しかし、餌を待ち受けるひな鳥のように、物欲しげにふるまうのもいかがなものかと、リオネルは首を横へ振る。


このフロア全体を見てみたいという好奇心もある。


『いや、フロア全体を、じっくりと回ろう』


『うむ、分かった。我らは既にこのフロアを1周して来たから、全く問題はないぞ。後をついて来てくれ』


ケルベロスの提案にリオネルも異存はない。


『ああ、任せるよ、ケルベロス』


『!!!!!』


『ケルベロスの言う通り、おいら達に任せてよ、リオネル様!』


『!!!!!』


ケルベロスに続き、ファイアドレイクとジャンも、

そしてアスプ達もやる気満々らしい。


『うむ! ファイアドレイク! ジャン! 行くぞ! アスプ達は主の後方から行け!』


リオネルに対しては教師然、

仲間達に対しては、リーダー然としてふるまうケルベロス。


ケルベロスの指示を聞き、仲間達は、通路の奥へ消えて行った。


そしてリオネルも、その後を音もなく歩いて行き、アスプ達もリオネルの後を固めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


敵が出現しないとはいえ……


ケルベロス達仲間は、リオネルの先と後それぞれ15m離れた場所に位置し、

しっかりと主を守るよう進んでいた。


その隊列をキープしながら、リオネルは探索を続けて行く。


冒険者ギルドの地図や資料に記載されているのは勿論、

実際にケルベロス達も探索して、やはり罠などはなかったが……

決して油断せず、充分注意してリオネルは進む。


リオネル以外、他の冒険者は居ない。

無人である。


つまり、一行以外、誰も居ない。


古びた石壁が続く通路と、扉のない、いくつもの無人でからっぽの部屋という殺風景さだが、却って新鮮だ。


リオネルは脳裏に浮かぶ、これまでず~っと見て来た地下庭園の風景と、

対比していたからだ。


天井まで100m以上もある巨大洞窟のような広い空間が広がっている。

その天井から、日光のような高魔力の暖かな明るい光がふりそそぎ、

さわやかな風が吹き込む。


地上は大木が「うっそう」と生い茂った深い密林が殆ど。

ところどころ、川に沼があり、

峡谷のような岩場や荒涼な原野、砂漠も混在して見える。


そして、所々にストーンサークルを備える謎めいた古代遺跡があった……


頭を切り替えたリオネルは改めて認識する。


この地下150階層は、やはり敵が出現しない。

注意深く確認しても罠もない。


地下150階層の各所を探索するリオネルは、これならキャンプ地にしても、

安全に過ごせると思いつつ、このフロアの最初のストーンサークルへやって来た。


「おお! 地下庭園のストーンサークルと全く同じだな!」


目の前にあるストーンサークルを見て、思わず肉声を発したリオネル。


……これまでと同じように調べてみる。


じっくりと、丹念に……


あ!?

これって!!


感じる!

……わずかだが、魔力の残滓を感じるのだ。


イェレミアス本人か、ゴーレムかは分からないが、

このストーンサークルを『異界門』として、『移動手段』として、使用した痕跡がある。


「もしかしたら……」と思い、リオネルは、30分ほど待ったが……

残念ながらイェレミアスが現れる気配はない。


現れる可能性はゼロではないが、このまま待っても仕方がない。


このフロア全体を把握する事を優先する。


リオネルは、ケルベロス達へ命じ、移動する事に決めたのである。

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