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第519話「分かった! 主ならば、万事上手くやるであろう」

……翌朝も、リオネルは早めに起床した。


いよいよ!

中間目標の地下150階層へ降りる!


心が、身体が熱くなる。

いつもの朝よりも、気持ちがはやっていると感じる。


しかし、まだまだとも考える。


フォルミーカ迷宮探索の旅は終わりではない。


急いては事を仕損じる。


勝って兜の緒を締めよ。


いくつものことわざを唱和しつつ、焦るな焦るんじゃないぞ、

と自分へ言い聞かせる。


そして昨日降りずに自制し、本当に良かったとも考える。

もしも勢いに任せて降りたら、いろいろじっくりと考える時間もなかったと思う。


立てた本日の目標は、まずは地下150階層を探索し、フロア全体を把握する。

そして、会見を約束したアールヴ族の魔法使い、

イェレミアス・エテラヴオリと話し、相手を知るべく、よしみを通じる事。


これまでの探索同様に、イェレミアスとのコミュニケーションも焦る事はない。


そもそもイェレミアスがどんな性格なのかつかめていない。

価値観、考え方に関し、自分との相性だってある。


何せ、イェレミアスとは、ゴーレム経由で、ほんの少し話しただけ。


後は、その人となりを、『魔道具店 クピディタース』のオーナー店主、

ボトヴィッド・エウレニウスから聞いているだけだから。


「イェレミアスは、俺と同じで頑固者さ。だがリオネル、真面目なお前ならきっと気に入られるはずだ。もしも迷宮で奴に会えたら、手紙を渡し、俺は元気だから宜しくと言っといてくれや。あと、お前がアートスを復活させた事もな!」


と、ボトヴィッドからは手紙と伝言を託されたが、いろいろと話してみないと分からない。


さてさて!

リオネルはしっかり身支度をし、仲間と共に食事をし、キャンプをたたみ、

出発する事にした。


まずはケルベロス、ファイアドレイク、ジャン、アスプ達を伴い、

150階層へ降りる階段へ……


下層へ降りる階段は、いつもと変わらない。

幅10m強、高さも同じくらいの石造りの古ぼけたものだ。


ここでケルベロス達が、斥候、偵察を申し出る。

地下150階層の様子を見て、念話を使い、リオネルへ報告を入れるという。


(あるじ)よ! 貴方の強さなら危険はないと思うが念の為だ。我らで先に150階を見て来よう。しばし経ってから念話で連絡を入れる』


『そ、そうか』


リオネルに忠実に仕えると決めたケルベロスではあるが、

相変わらず教師然と話して来る。


『うむ! ジャンとアスプを連れて行く! ファイアドレイクのみ、主の護衛として、この場に置いて行くぞ。そのまま待機をしておいてくれ』


ケルベロス達は、盾となり、(あるじ)のリオネルを危険にさらさない為、

先行して各所を確認し、安全を担保するのである。


ここは素直に、ケルベロス達の好意的な提案を受け入れる事にした。


『了解! 念の為言うが、ジャンは絶対に戦っちゃだめだぞ』


『分かってるって! リオネル様!』


という事で、ケルベロス達は、階段を降りて行った。


周囲に注意しながら……

リオネルは、火蜥蜴サラマンダーに擬態した、

ファイアドレイクとともに連絡を待つ。


……121階層以降、ここまで、

人間族を始め、他種族も含めて、他の冒険者達と遭遇していない。


結構な腕前の上級冒険者でも、ドラゴン族、巨人族の脅威を退け、

地下150階層へ到達する事が、とても困難なのだと、リオネルは実感したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


これから降りる地下150階層は、当然魔導灯などはなく真っ暗だ。


リオネルは照明魔法『魔導光球』を呼び出しておく。


……約15分ほど経過し、ケルベロスから連絡が来た。


『待たせたな、主よ! 貴方の言った通りだ! ざっくりと見て回ったが、120階層までと、ほぼ同じ石造り仕様の迷宮で、敵は全く出現しない。我らの見る限り、多分罠もなく安全だと思う。但し、油断はしないでくれ』


『了解! お疲れ様!』


『うむっ! 我らは全員けがもなく無事だ。ちなみに、例のアールヴ族の魔法使い、そしてゴーレムどもの姿もない。転移装置のストーンサークルが数か所あったから、主が地下150階層へ出向いたら、奴は姿を現すかもしれないな』


『成る程』


『主よ! 我の推測だが……このストーンサークル経由で、上層は勿論、この先の151階層以降へ行けるのではないかな』


『ああ、ありうる』


『ふむ、主も気づいていよう。イェレミアスが使役するゴーレムを通じてだけでなく、この迷宮には侵入者を監視する、魔導水晶を使った視点が数多、仕掛けられているはずだ』


ケルベロスの意見をあっさりと肯定。

リオネルは頷く。


『ああ、ケルベロス。お前が言う通り、視点には気づいているよ。イェレミアスさんに警戒されないよう、敢えて知らないふりをしていたけどな』


『うむ! 主のその対応で問題はない! 視点により、我らの行動は、イェレミアスには完全に把握されているはずだ。彼とは、敵対さえしなければ、我々には無害な存在であろうよ』


『ああ、全く同意だ。逆にイェレミアスさんにはよしみを通じ、151階層以降の探索のフォローをしてもらおうと考えているよ』


『分かった! 主ならば、万事上手くやるであろう。さあ、階段を降りるがよい』


『了解!』


返事をし、大きく頷いたリオネルは、ファイアドレイクを促すと、

魔導光球を先導させ、150階層への階段をともに降りていったのである。

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