第516話「じっくり考えて得た結論、リオネルはひとつ仮説を得た」
何者かによって生成された魔法雲がいくつも発生。
大量の雨を降らせ、迷宮の地下庭園を、たっぷりと潤した。
その不可思議な光景を見届けたリオネルにはいろいろと新たな推測が生まれて来る。
降雨終了後、思いついた事はあったが、探索を再開し、
リオネルは改めて考えてみた。
……元々、この場所には古き時代より、自然の大洞窟があったと思われる。
この自然の大洞窟へいつしか、何者かが入り込み、
大掛かりな補修、改築工事を行った後、石造りの迷宮を建設した。
その後、広大な地下庭園を造成。
魔力を使った不可思議な気象装置を始め、移動装置等々、様々な仕掛けを施したに違いない。
そして、この迷宮と地下庭園が完成するまでには、気が遠くなるほど、
途方もない時間がかかったであろう。
この迷宮と地下庭園を造りし者の行方は気になる。
また、跋扈するおびただしい数の魔物に関しても、
地上で捕獲したものが繁殖したのか、次元の裂け目から湧き出て来るのか、
確かめたいところである。
結局、この迷宮の真の秘密は人間族が未踏地という、
地下151階層以降にあるのだとリオネルは確信している。
150階層で会う約束をした謎めいたアールヴ族の魔法使い、イェレミアス・エテラヴオリもこの迷宮と地下庭園の秘密を知っているはずだ。
少しでも早く行ってイェレミアスと話し、真相を探り、確かめたい。
しかし、焦りは禁物。
思考を更に巡らせ、まとめるのは、探索終了後、キャンプ地でじっくりと行った方がベストだ。
今日の探索を開始してから……どれくらい時間が経ったのだろう?
リオネルは、改めて愛用の魔導懐中時計を見た。
時計の針を確認すれば、時間は午後2時過ぎ。
探索終了予定の午後5時まで後3時間弱、まだまだ余裕はある。
リオネルと仲間達は引き続き、地下145階層の探索を行う。
いつものように、リオネルはシーフ職スキルを駆使し、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。
もしも障害物があれば、転移、飛翔の失われた魔法、
ジャンプ、幅跳び、高所からの落下、木登りし樹上にての軽業など、
確信を得た超人的な身体能力を行使し、楽々と進んで行く。
索敵――魔力感知を最大範囲で張り巡らせ、外敵への警戒も怠らない。
ペースは全く変わらないが、全てが順調、
もうまもなくで150階層だと思うと、喜びがこみ上げる。
しかし、冷静沈着なリオネルは有頂天にならず、脇を甘くしたりはしない。
まずは、145階層でキャンプ地に最適な場所に目星を付けた後、
ケルベロス達仲間に先導して貰いながら……
ムラマサを、魔法を、格闘技を、スキルをまんべんなく行使し、
ドラゴン、巨人、両族の猛者達を、手際よく確実に屠ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後5時となり、探索&討伐は終了。
145階層全てのエリアをクリア出来た。
見つけたキャンプ地へ移動したリオネルは、やはりいつもと変わらない。
キャンプの支度をし、食事を作っている途中で、
周囲の確認を終えたケルベロス達仲間が戻って来た。
……やがて、食事の支度が終わり、リオネルは夕食を摂りながら、
先ほど考えた仮説を再確認し、整理して行く。
石造りの迷宮の建設。
広大な地下庭園の造成。
魔力を使った不可思議な気象装置を始め、移動装置等々、様々な仕掛け。
跋扈するおびただしい数の魔物の由来。
中でもリオネルが気になったのは、好奇心の塊、魔法使いの性、
やはりというか、魔力を使った不可思議な気象装置を始め、移動装置等々、地下庭園の様々な仕掛けである。
明らかに現在の魔法工学を超えている。
じっくり考えて得た結論、リオネルはひとつ仮説を得た。
これらの建設、造成はアールヴなど全くの他種族か、滅びた古代文明を持つ人間族によるというもの。
そして迷宮は要塞にあたる防衛施設、地下庭園は農場、牧場にあたる生産施設、
更に地下151階層以降には、隠された居住区があると……
その居住区に迷宮、地下庭園を維持、発展させる為の管理、制御システムがあるに違いないとも……そこにイェレミアスは暮らしている。
元々、魔力をエネルギー化し、ライフラインに使っている現在の技術は、
古代魔法文明の遺産である。
たとえば魔導灯、魔導給湯機、魔導昇降機などは、古代文明の遺跡で発見された完全な模倣であり、仕組みも完全には解明されていない。
食事が終わった仲間達にも問いかけたが……
皆、おおむねリオネルと同意見であった。
そのケルベロス達仲間は交代となり、異界、収納の腕輪へ……
代わって現れたオルトロス、フロストドレイク、アスプに食事をふるまいながら、
リオネルはずっと、迷宮と地下庭園について、考察していたのである。
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