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第507話「リオネルよ。さすがお前は魔法使いだけあって、勘が鋭く、思慮深い。単なる武辺者ではないな」

修羅の戦いの中で、(あるじ)のサムライとともに()ったムラマサは、

リオネルの神髄を知るチャンスとばかりに、気合が入った。


ヒュドラは、そんなリオネルとムラマサを威嚇するかの如く、

9本の首についた顔その口から、濁った猛毒とおぞましい瘴気を吐く。


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


広大な沼地一帯は、更に猛毒と瘴気に満ち、濃度が、著しく上がった。


そんな中、リオネルは平然と微笑み、腕組みをして立っていた。


やはり究極の防御魔法『破邪霊鎧(はじゃれいがい)』の効果効能は抜群。


常人なら即座に死に至るヒュドラの猛毒でも、ほんの少し刺激を与えるだけ。


リオネルへのダメージは、限りなくゼロに近い。


『お、おいっ!! こ、この!! ビリビリ来る毒とおぞましき瘴気!!

さ、更に濃くなったぞお!! リ、リオネル!! お、お前!!?? ま、ま、全く平気なのか!!??』


泰然自若とするリオネルを見て、ムラマサは驚愕していた。


『ああ、大丈夫だよ、ムラマサ。ヒュドラの攻撃は、この前戦った時と全く同じパターンだからな』


『こ、この前戦った時と!!?? ま、全く同じパターン!!??』


『そうさ。コイツの攻撃は、単に猛毒と瘴気を吐くだけ。後は野に居る大蛇と同じ、力任せに巻き付き、絞め殺すだけだ』


『むむむむ………………』


その、単に猛毒と瘴気が、どんなに怖ろしいものか、ムラマサは感じ取っていた。


猛毒と瘴気に触れただけで、人間は即座に死に至ると分かるからだ。


しかし!

リオネルは、


『ああ、俺に特殊攻撃……毒、瘴気、麻痺、混乱、睡眠、石化、呪い等は全て無効だ』


こうムラマサに事前に告げた通り、全く平気なのだ。


リオネルは、更に言う。


『まあ野に居る大蛇とは、ヒュドラは持つパワーが桁違いだし、図体が、これぐらい、どが付くほど、でかいと、人間を踏み潰す事もするがな』


『う、うむう……』


『ムラマサ、お前の言うヤマタノオロチもこんな感じか?』


「しれっ」と言うリオネルは、不敵な笑みを浮かべていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


たったひとりの脆弱な人間が、自分の猛毒にも瘴気にも斃れず、

平然と腕組みをして立っている。


そんなリオネルを見て、ヒュドラは大いに()れ、いらつく。


今回相まみえたヒュドラは、先に対峙した、別個体と全く同じ反応であった。


いらつくヒュドラの波動も伝わって来る。


こんなはずはない! たかがちっぽけな人間の癖に!


単なる餌の癖に! 我の毒で(たお)れろ!


さっさと! 斃れてしまえ!


リオネルに対する反応も全く同じだ。


攻撃パターンも全く変わらない。


更に更に! ヒュドラは猛毒と瘴気を吐き散らす。


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


かああああっっっっ!!!!! しゃあああああっっっっ!!!!!


しかし!


リオネルは腕組みをしたまま笑みを絶やさない。


そして軽く息を吐く。


『それだけか? ワンパターンの毒蛇め』


そんな念話をヒュドラへ送りながら、


リオネルはゆっくりと体内魔力を上げていた。


いよいよ、ムラマサと共に戦う時が来た。


『ムラマサ、行くぞ、お前の、この世界のデビュー戦だ』


『お、おお! わ、分かった!』


『ヒュドラは再生能力がもの凄い。単に首を斬り落としただけでは、すぐに復活モードへ入り、首が生えて来てしまうんだ。そして全ての首を斬り落としても死なない……不死なんだ』


『う、うむ……で、リオネル、コイツをどう倒す?』


『ああ、まずは火の魔法剣を使う』


『ま、まずは? 火の魔法剣?』


『そう! 二段構えだ』


『二段構え……』


『ああ、まずは火の魔法剣で、斬り落としたヒュドラの傷口を同時に焼いてしまう。再生を遅らせる為だ』


『な、成る程……で、次は?』


『うん、次は再生中……死にかけのヒュドラの魂を破邪葬送の魔法で破壊し、とどめを刺す』


『再生中……死にかけのヒュドラの魂を破邪葬送の魔法で破壊し……とどめを刺す……』


『ああ、そうだ!』


何か思いついたのか、リオネルの顔が輝いた。


『おい、ムラマサ。もしかしたら、お前と組んだ一度の攻撃で、ヒュドラを倒せるかもしれないぞ』


『何? 我と組んだ、一度の攻撃でヒュドラを倒せるだと……』


『うん。不死身の肉体にダメージを受け、再生中の死にかけとは、つまり不死者(アンデッド)に近い状態だと推測した』


『ほう!』


『そこで、俺はピンと来て、ヒュドラと以前戦った時は、斬撃を加え、死にかけの状態にした上、破邪葬送の魔法を放ち、とどめを刺した』


『おお、成る程!』


『しかし、ムラマサ。お前は並の剣ではなく破邪の魔力を帯びた太刀だ。俺の火属性、お前の破邪を合わせ、一度の斬撃で、ヒュドラを倒せるやもしれんと思ったんだ』


『うむうむ! リオネルよ。さすがお前は魔法使いだけあって、勘が鋭く、思慮深い。単なる武辺者ではないな』


『おいおい、褒めても何も出ないぞ』


『ははははは、我は、(あるじ)へ嘘は言わん。そんな事より、早くヒュドラとの戦いに臨もうではないか!』


リオネルの言葉を聞き、ムラマサは戦いの開始を、熱く熱く促したのである。

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