第493話「成る程。 そういう事か!」
倉庫と思しき、古代遺跡を探索したが、ほぼ空振りに終わったリオネル。
だが、何者かが暮らしている……『生活の痕跡』は確かに見つけた。
リオネルがチートスキル『見よう見まね』で習得した、
『犬の嗅覚』が役に立ったのだ。
……それは地下121階層からこの141階層まで、
20階層以上、探索の際、何度も、何度も、見て、数えきれないくらい、かいだ匂い。
食用となる柑橘類果実のかすかな匂いであった。
てがかりがわずかでも、着実な前進。
気持ちを新にし、リオネルは引き続き、地下141階層の探索を行う。
移動、魔物の討伐を効率よく円滑に行い、リオネルはフィールドを駆けて行く。
時間を短縮した分、リオネルは古代遺跡の調査、確認に時間をかける。
ドラゴン、巨人を各10体ずつ倒し、次に発見した古代遺跡は、
先の倉庫よりも、こじんまりした建物1棟である。
リオネルは先の倉庫同様、まず周囲の確認を行う。
先ほどと根本的に違うのは、建物の側面中央より少し上部に1m四方正方形の穴、
『窓』らしきものが取付けられている事だ。
『窓』には当然ながら、ガラスやそれに準ずるモノはない。
異常が無い事を確かめると、リオネルは、これまた先ほど同様、
魔導光球、鋼鉄製ゴーレムを使い、内部の確認を行った。
異常を報せるような反応はなかった。
魔導光球もゴーレムも術者であるリオネルの心と直接つながっている。
『危険は全く皆無。安全だから、入っても大丈夫だ』
という内なる声も聞こえて来た。
頷いたリオネルは、内なる声の言う通り、建物の中へ入る。
……中は特に特筆すべきモノはない。
家具などはなく、がらんどう。
壁も棚などは細工されておらず、無機質で平坦だ。
リオネルは室内を丹念に、隅々まで歩いてみた。
何もない……そのひと言に尽きる。
しかし、先ほどの柑橘類果実のかすかな匂いと同様、
この建物にも『手掛かり』はあったのだ。
……片隅にわずかながら、魔力残滓がある!
そしてこの魔力残滓は、酷似していた。
以前妖精ピクシーのジャンが発見した、
アールヴの魔法使いイェレミアスの魔力残滓に。
しかし……どこかが微妙に違う。
同一人物のものではない。
どういう事だろうか?
魔力の波動が酷似している原因はいくつかあるが……
最も多いケースは、『血縁者』だ。
魔力残滓はイェレミアス本人のものではないが……これだけはいえる。
この建物へ来た何者かは、イェレミアスに極めて近しい立場にあると。
リオネルはそう推定し、建物を出た。
……建物付近を丁寧に調べるが、建物の外、周辺に魔力残滓はなかった。
またも、痕跡の後を追う事は不可能である
でもまた、手掛かり発見。
イェレミアスさんの所在へ、一歩前進かな。
頷いたリオネルは、探索を再開したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……古代遺跡が点在していても、これまでと全く変わらない。
魔物はひっきりなしに襲って来るのだ。
ドラゴン……竜族は、ノーマルタイプドラゴンだけでなく、
南方の動物ワニのようなタラスクス、両頭のレッドドラゴンであるアンフィスバエナを倒し、巨人族はオーガの上位種オーガキング、妖精の成れの果てと言われるトロルを倒す。
……そんな戦闘の合間に、リオネルは古代遺跡を探索し、丹念に調査、丁寧に確認を行って行く。
しかし、残念ながら……
食用となる柑橘類果実のかすかな匂い、アールヴの魔法使いイェレミアスに酷似した魔力残滓の発見以降、『気になるてがかり』は見つからなかった。
当初は残念な思いに囚われていたリオネルであったが……
3つめ、4つめ、5つめ……それ以上となると、さすがに慣れて行った。
そうこうするうちに、地下141階層の探索、調査、魔物の討伐は完了した。
当然、地下142階層への階段を発見済みのリオネルは、ゆっくりと降りて行く。
「さあ、地下142階層だ。しっかりと古代遺跡を調査し、魔物もガンガン倒すぞ」
肉声に出し、気持ちを新たにするリオネル。
ケルベルスの弟魔獣オルトロス、ミニマム竜に擬態したフロストドレイク、
魔獣アスプ20体を先行させる。
仲間達も気合十分。
元気に駆け、飛んで行った。
すると、まもなく!
『主! 見つけたぞ! 魔力残滓が、捜しているアールヴの魔法使いに限りなく近い奴らだ!』
オルトロスから報告が入り、
『!!!!!』
フロストドレイクも同じ報告を、
そしてアスプ達も同じ報告をして来た。
俺も索敵……魔力感知で、存在を認識、捕捉していた。
魔力残滓が、捜しているアールヴの魔法使いに限りなく近い……
そして、奴ら……ひとりじゃないって……
成る程。
そういう事か!
『分かった! お前達! そいつらとは絶対に戦うな! 遠回しにして、距離を取るんだ!』
距離は約1㎞。
他にヤバそうな敵は無し!
仲間へ指示を出したリオネルは、勢いよく、大地を蹴り、走り出したのである。
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