第492話「この発見は…… 何も見つからないより、わずかだが、ほんの一歩だけでも前進だ」
地下141階層への通路。
古ぼけた石造りの階段を降りたリオネル。
141階層へ着くと、高鳴る胸を押さえながら、第一歩を踏み出した。
古代遺跡があるとはいえ、地形はほとんど変わらない。
出現する魔物も全く変わらない……と、冒険者ギルド発行の公式地図には記載されている。
なので、リオネルは全く油断はしない。
リオネルは、いつものようにシーフ職スキルを駆使し、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。
障害物があれば、転移、飛翔の失われた魔法、
ジャンプ、幅跳び、高所からの落下、木登りし樹上にての軽業など、
確信を得た超人的な身体能力を行使し、楽々と進んで行く。
索敵――魔力感知を最大範囲で張り巡らせ、外敵への警戒も怠らない。
襲って来るドラゴン、巨人族もノーダメージで倒せるようになり、
ここまで出現した敵を完璧に知り尽くした上、索敵、視認など敵の捕捉も万全。
単独で戦ったり、仲間と連携して戦ったり、または仲間に全て任せたり、
自由自在に戦う。
そうこうするうちに……
リオネルは、ひとつめの古代遺跡を発見した。
公式地図や資料に記載された通り、無骨でクラシックなデザインの石造り。
全く同じタイプ、大きさの建築物の、少し離したふたつ並び。
長方形で幅が10m、高さが8m、奥行きが20mほど。
正面に左右上下3m強の、四角い形の出入り口。
入る前に、リオネルがぐるりと周囲を回れば、
側面の最上部に左右1m、上下50cmの四角い窓がいくつか開いていた。
こちらは、明り取りか、換気用の窓かもしれない。
リオネルは建築物を見た素直な感想を吐露する。
「これって……住居というより、倉庫……って感じだな」
まず視認、そして索敵……魔力感知で分かる。
周囲には敵の気配はない。
建築物の中にも当然ない。
無人らしい。
罠が仕掛けられていそうな雰囲気もない。
リオネルは、ふたつ並んだ倉庫らしき建築物の正面、
出入り口へ、そっと近寄ってみる。
自分はすぐ入らず、まずは向かって左側の建築物の入り口から、
照度を強めにした照明魔法の、『魔導光球』を潜入させてみる。
すると、真っ暗闇だった室内が、ぱあああっ!と明るくなった。
魔導光球が入っても、室内から特に反応はない。
リオネルは、もうひとつ、右側の建築物にも魔導光球を潜入させた。
……やはり反応はない。
更にリオネルは鋼鉄製ゴーレムを搬出。
左側の建築物の入り口から、中へ突入させてみた。
入ったゴーレムは無事であり、中でゆっくり歩きまわっているのが分かる。
もうひとつ、右側の建物にも新たな鋼鉄製ゴーレムを突入させたが、
全く同じで問題はないようだ。
敵もおらず、罠もなく、安全に問題はない。
石橋を叩いても渡らない。
用心深いリオネルは、ここまでやって、安全を担保するのだ。
大きくうなずいたリオネルは、ようやく向かって左側の建築物の入り口から、
中へ入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
石造りの建築物の中は、何もない。
だだっ広い室内は、がらんとしており、置いてあるモノは皆無。
動くモノは、ふわふわ、ふわふわ飛ぶ魔導光球と、
がしゃん! がしゃん! と重い足音をたて、歩くゴーレムのみである。
しかし、室内をくまなく調べたリオネルは、わずかな痕跡を見つけた。
リオネルがチートスキル『見よう見まね』で習得した、
『犬の嗅覚』が役に立ったのである。
……それは地下121階層からここまで、
何度も、何度も、数えきれないくらい、かいだ。
探索の際、何度も見て、香りをかいだ、
食用となる柑橘類果実のかすかな匂いであった。
この倉庫は、完全に周囲と遮断されている。
果実が勝手に中へ入るという事はない。
何者かが、収穫した果実を一時的にここに置いたか、保管したのだ。
その後、頃合いを見て、運び出し、どこかへ持ち去った……
もしかしたら、果実を運び込み、その後、移動したのは、
フォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴ、イェレミアスである可能性もゼロではない。
ただ魔力の残り香、イェレミアスの魔力残滓は感じられなかった。
いろいろな事実を鑑みて、リオネルの中で、いくつかの仮説が立つが、
残念ながら決め手となる物証はない。
リオネルは更に遺跡を調べたが、やはり何もない。
他の遺跡も確認しないと、一概には言えないが、
ボトヴィッドのように『宝箱』が見つかるのは滅多にない稀有な事なのだろう。
リオネルは残った右側の『倉庫』も調べたが、やはり何も見つからなかった。
がっかりした。
しかし世の中は甘くはない。
そう簡単に上手くは行かない。
……公式地図や資料によれば、ここから149階層まで、古代遺跡は数多あるという。
この発見は……
何も見つからないより、わずかだが、ほんの一歩だけでも前進だ。
リオネルはポジティブにそう考え、調べた『倉庫』を後にしたのである。
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