第451話「しかし、リオネルは修行中。 そんなシンプル過ぎる戦い方はしない」
翌朝……支度をし、朝食を摂り、リオネルは111階層へ出発した。
先行し、盾役、攻撃役、斥候役、そして勢子役を務めるのは、
魔獣兄弟ケルベロス、オルトロス、
火の精霊サラマンダーに擬態した火竜ファイアドレイクの3体だ。
ファイアドレイクと交代で、ミニマムドラゴンに擬態した凍竜フロストドレイク、
1mの鷹に擬態した鳥の王ジズが入る。
また、繰り返し言うが、毎度の事ながら、リオネルが行使する照明魔法の魔導光球、
索敵……広範囲の魔力感知は、もうお約束である。
111階層から120階層に出現する敵は、
地下101階層から110階層までの出現する敵――混沌のフロアに魔物の種類と、
全く同じとはいえ、戦闘の途中で「増援、加勢が現れる」事で、
今までの戦いよりも 、ずっとず~っとシビアになる。
……このケースで、命を落とした冒険者も多いと、冒険者ギルド専任業務担当者の、
エミリア・オースルンドさんは真面目な表情で何度も念を押してもいた。
しかし、仲間達に宣言した通り、リオネルの戦い方は殆ど変わらない。
遠距離、近距離、魔法、剣技、格闘、スキル等々をまんべんなく使い分け戦う。
そして魔物との戦闘の途中で、
「増援、加勢が現れる」事への対策もしっかり立てていた。
まずは『伏せ勢』
テイムし、手なずけたアスプ20体を2隊に分け、周囲に配置するのだ。
更に仲間達には告げていなかったが、万が一の場合は、盾役として最適なゴーレムを転移魔法で配置し、敵の襲撃を防ぐ役割を与える事も考えていた。
相変わらず、シーフ職スキルを駆使し、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進むリオネル。
これもいつものパターン。
……約5分ほど歩いたところだろうか。
先行したケルベロス、オルトロス、ファイアドレイクから念話連絡が入る。
『主よ! 敵発見だ! 狼男10体、ミノタウロス3体、そしてマンティコア3体だ! 今後は主へ、指示を頼む!』
『おう! 俺は充分に指揮官としての訓練を積んだ! 満足だぜ! 兄貴の言う通り、今後は、主が指示を出してくれや!』
『!!!!!』
相変わらず、ファイアドレイクも思念伝達で、
リオネル様に従うぞ! と告げている。
敵を捕捉しながら……リオネルは気付いていた。
魔獣ケルベロスは、弟オルトロスを『指揮官』として鍛えると同時に、
リオネルをも『指揮官』として、鍛えていたのだと。
『俺が、狼男10体を引き受ける! こっちへ追い込んでくれ! お前達はミノタウロス3体、そしてマンティコア3体を頼む!』
対して、3者からは、
『了解!』
『了解!』
『!!!!!』
リオネルの命令に従うと、念話が送られて来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勢子役でもあるケルベロス、オルトロス、ファイアドレイクに追われ、
気が立っているのだろう。
通路の奥に現れた狼男10体は、憤怒の表情をしており、
激しい殺気を放って来た。
腕組みし、正対するリオネル。
全く臆さず、口元には不敵な笑みを浮かべている。
個体差はあるが、垂直歩行で進んで来る狼男の身長は2mをゆうに超えていた。
真っ黒な毛並みの体格は筋骨隆々、体重も200kgオーバーであろう。
狼男の武器は、鋭い牙の生えた口である。
丈夫なあごの力に裏打ちされた噛み砕き、噛み裂く攻撃は半端ない。
そして前足の鋭い爪。
オーガにこそパワーは負けるが、人間の3倍近くはあると言われている。
しかし、狼男は魔法を使えない。
動きさえ見切れば、今のリオネルにとって、難儀する敵ではない。
効率だけ考えれば、行動不能にした上、
貫通撃を仕込んだ、遠距離攻撃魔法10発で片は付く。
しかし、リオネルは修行中。
そんなシンプル過ぎる戦い方はしない。
狼男の思考は良く言えばシンプルである。
悪く言えば、脳キン系で、分かりやすい。
リオネルは、念話の読心能力サトリで、狼男の思考を読み切る。
頷いたリオネルは、迷宮の床をどん!と蹴り、猛ダッシュ!
リオネルを殺そうと、狼男どもが鋭く繰り出す、
牙、爪を全て、「すいすいっ」と楽勝で躱し、
カウンター気味に、
どごわっ! どがっ! どしゅっ! どごおっ!
破邪聖煌拳の拳、蹴りを相手の急所へ、
更に風弾、火弾を頭蓋へぶち込み、あっという間に9体を瞬殺した。
そして!
最後のリーダ格の1体へは、
敢えて爪を強化ミスリル製の小型盾でかる~く受け流し、
「何だ、こいつは!!??」と驚愕する狼男へ、
どごわわわっっっ!!!
振るった腕が半分めり込むくらい、強烈なボディブローを喰らわせ、
あっさりと即死させていたのである。
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