第421話「だがリオネルは断る」
「失礼しまあす」
一礼したリオネルは、片隅に座ると、キャンプの準備を始めた。
周囲の冒険者達はざわめき、リオネルに注目するが、
当のリオネル泰然自若、全く動じない。
ゆうゆうとキャンプの準備を進めて行く。
ちなみにリオネルの荷物の大部分は、左腕に装着した収納の腕輪の中である。
これだけ注視される中、ぱっぱっと出したら不自然に映るだろう。
大丈夫。
こういった事もあろうかと、リオネルは対策を立ててあった。
背中に背負ったディバックから取り出すような仕草付きで、実は収納の腕輪から出す練習をしていたのだ。
そんなリオネルを最初は注視するだけの冒険者達ではあったが……
リオネルが真面目そうな少年でとげとげしい『殺気』がない事を見極め、
近づいて来た。
冒険者はおおむね好奇心旺盛である。
リオネルの素性が気になったに違いない。
……近づいて来たのは、
ふたつあるクランのひとつ、若い冒険者だけで構成されたクランの男女であった。
年齢はリオネルと同じか少し上くらいか。
20歳過ぎたくらいの男女である。
男は革鎧、女は法衣を着ていた。
その頃には、リオネルは敷物を広げ、寝袋を出し終え……
食事の支度を始めたところであった。
「よお、君」
「うふふ、こんばんはあ」
「こんばんは、初めまして」
リオネルは男女を見て、柔らかく微笑み、食事の支度を続ける。
と言っても、山猫亭で作って貰った弁当と紅茶というシンプルな食事だが。
山猫亭で5つほど弁当を作って貰い、収納の腕輪へ保存してある。
腕輪内は時間が止まっている為、劣化しないのだ。
男女はリオネルを見下ろし、会話を続ける。
「この50階層まで、君ひとりで来たのかい?」
「良く来れたわね? ひとりでさ」
「はあ、まあ何とか」
「君、冒険者だろ? ランクは? レベルはどれくらいなのさ」
「属性とか教えてくれない? 魔法とか使えるの? スキルは?」
冒険者の男女は、何故か馴れ馴れしくずうずうしかった。
この50階層まで来たのだ。
放つ波動からも分かるが、そこそこの実力者かもしれない。
しかし、名乗りもせず、いきなり相手の『個人情報』を聞くなどありえない。
呆れてしまう。
リオネルが年下の少年だと思い、舐めているのかもしれない。
さすがに怒りはしないが、リオネルは苦笑。
「どうしてもと言うのなら、そちらが先に教えてくれれば、まず冒険者ランクだけは教えますよ」
と告げた。
淡々としたリオネルの物言いを聞き、冒険者の男女は、
自身の無礼を棚に上げ、ムッとしたようだ。
まるで……
ボトヴィッドが言っていたクレクレ君のようである。
「な、何だと!」
「な、何よ、それ」
「貴方達とは初対面なのに、世間話ならともかく、いきなりペラペラ言えませんよ」
「お、お前! こ、このやろ!」
「生意気なガキっ!」
男女が声を荒げた瞬間。
「おい、お前ら何騒いでる?」
気になったのか、ふたりのリーダーらしき、
たくましい青年が近寄って来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうした?」
筋骨隆々のリーダーの青年は盾役の『戦士』らしい。
訝し気な表情で、メンバーの男女へ問う。
対して男女は、
「こいつがけんか売って来たんですよ、リーダー」
「そうよ!」
と噓八百を言った。
身内だから、まず仲間の言う事を信じるのだろう。
「君、本当かい?」
とリオネルへ聞いて来た。
当然リオネルは否定する。
「いいえ! おふたりが名乗らずいきなり俺のランク、レベル、属性、魔法行使の可否、スキルを尋ねられたので、答えられないと、お断りしました」
「ほう」
「初対面の貴方がたへ、簡単に教えられません。どうしてもと言うのなら、そちらが先に教えてくれれば、まず冒険者ランクだけは教えますよと返しただけです」
「むう」
淡々と返すリオネルを、リーダーは真っすぐに見据えた。
メンバーの男女は、リオネルの言葉を聞き、騒ぐ。
「そいつの言う事は、真っ赤なうそだよ!」
「そうよ! リーダー、こんなくそガキより、仲間の私達を信じて」
対して、リオネルは微笑む。
「ここは冒険者共用の場所であり、俺は、のんびり休憩したいだけです。でも無茶を言ったり、難癖をつけて喧嘩を売るのなら、貴方がたを排除させて貰います。理不尽なのは嫌いなので」
口調が全く変わらないリオネル。
リーダーを見る視線もそらさない。
全く臆さないリオネル
…………………しばし経ち、リーダーの視線が和らぐ。
「……たったひとりでこの地下50階層まで来るとは……君はどうやら、名のある冒険者のようだ。名前を聞いても構わないか?」
だがリオネルは断る。
「申し訳ありませんが、相手に名を聞く時は、そちらが先に名乗ってください」
正論である。
青年は一本取られたというような顔となり、
「すまん! 俺は、ダーグ。ダーグ・アムレアン。戦士で盾役。クラン・デンテスのリーダーだ」
と笑顔で名乗ったのである。
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