第414話「ん~、ここから先はとても危険なんだ。ひとりで入るのはやめた方が良いと思うよ」
リオネルは、冒険者ギルド専任業務担当者のエミリア・オースルンドから、
期限ノルマを設けず、自由度の高い依頼を請け負った。
フォルミーカ支部発行、迷宮の地図改訂の為の、探索調査である。
出現する魔物の確認討伐も兼ねた、探索調査でもある。
今回の依頼は、一般的に未踏破とされる地下151階層以降のフロア調査であり、
200階層までワンフロアあたり、金貨500枚。
201階層から300階層までは、金貨1,000枚を報酬として支払ってくれる。
但し、300階層まで踏破する必要はなく、行ける階層まででOK!
ちなみに魔物の討伐料は別途お支払いとの事だ。
エミリアは他に、報奨金が高い迷宮外の案件も提示してくれたが、リオネルは断った。
せっかく、フォルミーカまで来たのだ。
しばらくは、迷宮の探索に専念しようと決めたのである。
それから……
山猫亭10日間の宿泊期間が終了するまで……
リオネルは長期の迷宮探索、滞在を見越し、じっくりと準備を進めた。
主に行ったのが、食料品、生活必需品、魔法ポーションを中心とした買い物と、
情報収集である。
元々収納の腕輪へ、まめに備蓄はしていたが、
フォルミーカの最深部を目指すにはまだまだ足りないと考え直し、所持金を惜しみなく使い、買い求めたのである。
また情報収集は、専任業務担当者のエミリアは勿論、ボトヴィッドを始め、商品を売ってくれた商店主達に『聞き込み』を行いながら……
妖精ピクシーのジャンに街の『噂話』を収集して貰ったのである。
そんなこんなで……
リオネルはまる10日山猫亭に宿泊。
……11日目の朝が来た。
リオネルは、深々と頭を下げる。
「ダニエラさん、ブレンダさん、10日間、本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「リオネルさん、やっぱり迷宮へ行っちゃうの? すっごく助かってたのにい!」
寂しそうなブレンダ。
「申し訳ないです。その為に、フォルミーカへ来ましたので」
「あ~あ、残念。お婿さん候補のリオネルさんに、あっさりふられちゃったね、ブレンダ」
愛娘を茶化すダニエラ。
「う~」
悔しそうに唸るブレンダ。
リオネルは迷宮探索の準備をしながら、ダニエラとブレンダ母娘を手伝い、
宿屋の仕事も、しっかりこなしていたのである。
「迷宮へ入り、1か月なのか、3か月になるのか、それ以上になってしまうのか……戻ったら、必ず顔を出しますよ。ではまた! 失礼します!」
今度は軽く一礼し……
リオネルは、山猫亭を出たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
山猫亭を出たリオネルは、まさにカオスなフォルミーカの地下街へ……
この地下街にある出入り口から、更に深き迷宮へ潜るのだ。
もう何度も地下街を探索し、下見をしておいたから、
迷宮内へ入らずとも勝手は分かっている。
迷宮の出入り口前には、大きな『詰め所』があり、
地下街の出入り口以上に、屈強な門番が大勢居る。
ここで、お約束として聞かれる事がある。
「ん? 少年。君はひとりかい?」
「はい、ひとりです」
「クランに入っているとか、仲間は居ないのかい?」
国によって多少の差はあるが、この世界は『自己責任論』が基本である。
無謀な事をして命を失ったり、けがをする事は自業自得とみなされるのだ。
しかし『公』の場所では、無謀な行動は、一応確認され、止められる。
「はい、クランには入っていないし、仲間も居ません。基本的に俺、ひとりで入ります」
「ん~、ここから先はとても危険なんだ。ひとりで入るのはやめた方が良いと思うよ」
門番は笑顔でそう言うが、
『手間かけさせるんじゃねえ! このガキ! こちとら忙しいんだ! ごら!』
という波動が、バリバリ出ていた。
当然、リオネルは対策を立てている。
「門番さん。俺、リオネル・ロートレックといいます。こういうものです」
リオネルは冒険者ギルドの所属登録証を提示した。
若干18歳の少年がランクAの超一流冒険者。
さすがに門番は驚く。
「おお! すげえな! 少年はランクAの冒険者かあ!」
「はい、そうです。使い魔こそ呼びますが、俺、ひとりで迷宮へ入る事は、冒険者ギルドマスターのアウグスト・ブラードさんに了解して貰ってます」
リオネルの言う事は偽りではない。
アウグストから、クランメンバーの紹介を打診された際、お断りし、使い魔を召喚する事を伝えていた。
「おお、そうかあ! そこまで根回ししてるんなら全然OKだ、リオネル・ロートレック君」
「そうですか、ありがとうございます」
「ああ! 俺はもう何も言わねえ! 但し! 死んでも自己責任だからな! 恨むなよお! 俺はちゃんと注意したんだぜ!」
門番はそう言うと、にやにやと笑ったのである。
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