第411話「金額なんかつけられねえ! プライスレスじゃね~か!」
「リ、リオネルっ! よ、良くやってくれた! あ、ありがとう! 本当にありがとう! 嬉しいぜっ! 今日はな! 人生最高に良き日だっ!」
ボトヴィッドは、言い放つと、リオネルの手をがっし!と握った。
対してリオネルは、
「いえ、俺も良い経験をしました。今後に活かせると思います。それ以上に素晴らしい魔道具を売って頂きました」
と控えめに言い、柔らかく微笑んだ。
実際、リオネルの心の内は言葉通りである。
街の探索ついでに入ったこの『魔道具店 クピディタース』において、
魂修復の秘術を習得し、実践する事が出来た。
そして国宝級の魔法杖、人知を超えた存在で世界の至宝ともいえる、
『ゼバオトの指輪』を得る事が出来たのだ。
超の付く大収穫であり、店主のボトヴィッドに対し、感謝の気持ちしかない。
また孫と祖父くらい年齢は離れているが、
気さくに話せるボトヴィッドと邂逅した事も素直に嬉しい。
そんなリオネルへ、ボトヴィッドは言う。
「……俺はよ、命令されるのが大嫌いだが、自分で考えも調べもせず、努力のかけらもなしで、安易にいろいろ聞きたがるクレクレ野郎も大っ嫌いなんだ」
「…………………」
「だがよ、リオネル。ここは恥を忍んで聞きてえ」
「はい」
「さっきからお前が発動して、神々しい白光をまとっていた様子が、気になって仕方がねえ。もしや、あれは伝説の究極防御魔法じゃねえか?」
既にリオネル、そして、アートスの発光は、おさまっていた。
少し迷ったが、リオネルは英雄の迷宮において、何人もへ、
破邪霊鎧を披露していた。
敢えて、ボトヴィッドへ隠す必要はない。
「はい、ボトヴィッドさんがご推察の通り、破邪霊鎧です」
「な!!?? は、は、破邪霊鎧っ!!?? や、やっぱりかあ!!」
「はい、買わせて頂いた指輪を解呪する際は、破邪霊鎧で同時に使った解呪魔法の効果を大きく底上げさせました」
「ど、ど、同時に使った解呪魔法の効果を大きく底上げさせましただとぉ!!?? じゃ、じゃあ!! アートスを再起動させたのは、もしや……」
「はい、詳しい事は言えませんが、回復魔法、破邪霊鎧、いくつかの魔法を組み合わせた方法を用い、アールヴの魔法使いイェレミアスさんが造ったままの修復を心がけました」
「そ、そ、そうか!! イェレミアスが造ったままの修復か!! や、やっぱりな!!」
「はい、新たな魔法文字を刻むと、全く別のゴーレムへ。アートス君ではなくなってしまう恐れがありましたから」
リオネルが懸念していた事を伝えると、
ボトヴィッドは「うんうん」と頷く。
「おお! リオネル! お前本当にすげえ! そして本当に良く分かっているぞ! なあ! アートス!」
リオネルの言葉を聞いたボトヴィッドは、大いに喜び、
アートスへ同意を求める。
「ご主人様の言う通りです。アートスも喜ばしいと思います」
対してアートスは、よどみなく流ちょうに言葉を返したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そもそもリオネルは義理堅い。
ここフォルミーカへ来ても、全く変わらない。
「ついでです」と言いつつ、リオネルはゼバオトの指輪を購入した際、
ボトヴィッドが品出しした呪われた品物の解呪まで行ってしまった。
そもそもボトヴィッドほどの上級魔法使いでも、解呪の魔法を行う際、
日時、条件を精査し、いくつもの魔道具を使い、時間をかけじっくり行う。
品物にもよるが、高難度の場合も多い。
当然ながら『有償』である。
それをリオネルは、しれっと無造作に全ての呪いを解いてしまったのだ。
「本当にお前は底抜けだ。驚くしかねえ」
というボトヴィッドだが、まだ終わりではなかった。
「ボトヴィッドさん、アートス君ですが」
「はあ? アートスがどうかしたのかよ。俺はこうやって元気に復活しただけで充分だぜ」
「はい、再起動のついでに、アートス君へ防御魔法を付呪しておきました」
今更だが補足しよう。
付呪の魔法とは、ノーマルな状態の品物に、
属性、効能効果を付帯させる魔法である。
例えば通常の剣に火の属性を付呪すれば『炎の剣』となるのだ。
付呪魔法専門の魔法使いも居るが、時間も手間もかかる上、
こちらも当然ながら『有償』であり、高位の魔法に比例して、料金も莫大なものとなる。
「リ、リオネル、お、おめえ、防御魔法ってまさか!?」
「はい、今後の事を考え、破邪霊鎧を付呪しましたよ。ボトヴィッドさん、アートス君には店番や警護役もやって貰うって言っていたので。頑丈な方が良いですよね?」
「そ、そ、そりゃ! た、た、確かに言ったがよ! 破邪霊鎧をゴーレムへ付呪なんて! 金貨数千枚!? い、いや! 金額なんかつけられねえ! プライスレスじゃね~か!」
「何、言ってるんですか、ボトヴィッドさん。俺も貴方の金額なんかつけられない大事な指輪、金貨1枚で売って貰いましたから」
屈託なく笑うリオネルを見て、
「ははははははは! おめえには参った!」
と大笑いするボトヴィッド。
完全に意気投合したふたりは、夕方遅くまで、
魔法談議に花を咲かせたのであった。
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