第409話「リオネルは先ほど、ボトヴィッドが再起動が成功しないと言ったのを聞き、 ずっと理由を考えていた」
「俺、アートス、再起動出来そうですよ」
リオネルは、自信たっぷりにそう言うと、にっこりと笑った。
余裕しゃくしゃくのリオネルを見て、ボトヴィッドは大いに驚く。
「ほ、ほ、本当か!?」
「はい、根拠のない自信ですが……もし上手く行かなかったらごめんなさい」
「ははは、いいって、いいって。それも魔法使いの勘って奴なんだろ?」
「はい、そんなもんです」
「ま、良いよ。トライアルアンドエラー、論より証拠。ゴーレムの再起動へ挑むのは、命が懸かってるとか、ケガするわけじゃねえ、ぐだぐだ言う暇があったら、やってみればいいさ」
「ありがとうございます。じゃあ、ボトヴィッドさんに、申し訳ないですけど、失礼して、構造と作動の確認の為、アートス君に触らせて貰って良いですか?」
リオネルが、丁寧な物言いで頼むと、ボトヴィッドは少し驚いた。
「ほう! お前はそんなに若いくせに、本当に気配りするんだな」
「いえいえ、当然ですよ。ボトヴィッドさんは、アートス君を本当に大事にしているじゃないですか」
「はははは、ありがとよ。まあ、前言撤回。気配りや思いやりは、年齢は関係ねえ。人間個人の問題だ。近頃はよお、ジジイも若い奴も想像力が足りねえ奴が多すぎる。傍若無人で、何も考えず、すぐ失言する。相手がどう思うか、傷つくとか、全く考えてねえからな」
「まあ、そういう人は仕方がないです」
「だな! しかし、そういう無神経な奴に限って、自分の事を棚に上げ、自身のダメージに敏感だ。ちょっとでも傷つくと、すぐわあわあ、逆切れしやがるから始末におえねえ」
「はい、注意しましょう」
自分の父や兄達も、ボトヴィッドの言う通りの人間だった……
と、リオネルは思ったが、黙っていた。
彼らは血がつながってはいるが、もはや自分とは全く関係がないとも思っていた。
つらつらと考えるリオネル。
一方、ボトヴィッドは、『営業中』と書かれた木札を、
『本日は閉店しました』という表記へ裏返しにした。
店の扉を閉めると……カウンター奥へ戻る。
そしてガラスケースを開け、そっとアートスを抱き上げ、
優しくカウンターへ寝かせた。
ちなみにアートスの外観は、服を着たミスリル製の少年人形という感じだ。
「よし、頼むぜ。やってくれ」
「はい」
リオネルは、アートスに近づき、丁寧に丹念に調べ始めた。
まず服を脱がせ、アートスの頭、顔、ボディ、四肢に破損がないことを確認する。
次に中枢機能である、刻まれた『真理』の魔法文字がどこにあるか探す。
ゴーレムは真理の文字を魔法で刻んだ術者の命令に対し、忠実に従うのだ。
ボトヴィッドは、何も言わず、にやにや笑いながらリオネルを見ていた。
試そうとしているのだろう。
真理の文字がどこにあるか、リオネルに探させるらしい。
数多のゴーレムに見られる頭髪の中、頭部の額中央、
また人間の急所、心臓部分に、真理の魔法文字はなかった。
しかし、リオネルの魔力感知はすぐ、
アートスへ刻まれた『真理』の文字を見つけた。
意外というのか……
アートスの魔法文字は、右わき腹へ刻まれていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アートスを見下ろし、大きく頷いたリオネル。
そんなリオネルの様子を見て、ボトヴィッドは言う。
「ははははは、『真理』の魔法文字、すぐ見つかっちまったか!」
「はい、右わき腹のつけねへ、隠すように刻まれていました」
「ははははは、アールヴのイェレミアスは俺と違い、ひねくれものだ。まともな場所に魔法文字を刻まない」
アールヴのイェレミアスは俺と違い、ひねくれもの?
ボトヴィッドは、人の事を言えるのかと思ったが、沈黙は金。
リオネルは無言である。
「……………………」
「何だい、黙ってよ。さすがだ、リオネル。しかし、ここからが本番だぞ」
ボトヴィッドは、腕組みをして言い放った。
お手並み拝見という面持ちだ。
「ですね!」
リオネルは、右わき腹のつけねを見た。
一見、何もない強化ミスリル製の肌である。
しかしリオネルには、魔法で刻んだ真理の文字が、はっきりと見えていた。
念の為、ここでリオネルが自身の魔法を使い、既存の魔法文字の代わりに、
どこか別の場所へ『真理』の文字を刻んで再起動するのは容易い。
そして、ボトヴィッドも同じ方法なら行使可能だし、使うはずだ。
敢えて使わないのは、明確な理由があるはずだ。
リオネルは先ほど、ボトヴィッドが再起動が成功しないと言ったのを聞き、
ずっと理由を考えていた。
そして、ある結論に行き着いた。
それは、イェレミアスが何か特別な方法で、
魔法文字を刻んだのではという推測である。
であれば、新たな魔法文字を刻むのは悪手である。
アートスは、ボトヴィッドの知るのとは、
全く違うゴーレムへと生まれ変わってしまうだろう。
大きく頷いたリオネルは、ゼバオトの指輪が導き出した、
『ある秘術』を使おうとしていたのである。
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