第404話「愛する恋人を抱くように優しく指輪を握ったリオネル」
呪われた商品を凝視するリオネルの目に、
あるひとつの指輪が目に留まった。
お!
というように、リオネルの目が大きく見開かれ、口も小さく開く。
「!!! ボトヴィッドさん」
「何だ?」
「あの指輪を見せてください。真ん中に置かれた、鉄と真鍮で出来た奴です」
リオネルの声は湧きあがる興奮を無理やり抑えているように聞こえた。
そんなリオネルの様子を見て、ボトヴィッドは感嘆。
「ほう!」
そして、
「リオネル! お前、本当に抜け目がないな」
すぐ、にやっと笑うボトヴィッド。
対して、苦笑するリオネル。
「いや、抜け目がないって……何か、悪党か、曲者みたいに言わないでください」
「ははは、お前は、悪党か曲者かよ! まあ、言い得て妙だな!」
「はああ、勘弁してくださいよ」
「まあ、良い。お前が選んだこいつはな、この店でも大層な逸品だ」
「やっぱり!」
「ああ! だがな、さすがの俺でも、降参だ」
「降参ですか?」
「ああ! こいつだけはどうしても解呪が出来んのだ。効能効果も呪いのせいか、全く不明。すなわち売り物にはならん! 潔く諦めた方が良いぞ」
ボトヴィッドは相当な解呪の使い手のはず。
負けず嫌いの波動も感じる。
それが、もろ手を挙げ降参とは、……相当強力な呪いがかかっているに違いない。
「でも俺、諦めきれませんから、だめもとでやってみます。お願いします、解呪をやらせてください」
「ふん、トライアルアンドエラーか。良いだろう、リオネル、お前の意気込みを買ってやる」
「ありがとうございます。それで、もしも解呪出来たら、その指輪、おいくらで売って頂けますか?」
リオネルの問いに対し、ボトヴィッドは、
「ふむ……そうだな。この呪われた商品は、どれでも金貨1,000枚均一だ。お前の選んだ指輪もそうだ」
「え? 金貨1,000枚ですか。……構いません、お願いします」
リオネルの決断と答えを聞き、ボトヴィッドは驚き、思わず笑ってしまう。
「はははははは、おいおいおい! 指輪ひとつが、金貨1,000枚だぞ! 全く躊躇せん奴だな、お前は!」
「ええ、俺、その指輪、ぜひ買いたいですから」
「おし! 気に入った! もし解呪出来たら、そうだな、大サービスで、こいつを金貨1枚で売ってやろう」
「え!? たった金貨1枚!? 1,000枚が!?」
「くくく、そうだ! まあ解呪出来たらの話だよ」
にやにやするボトヴィッド。
そして魔導破邪手袋を装着し、底にえんじ色のビロードを張った大きなトレイに、
鉄と真鍮で出来た指輪をそっとつかんで載せると……
トレイをリオネルと向かい合うカウンターの上に置いた。
更に指輪を載せたトレイの脇に、未使用らしき魔導破邪手袋も置き、
「リオネル! さあ、遠慮なく解呪をやってみな! 手袋も貸してやるぜ!」
ボトヴィッドは、大きな声で言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルは、
「ありがとうございます、ボトヴィッドさん。では魔導破邪手袋をお借りします」
と言い、妖精ピクシーのジャンへ、少し離れた場所へ居るように念話で告げると、
魔導破邪手袋を装着。
ふうと、軽く息を吐き、
魔法使いが使う独特な呼吸法で、体内魔力の圧力を上げていく……
「うお! こ、こいつ!」
凄まじい魔力を感じ、驚愕するボトヴィッド。
しかし、精神集中するリオネルの耳へは入らない。
以前から考えていた事がある。
いつか試してみたいと、機会を待っていた。
……やがて、リオネルの身体が淡く発光し始める。
そして、発光の照度がどんどん上がり、
まばゆく神々しい白光がリオネルの全身を包んだ。
リオネルは、習得した究極の防御魔法『破邪霊鎧』を、
初めて最大の魔力で発動したのである。
「!!!!!!!!」
ボトヴィッドは、唖然として、驚くばかりで声が出ない。
そんな中、リオネルはゆっくりと手を伸ばし、
置かれている鉄と真鍮で造られた指輪を、そ~っと手に取った。
愛する恋人を抱くように優しく指輪を握ったリオネル。
更に精神を集中する。
帯びている破邪の魔力とともに、解呪の魔法を発動する。
一度に複数の属性精霊魔法を発動した際、
リオネルは、異なる魔法を一度に発動するコツをつかんでいたのだ。
リオネルの破邪霊鎧と解呪の魔法が……
ボトヴィッドが、全面降伏するぐらい、
指輪にかけられた強力な呪いを解いて行く……
「ふん!」
最後の気合注入!
とともに、解呪は終わった!
全身が発光したまま、リオネルはボトヴィッドへ微笑む。
「解呪……無事、終わりました。確認をお願いします」
「お、お、おう!」
震える手で、何とか指輪を受け取ったボトヴィッド。
「……………………」
しばし、指輪を凝視していたが、
「あ、ああっ! の、呪いが消えていやがるっ! 解呪されてるぞっ!!」
と、思い切り叫んだのである。
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