第397話「 既にアウグストの術中にはまっているのかもしれない」
百戦錬磨のフォルミーカのマスター、アウグスト・ブラードも、
たぐいまれな全属性魔法使用者、
リオネル・ロートレックに一本も二本も取られ、やり込められてしまった。
苦笑したアウグストは、秘書のイクセルへ、
リオネルの知らない女子らしき名を告げ、連れて来るよう命じた。
約5分後、イクセルに連れられ、やって来たのはギルド職員の制服を着た、
ひとりの若い女子である。
アウグスト、イクセルとは対照的に、明るい笑顔の女子であった。
女子の年齢は、リオネルより少し年上で20歳くらいだろうか。
栗毛のポニーテールが愛らしく、顔立ちも可憐だ。
アウグストよりいくつか指示を聞いてから、リオネルへ向き直り、声を張り上げる。
「初めまして! エミリア・オースルンドと、申しま~す。このたびは、マスターの命により、リオネル・ロートレック様の専任業務担当者を務めさせて頂きま~す! 何卒宜しくお願い致しま~す!」
元気の良すぎるあいさつを聞き、リオネルは苦笑。
しかし、はきはきと、あいさつを戻す。
「初めまして! エミリアさん! リオネル・ロートレックです。こちらこそ、何卒宜しくお願い致します」
「わあお! リオネル様あ! 私! ランクAの方の専任なんて、初めてなんですう! 本当に嬉しいですっ!」
ランクAの方の専任なんて、初めて?
敏腕の業務担当者をつけると言いながら、
リオネルに脈なしと見るや、あっさり手の平を返す。
やはり、アウグストは冷徹でしたたかである。
一方、笑顔が絶えないエミリア。
少したれ目気味の目が、笑うと更に細くなる。
「私! リオネルの様の為に、条件の良い依頼をたくさんキープして、ご紹介致します! 頑張りまあす!」
「はい、宜しくお願い致します」
「はあい、お願いされちゃいまあす♡」
リオネルは、元気で明るいエミリアの笑顔に釣られ、つい微笑んでしまう。
エミリアは誰もがつい、なごんでしまう癒し系女子なのだ。
成る程。
転んでもただでは起きぬ。
さすが、マスター、からめ手で来た。
やり込められても、けっして反撃を諦めない。
押してもダメなら、今度は、引いてみろって奴だ。
どのような形でも構わない。
気持ち良く、自分に働かせて、フォルミーカ支部の利益につながれば、
マスターにとっては、それで良いって事なんだ。
ゴーチェの声が、リオネルの心にリフレインする。
「フォルミーカ支部のマスター、アウグスト・ブラードは、優秀だが、徹底した合理主義者。とても計算高いとの評判だ」
苦笑したリオネルであったが……
笑顔のエミリアから、邪な波動は感じない。
裏でアウグストから、何か言い含められているとか、そういう事はなさそうだ。
リオネルとエミリアのやりとりを見守り、ふっと、笑うアウグスト。
「リオネル・ロートレック君。私の方は全ての用事が済んだ。後はエミリアと、やりとりをしたまえ」
冷たく微笑みながら、アウグストは淡々と言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アウグストは、自分へなびかない者へは冷たいようだ。
自身が見送りもしないのは勿論、秘書も同行させない。
「私とイクセルはここで失礼する。エミリア、リオネル君を3階の特別応接室へ案内したまえ。そこで打合せをするがいい」
「かしこまりましたあ! マスター!」
直立不動で敬礼するエミリア。
「ああ、可愛いな」と感じるリオネルは、
既にアウグストの術中にはまっているのかもしれない。
「失礼致しまあす!」
「失礼致します!」
一礼し、ギルドマスター専用応接室を辞去したリオネルとエミリア。
魔導昇降機で、3階へ。
フォルミーカ支部本館の3階は、いくつもの重厚な扉が並ぶ応接室専用のフロアだ。
通路を歩きながら、エミリアは言う。
「リオネル様あ」
「はい」
「10ある応接室のうち、特別応接室は3つだけ、ランクA以上の方専用のお部屋なんですう」
「そうなんですか」
「はあい♡」
エミリアへいざなわれ、リオネルは特別応接室のひとつへ。
これまでリオネルが打ち合せで使ったギルドの応接室よりも全然豪華な仕様で、
調度品も派手めだ。
ゆったりとした長椅子に対面で座り、リオネルとエミリアは話す。
「リオネル様あ、次回の打合せまでに、私、ギルドのデータベースを読み込み、リオネル様のスペック、ご経歴、ご戦歴に関し、把握しておきますう。それで、リオネル様に合った依頼もチョイスしておきますねえ」
「何卒宜しくお願い致します」
「はあい! 喜んでえ! ところでえ! イクセルから聞きましたがあ、リオネル様は、ソヴァール王国の方で、旅をして、初めてフォルミーカの支部へいらしたとかあ」
「はい、その通りです」
「じゃあ、お泊り先とか、難儀してませんかあ? ギルド直営のホテルも、提携している宿屋もありますよお。おっしゃって頂ければ、仲介いたしまあす」
「いえ、とりあえず、支部近くの宿屋へ泊まりました」
「ああ、そうなんですか。ちなみにそれ、どちらですかあ? ご連絡先を知りたいのでえ」
「いえいえ、フォルミーカへ来たばかりでのんびりしたいので、1週間ほど仕事はしません。こちらから、エミリアさんへ、ご連絡しますよ」
「わっかりましたあ」
リオネルの言葉を聞いたエミリアは、不満そうな顔を見せず、
にっこりと笑ったのである。
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