第396話「だが、お断りします」
「リオネル君、この世で一番大事な金を稼ぐ為、私と君で協力し合い、共存共栄でいきませんか?」
そう言ったアウグストは、再び、面白そうに「にっ」と笑った。
アウグストの言っている意味は、何となく分かる。
だが、リオネルは更に尋ねる。
「協力し合い、共存共栄……マスター、それはどういう事でしょうか?」
「はい、リオネル君がお金をたくさん稼ぐ為、この私以下フォルミーカ支部が総力をあげ、協力をするという事です」
対して、アウグストは即座に答えたが、リオネルは満足しない。
更に突っ込む。
「マスター、申し訳ありませんが、そのおっしゃりかたでは、イメージがわきません。具体的に教えて頂けますか」
ここまで聞き、アウグストは初めて内容を話す。
「はい、簡単ですよ。リオネル君が効率よく稼げる依頼をギルドから特別に発注し、人的なサポートも行います。そして、依頼一件につき、私の権限でインセンティブ……割増の報奨金も支払います」
「成る程、至れり尽くせりですね。依頼の発注は分かりますが、人的サポートとインセンティブをもう少し詳しく教えてください」
大喜びするかと思いきや、至って冷静。
淡々と尋ねるリオネル。
アウグストは、少しいらっとし、眉間にしわを寄せながら、
「ははは、良いでしょう。人的サポートは敏腕の専任業務担当者をつけます。インセンティブは、完遂したら報奨金の5%を別途付加し、お支払いしますよ」
条件は納得出来る。
アウグストの言う内容通りになれば、とても『うまい』話である。
しかし、「美味しい話には裏がある」ともいう。
それゆえ、リオネルは、すぐにOKはしない。
うかつ者なら、すぐに食いつきそうなのだが。
「でも、マスター、これって、何か条件がありますよね?」
アウグストは肝心な事を告げていない。
発する波動が、隠し事のある事を示していた。
冷たく微笑むアウグスト。
「ふふふ、さすがです。やはりリオネル君は鋭いし用心深いね。私は代償もなしに、好条件は出さないのですよ」
対して、こちらも柔らかく微笑むリオネル。
「では、マスター。その代償を教えてください。その上で考えます」
「良いでしょう。用心深く慎重なリオネル君に敬意を表し、更にボーナスもつけましょう」
「ボーナス? ですか」
「ああ、君へ出す条件はですね、半年以内で10件の依頼完遂です」
……この半年間以内で10件の依頼発注に裏があった。
一見、簡単そうだがそうではない。
アウグストは、極めて難度の高い依頼をリオネルに出し、
完遂させるつもりはないのだ。
「半年以内で10件の依頼完遂ですか?」
「はい、たったそれだけです。10件の依頼を完遂したら、報奨金に、5%のインセンティブ、それ以外に別途金貨1万枚をボーナスとしてお支払いします。更に当フォルミーカ支部サブマスターの座もつけましょう……どうですか?」
「マスター、本当に凄いですね」
「はい、こんな破格の好条件、私は誰にも出した事はありません。リオネル君だけです。半年以内で10件の依頼完遂など、君にとっては造作もない事でしょう?」
どうだあ!
と、どやがおのアウグスト。
これでもかという、大サービスである。
対して、リオネルは柔らかく微笑み……
「はい、マスター。半年間で10件の完遂に対し、ここまでの好待遇は、ギルドが発注する依頼の内容にもよりますが、確かに素敵な話ですね」
そう言いながらリオネルは、アウグストの考えた『からくり』をほぼ見抜いていた。
一方、アウグストの『どや顔』は更にビルドアップ。
「ははは、そうでしょう? 本当にリオネル君だけの大サービスですよ!」
しかし、しかし!
「だが、お断りします」
笑顔でリオネルは、アウグストの提案を固辞した。
青天の霹靂!
アウグストのショックは半端ではない。
「な、何~、だ、だが断るだとお!?」
信じられない!
こいつは、大金と栄誉で全くなびかないのか?
と、アウグストの顔のは書いてあった……
「はい! お断りします! 自分はじっくりのんびり、フォルミーカの迷宮を探索したいので! 本当に申し訳ありません!」
にこにこ笑うリオネルは、しれっと言い放ち、一礼していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルが断った直後……
アウグストは、口八丁手八丁で、何とか説得しようとした。
だが、断る! という、リオネルのスタンスは全く変わらなかった。
しかし、アウグストは激高したりはしなかった。
性格が元々冷静沈着な事もあるが、リオネルの笑顔が、
アウグストのいらだちを、大いにやわらげたのである。
そして、アウグストは完全に敗北を認める。
「ははは、完敗です。全く抵抗出来ずに負けましたよ、リオネル君」
「申し訳ありません」
「仕方がありませんね。君はランクAだから、ギルドの規定で専任の業務担当者はつけさせて貰いますよ。それと君から、クランを組むメンバーの話が一切出て来ない。もしも心当たりがないのなら、私の方で、ウチの支部所属のランカー達にあたってあげましょう」
しかし、
「マスター、ご配慮くださりありがとうございます。しかしメンバーのご手配は不要です。なぜなら自分は、召喚する仲間がおりますので、彼らとフォルミーカの迷宮へ挑みたいと思います」
「メンバーの手配は不要!? 召喚する仲間!? 君は魔物か、使い魔を召喚して戦うというのですか?」
「はい、フォルミーカに比べ、規模は比べ物にならないと思いますが、ソヴァール王国英雄の迷宮にて、彼らとともに戦いましたから」
「むむむ……そうですか」
「はい、専任の業務担当者さんだけ、ご手配の方、何卒宜しくお願い致します」
「わ、分かりました!」
「自分なりのやり方で、フォルミーカの迷宮を探索し、冒険者ギルドに貢献しますよ」
「むう! リオネル君に、き、期待しています」
「はい! マスター、ありがとうございます! 頑張ります!」
百戦錬磨のフォルミーカのマスター、アウグスト・ブラードも、
たぐいまれな全属性魔法使用者、
リオネル・ロートレックに一本も二本も取られ、やり込められてしまったのである。
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