第382話「しかし! 一直線に伸びる炎は、リオネルに全く届かない」
『ふむ、しかし、結局お前は、ファイアドレイクが棲むこの原野へ、足を運ばなかった……それが何故なのか、私には分かったからさ』
パイモンは言い、にっこりと笑った。
『……………………』
対して、リオネルは無言であった。
今居る原野へ来なかったのは、当然リオネルの意思である。
しかし、相手が誰であれ、敢えて第三者へ告げるべき事ではない。
それゆえ、無言……なのだ。
無言のリオネルを見て、パイモンは話を続ける。
『リオネル、お前はファイアドレイクについて、個体の知識、特徴は事前に把握していたが、この者自体に関し、いろいろと調べた』
『……………………』
『この者が、人間の時間にして300年余り、この原野に棲んでいる事、その間、挑んだ者こそ全て倒されたが、それ以外は、自ら人間を虐げない事を。専守防衛に徹している事を』
『……………………』
『それゆえ、強力な魔力を放つお前が、原野へ赴く事により、戦わずとも、ファイアドレイクを刺激する事を避けたのだ』
『……………………』
『好奇心が原因で、余計ないさかいをおこし、付近の人間へ、害を及ぼさぬようにな。つまり、己の気持ちを抑え、自重したのだ』
『……………………』
『しかし、リオネル。お前はその事を敢えてこの場で私へは言わなかった。もしも言えば、己を称える事……つまらない自慢になると思ったからだ』
『……………………』
『あからさまに己の力を誇る、……自慢する行為は、リオネル、控えめで奥ゆかしいお前の最も嫌うところだ』
『……………………』
『ふふふ、沈黙は肯定の証だと言う。私の言う通りであろう』
『……………………』
『まあ、良い。リオネル、お前の望み、叶えてやろう。我が眷属、ファイアドレイクと戦わせてやる』
『……………………』
『但し! お前が勝っても、負けても恨みっこなし。付近の住民に害は為さぬ。私が火界王の名に懸け、約束しよう』
『……………………』
ここで、リオネルは大きく頷いた。
『……分かりました。やりましょう』
リオネルがあっさりOKした事に、パイモンは少し驚いたようだ。
『ほお、そうか、勝負を受けるか、リオネル』
『はい、俺がファイアドレイクと戦わないと、パイモン様から火の加護は与えない。そのような話でしょう?』
『うむ、良く分かっているではないか。その様子だと、「私が望む落としどころ」も見えているようだな?』
『……………………』
リオネルは、パイモンの問いかけに答えなかった。
無言、そして笑顔で頷いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルとファイアドレイクは対峙し、にらみ合う。
ふたりの上空、遥か高い上空から見守るパイモンは、面白そうに笑う。
『ふふふ、人間が行う「試合」ではないが、このパイモンが「審判」とやらをしてやろう』
『……宜しくお願い致します』
リオネルは、深く一礼した。
一方、ファイアドレイクは、微動だにしない。
じっと、リオネルを見つめている。
『さあ! 戦いを始めるが良い!』
ぐはあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
主パイモンに命じられ、ファイアドレイクが雄叫びを上げる。
行くぞ!
とでも言うように。
しかし、リオネルは『仲間』達を呼ぶ気配がない。
パイモンは怪訝な表情となる。
『どうしたリオネル、「従士」達を呼ばないのか?』
『はい、呼びません』
『むう……まあ、良い。戦ってみせよ』
『はい、戦います』
と、そこへ、いきなりファイアドレイクが、火の息を吐きかける。
灼熱の炎が、まともにリオネルへ、襲いかかる。
しかし!
一直線に伸びる炎は、リオネルに全く届かない。
当然、リオネルも涼しい顔だ。
その秘密をパイモンはすぐに見抜いた。
リオネルの身体が、まばゆく発光していたからだ。
『ほう! やるな、リオネル。すかさず魔法を発動したか! それも複数だ』
パイモンは言い切るが、リオネルは無言。
答えない。
『…………………』
『究極の防御魔法、破邪霊鎧を発動。加えて、複合属性精霊魔法もか! 身にまとう聖なる風へ、超低温の冷気を加え、炎を寄せつけぬ強固な盾としておるわ』
パイモンの見抜いた通りである。
リオネルは、まず破邪霊鎧を発動。
更に、ふたつの属性魔法を組み合わせ、使い勝手の良い、独自の魔法を生成、行使していたのだ。
ぎえあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
ここでいきなり!
ファイアドレイクが悲鳴をあげ、もがいた。
そう!
リオネルの次の一手が打たれていたのだ。
ファイアドレイクは身体が縛られ、動かないらしい。
リオネルが更に行使したのは、地の最上級精霊ティエラから伝授された、
地の究極魔法、『大地の束縛』である。
大地に身体を接する者は、しばしの間、行動不能となる支援魔法であり、
その威力は絶大。
巨大なファイアドレイクでさえ、身動き出来なくなるのだ。
『ふむ、次は、こいつに、とどめを刺すのかね、リオネル』
しかし、パイモンの問いかけに対し、
リオネルは攻撃に転じず。
動けないファイアドレイクを見守り、柔らかく微笑んだのである。
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