第376話「窮鳥《きゅうちょう》、懐《ふところ》に入れば猟師も殺さず」
『うっめ~!! 何だ、コレ!? おいら、こんなの初めて食うよお!!』
広げて貰った敷物の上で、
リオネルから貰った、人間が作った焼き菓子を、ばくばく頬張るピクシーのジャン。
現在、ジャンの身体は発光していない。
素の姿がリオネルの前にさらされている。
ジャンは男子らしい。
身長は、30cmあまりしかない。
髪型はカールした短い金髪。
目は切れ長、鼻筋は通っている。
細身の人型の肢体に可愛いシャツを着て、短い半ズボンをはいているジャン。
しかし背中には、薄い透けた昆虫のような羽が2枚生えていた。
但し、ピクシーは常人には見えない。
第三者の人間では、よほどの高位術者ではないと、ジャンの姿を認める事は不可能だ。
さてさて!
よほど腹が空いていたのだろう。
ジャンの食欲が止まる気配がない。
焼き菓子を頬張るジャンの周囲には、リオネルを始め、
擬態した魔獣ケルベロス、オルトロス、鳥の王ジズが見守っている。
リオネルが街道で、ジャンを諭し、反省し謝罪してから約30分後……
ここは、先ほどリオネル達が休憩したのとは違う『空き地』
街道では、落ち着いて焼き菓子を食べられないだろうと、リオネルが思いやり、
無人なのを確認してから、改めて移動した。
そして、ケルベロス達を呼び戻したのである。
『紅茶もあるぞ。飲むか?』
『ああ、くれよ。熱くない少しぬるめの紅茶が良いな』
礼を言い、無礼を謝罪はしたが、相変わらずジャンは偉そうであった。
しかし、リオネルはジャンの言う通りにしてやる。
『分かった』
リオネルはカップにぬるめの紅茶を注ぎ、差し出した。
ジャンは顔を突っ込み、ごくごく飲んだ。
『ぷっは~。美味かった! 腹いっぱいだあ!』
『満足したか?』
『ああ、満足した! 何せ100年ぶりのメシだからなあ』
『良かったな』
『ああ! サンキューな!』
『よし! じゃあ、質問だ。ジャン、お前何故100年間も宝箱に閉じ込められていたんだ?』
『…………………』
しかし、リオネルの問いかけに対し、ジャンは答えなかった。
何か、「わけあり」な理由があるのかもしれない。
『どうしてか、言いたくないのか?』
『ああ! 言いたくない! ぜって~言わねえ!!』
リオネルに助けて貰い、メシも食わせて貰ったが、頑ななジャン。
苦笑したリオネルは、改めて名乗る。
『言いたくないのなら構わない。ジャン、今更だが、俺はリオネル・ロートレック……魔法使いだ』
そして居並ぶ仲間達を指し、
『そこで、お前を見ているのは、さっきお前が話したケルベロス、そして弟のオルトロス、ジズだ』
『え!!?? オ、オルトロスにジズうう!!??』
『ああ、そうだよ』
『おい! リオネル!』
『何だい?』
『ケルベロス、オルトロス、ジズって! どうして! お前! そんなに凄い奴ばっかり連れているんだ! おいらへ教えろ! こらあ!』
大いに驚愕したジャンは、質問に対し質問で返して来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先ほど、『教育的指導をした』のは兄ケルベロスであったが……
ジャンの態度に「切れた」のは弟のオルトロスである。
『おい! くそ妖精! 何だ? その態度は?』
オルトロスが言うと、ジャンは反抗的な目つきで叫ぶ。
『何だよ!』
しかし、オルトロスには逆効果。
凄まじい殺気を発する。
『黙って聞いてりゃいい気になりやがって! 助けて貰った上、メシも食わせて貰ったのに、主に対し、感謝と敬いの心を持てよ! こら!』
『ひえええええ!!!』
驚き、悲鳴を上げたジャンは、ぱったり倒れ、気絶してしまった。
『ふん! 馬鹿が!』
『自業自得だな』
気絶したジャンへ、冷たい眼差しを向ける魔獣兄弟。
ジズも我関せずという雰囲気を醸し出していた。
『まあまあ……』
苦笑したリオネルは、特異スキル『リブート』レベル補正プラス40を使った。
再起動……したジャンは、ゆっくりと目を開けた。
『大丈夫か? おい』
『!!!』
完全に目を覚ましたジャンは、ケルベロス達の冷たい視線を受け、
『ひええ!』
慌てて、リオネルの背後へ逃げ込んだ。
窮鳥、懐に入れば猟師も殺さず。
追いつめられて逃げ場を失った者が救いを求めてくれば、見殺しにはできないという例えである。
そんな気持ちとなったリオネルは振り返り、
怯えるジャンに回復魔法『全快』をかけてやった。
瞬間!
ジャンの体力は満タン、気力も満ち溢れた。
『!!!!!』
再び大いに驚くジャン。
リオネルが尋ねる。
『おい、ジャン。妖精の国って、アヴァロンだろ?』
捕捉しよう。
アヴァロンとは、妖精の王オベロンと女王ティターニアが治める
妖精達の国。
現世ではなく異界にあるとも言われる。
『…………………』
ジャンは答えない。
リオネルは構わず、話を続ける。
『俺はアヴァロンの場所を知らないし、行く方法も知らない。でも、この現世とつながった場所がお前に分かるのなら、そこまでは送って行ってやろう』
ここでようやく、ジャンは言葉を発する。
『おいら……アヴァロンへは帰れないんだ』
辛そうに顔をしかめ、ジャンは絞り出すように告げたのである。
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