第347話「不思議な夢②」
深く頭を下げたロランは、大きな声ではっきりと礼を言う。
『リオネル君、丁重に弔ってくれて本当にありがとう! 先ほど君が大地を清め、心から祈ってくれたお陰だ。僕は生前の執着が解け、ようやく天へ還る事が出来る』
『は?』
弔ったから?
眠る大地を清めた?
心から祈ったから?
て、天へ還る?
生前の執着?
リオネルには全く言葉の意味が分からない。
いきなり現れて、何故そのような事をロランが言うのかも不明だ。
訝し気なリオネルへ、顔をあげたロランは微笑む。
顔をあげた拍子に、法衣の頭衣がめくれ、
ロランの素顔が露わとなる。
露わになったロランの風貌は、
30代半ばくらいの、『大人の男』というところだろう。
凛々しく鼻筋が通った端整な顔立ちだが、けして冷たい感じはしない。
カールした茶色の巻き毛が程よい柔らかさを醸し出していた。
第一印象だけなら、悪い人では……なさそうだ。
安堵したリオネルに対し、ロランは申しわけなさそうに告げる。
『リオネル君、悪いが、あまり時間がない。本当は1週間ぐらいは君とじっくり語り合いたいが』
『時間が……ないのですか?』
『ああ、たった1日もない! 今夜しかないんだ』
『今夜しかないのですか?』
『ああ! 今夜だけだ! しかし君には僕の事情を伝えた上で、しっかりお礼をしなければならない。だから君の心へ直接、素性と感謝の思いを刻もう』
ロランは一方的に且つ意味ありげにそう言うと、無造作に指をピンと鳴らした。
何か、魔法を使ったらしい。
どうやら……
ロランは相当な腕を持つ上級魔法使いのようだ。
『あ!』
何故ならロランが指を鳴らすと同時に、リオネルの心を不思議な感覚が襲ったからだ。
否、襲ったというのは妥当な表現ではない。
何故か上手く表現は出来ない。
だがリオネルは、瞬時に『ロランの事情』を全て知った。
……冒険者ロランは数百年前、この付近で命を落とした。
王都で暮らす家族――愛する妻と可愛い娘を養う為……
高い報酬と引き換えに、遥か遠隔地の依頼を受け……
依頼遂行の最中、不慮の事故により無念のうちに死んだ。
そう、目の前のロランはあの、
ソヴァール王国建国の英雄アリスティド同様、『死人』なのだ。
実態を持たない魂の残滓……
つまりは人外たる『亡霊』である。
不死者の一種である亡霊は生者を呪い、
挙句の果てに死へ至らしめる事もあるという……
しかし不思議な事にロランは、アリスティド同様に、怖ろしくは感じないし、
全然おぞましくも見えなかった。
却って逆である。
生気のない亡霊のはずなのに……不死者なのに……
まるで敬愛する身内か先輩の様に、気安さと温かさを感じるのだ。
実は……
リオネルが先ほど綺麗に清掃した古びた無縁墓地に、
ロランは無名の冒険者として葬られ、墓参し弔う者もなくひとり寂しく眠っていた
しかし残して来た家族に対する未練からまともに昇天出来ず、
怨霊に近い魂の残滓として、葬られた墓に縛られていたのだ。
さまよえるロランの魂は……
リオネルが心をこめた供養により、呪われた地縛から解放され安堵し、
ようやく天へ家族の下へ還る事が出来るのだ。
そう、数百年の長き時間の影響はロランの家族にも及んでいる。
既にロランの妻と娘は亡くなり天へ還っていたから。
突如襲った残酷な運命により、離れ離れになったロラン一家は……
天において、また一緒に暮らす事がかなう……
そう、亡霊のロランはお礼を言いに、リオネルの夢の中へ現れたのだ。
リオネルには、何故なのかはっきり分かる
……亡きロランの大きな感謝の気持ちが……
歓喜の波動が、自分の心へ伝わって来る事が。
『リオネル君、君は心と心の会話……念話にも慣れているようだね』
『はい、そうですね』
『君の本名は……リオネル・ディドロ君だね。そして君は、チートスキル『エヴォリューシオ』『見よう見まね』他多くのスキルを所持。素晴らしい才能を持つ魔法使いだ!』
いきなりロランから指摘され、リオネルは驚いた。
『!!??』
ロランの指摘は更に続く。
『そしてリオネル君は、この世界でも稀有な全属性魔法使用者。攻防の魔法、武技にも優れ、戦闘能力も凄まじい。18歳の若さで経験もたくさん積み、冒険者ランクはAだ』
『………………』
『ソヴァール王国建国の開祖、英雄アリスティド様、そして地、風という偉大なる精霊達から祝福を受け、転移、飛翔という失われた古代魔法を使いこなす!』
更に更にズバリ指摘され、リオネルは沈黙。
無言を貫く。
『………………』
『ふふふ、沈黙は肯定の証という。何故、僕が君の本名を含め、秘めたる事情を知っているのか? という疑問の答えは簡単だよ』
『簡単?』
『うん、申し訳ないけど、念話から派生するサトリの能力を使った。時間がないから君の心を読んだのさ。だから僕は、君の素性や事情を知る事が出来た』
『でもロランさん、俺……心を読まれないように、魔法で厳重にガードをしていたつもりだったんですが』
『ああ、悪いな。どうしても君にお礼を言いたかった。僕の身の上とか、ややこしい話を短くする為、禁呪を使い、君の心のカギを開けさせて貰った』
『ややこしい話を短くする為? 禁呪を使い、俺の心のカギを開けた? そうだったんですか、成る程ですね』
『うん、リオネル君、そして今、君と僕が居るここは夢の世界だ、現在君は眠っている』
『ここはやはり夢の世界ですか。でもリアルですね』
リオネルは改めて、周囲を見回した。
念の為、頬もつねってみる……痛い!
確かに痛い!
感覚がしっかりある!
この世界に来た当初も感じた。
リアルで夢とは到底思えない。
そんなリオネルの心をまたも読んだのか、ロランは種を明かしてくれた。
『ああ、僕は夢魔法を使って、君の見ている夢の世界で話している』
『夢魔法?』
『もしかして宮廷魔法使いである君のお父さんから聞いた事があるかい? 夢魔法ともいうよ』
『…………』
夢魔法など父から聞いた事はない。
『まあ、リオネル君が知らないのも無理もない。夢魔法とは、本来は人外たる夢魔が使う。人間の心へ忍び込み騙す為の、禁断の魔法、つまり禁呪さ。だから僕はガードした君の心のカギを開ける事が出来た』
『…………』
『リオネル君。君は転移、飛翔という魔法を既に習得。時間と距離の壁を超越しつつある。本当に素晴らしいと思う』
『……いえ、もっと頑張らないと……まだまだですよ』
『やはり謙虚だな、君は。……という事で話を戻そう。そんなリオネル君は、運命に導かれ、僕を弔い、呪縛から解放してくれた。本当に感謝している』
『運命というか……たまたまだと思いますが、良かったです』
『うん! 良かった! で、本題へ入ろう。僕を解放してくれたお礼として、禁呪、夢魔法をリオネル君、君へ託したい!』
『え? 俺へ? 禁呪の夢魔法をですか?』
『ああ! 夢魔法はね、転移、飛翔以上に、時間と距離を超越出来る! 遠く離れた人の夢に一瞬で現れる事も可能さ! こうやって話したり意思疎通も出来る! 魔法使いとして、興味があるだろう?』
ロランは、そう問いかけると、にっこり笑ったのである。
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