第285話「最優先は生き残る事」
冒険者ギルド総本部を出て、
リオネルとジェロームは、ワレバットの街各所を回った。
以前、リオネルはモーリスにワレバットの街を案内して貰った。
あの時は、いろいろモーリスと語り合った。
楽しい思い出が心の中へ刻まれている。
しかし今回は、自分がジェロームを案内しているのだ。
時が流れたんだ……と、改めて思う。
ジェロームの希望を聞き、リオネルは、武器防具屋、魔道具屋、魔法薬屋、仕立て屋、古道具屋、古着屋などを回る。
更に食料品店、生活必需品雑貨の店、レストラン、酒場、カフェも。
他にも宝石店、金銀細工店、質屋、金貸し屋などは勿論、カジノも所在を教える。
日が暮れて来て、説明をした上で、
普段なら近づかない治安の悪い地区も敢えて、足を踏み入れる。
柄が悪い、愚連隊のような男どもが、罵声を浴びせながら大勢近寄って来て、
緊張したジェロームが身構えた。
しかし、リオネルは手でジェロームを制し、
向かって来る男どもへ「びしっ!」と鋭い眼差しを投げかける。
「ひええええ!」
「うわあああ!」
「助けてくれえ!」
「ママ~!」
すると男達は驚き、情けない悲鳴を上げ、一目散に遁走した。
驚いたのは男達だけではない。
ジェロームも同様である。
「お、おい! リオネル、い、今!? な、な、な、何をやった!?」
「ああ、『威圧』の技だ」
「い、い、威圧ぅぅ!?」
「ああ、威圧は魔力や闘気を使い、相手に恐怖を覚えさせる特殊な技だ。レベルの縛りはあるが、便利だよ」
「便利って……」
「王都やこのワレバットも基本、正当防衛がルールだろ。威圧が使えれば、相手の身体に傷をつけ、過剰防衛になる事はない。但し相手のメンタルにダメージは喰らわせるけどな」
「い、いや! そうじゃなく! 威圧の技って、騎士でも相当な上位レベルの達人じゃないと使えないぞ。少なくとも俺は見た事がないし、使う人の事も聞かない」
「そうか? 俺は修行で習得して、ひんぱんに使ってるけどな」
「おいおい! 修行って……リオネル、お前とんでもなく凄いよ! 本当に底が知れないな……」
再び、リオネルの強さを目の当たりにして、大いに刺激となったジェローム。
対して、リオネルは笑顔で、
「それより、ジェローム。どこかでメシにしよう。歩き回って腹減っただろ?」
「はあ!? それよりどこかでメシ? い、いや! リオネル! テイクアウトにしようぜ!」
「テイクアウト?」
「ああ! 案内して貰い、ワレバットの街の勝手はある程度分かったし、早くお前の家へ戻り、もっともっと話をいろいろ聞きたい。今後の予定も立てたい!」
『食事提案』を聞いたジェロームは、「ぶんぶん!」と首を横へ振り、
リオネルへ、早急の帰宅を促したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
帰宅途中に、リオネルがたまに寄る美味い居酒屋があり……
弁当を売っていたので、多めに倍の4人前を買い、ふたりは帰宅した。
これまた途中の肉屋で購入した肉塊をケルベロスへ与え、労わり、警備を頼むと、
リオネルとジェロームは、いろいろと話し込む。
刺激を受けたジェロームは、リオネルの持てる能力を知りたがった。
自分にも習得出来そうな技があれば、教授して欲しいと願ったのである。
ジェロームは、素直で誠実な男子である。
いずれ、自分の能力をある程度、カミングアウト出来るかもしれない。
しかし、それはまだ先の話だ。
親しくはなったが、現時点では、まだ『ほどほど』が良いとリオネルは決めた。
なのでリオネルは、冒険者ギルド総本部において、オープンにしている、
公式プロフィールのみ、ジェロームへ伝える。
ランクAの冒険者の自分は基本的に風の属性魔法を使う魔法使いであり、
他に回復、葬送、召喚の魔法等を行使する。
特技は多数あり。
随時教える。
乗馬も御者もこなす。
剣技は我流。
格闘は、創世神教会の元武闘僧から教授された拳法、破邪聖煌拳を使いこなす。
身体能力は謙遜し、「そこそこだ」と言っておく。
今まで戦った魔物はスライム、上位種を含めたゴブリン、オーク、不死者各種、それ以上強い相手とも戦ったと「ぼかして」おく。
これも偽りではなく、事実である。
果たして……
リオネルの考えは正しかった。
公式プロフィールのみでも、ジェロームはお腹一杯、恐れ入ってしまったからだ。
18歳の同年齢だし、身分はジェロームが上。
言いにくいが、師匠として、リオネルは伝えるべき事は伝えなければならない。
「ゴブリンと戦っているのを見たが、俺はジェロームの持つ実力は相当だと思う」
「そ、そうか!」
リスペクトするリオネルに認められ、ジェロームは嬉しそうであった。
「だが、冒険者の戦い方は騎士とはまるで違う。主人を護り、勝つ為に手段を問わない従士の戦い方だと思った方が良い」
「そ、そうか……」
「明日から、剣技、格闘の講座を受講すると分かって来る。重ね重ね言っておくが、冒険者の戦い方は、誇り高い戦い方じゃない、だから嫌気がさしたとか、言うなよ」
「あ、ああ、言わないよ。今の俺は騎士ではなく、冒険者だから」
「うん、正々堂々と戦うマインドは確かに大事だ。しかし相手は誇りなど尊重しない凶悪な賊や魔物、人数的に不利な場合も多い。誇りにこだわっていては、たちどころに命を落とす」
「成る程」
「最優先は生き残る事。次にどのような手段を使っても勝つ事。それを基本的に考えるんだ」
「了解!」
「まずは今日申し込んだギルドの講座を終えてから、実戦プランを考えよう。俺も召喚と付呪の講座を受ける。頑張れよ、ジェローム」
リオネルが励ますと、
「おう! ありがとう、リオネル!」
とジェロームは、晴れやかな笑顔で頷いたのである。
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