第259話「だが、断る?」
一体、何が理由で、ローランドから呼び出されたのか、
リオネル、ミリアン、カミーユは気になった。
「うむうむ、大丈夫、心配ないよ」
モーリスはにっこりと柔らかい笑顔で応えた。
「いや、逆さ。本当に良き話となった」
「良き話?」
話が抽象的過ぎて、リオネル、ミリアン、カミーユにはわけが分からない。
念話が使えるリオネルも、さすがにいきなりモーリスの心を読んだりはしない。
緊急事態や特別な理由がない限り、リオネルはやたらに人の心をのぞいたりはしないのだ。
「うむ! ローランド様にはお前達に話をする許可を取った。というか、逆に、深くかかわる話だ。まずはひと通り話すから質問は後にしてくれ」
と、前置きし、モーリスは話し始める。
「実はな、少し前に王国から辞令があり、ローランド様がキャナール村の新たな領主となった」
ローランド様が!?
キャナール村の新領主に!?
3人は驚く。
しかし、リオネルは驚いた後、冷静に分析した。
推測なのだが……
ゴブリンにおびやかされ、存亡の危機に陥っていたキャナール村。
……幸い、リオネル達の尽力で救われたが、
そこまで放置していた領主は責任を取らされ、『更迭』となったのだろう。
そしてワレバットと周辺の統治が安定していて、
最近特に町村の復興に実績のあるローランド様に、白羽の矢が立った!
そうに違いない。
しかしローランド様は相当な数の町村を統治していらっしゃるけど、
キャパは大丈夫なのだろうか?
そんなリオネルの推測は当たっていたらしい。
「ローランド様はな、王国からぜひにと乞われ、キャナール村の領主をお受けになった。しかし、さすがに多忙過ぎて、手が行き届かない」
「………………」
「そこで町村の復興に長けた私モーリスの存在を思い起こした。政務を代行する『管理官』を打診し、私と条件面で合意したら命じようとお考えになった」
モーリスをキャナール村の管理官に!?
これは、とんでもない栄転といえるだろう。
と、リオネルは思った。
モーリスの話は更に続く。
「しかもだ。管理官赴任にあたり、高給を出すとおっしゃってくれた上、これまで通り、冒険者、商人、そして農民も兼務して構わないともおっしゃって頂いた。むしろその方が、キャナール村の発展は、円滑に運ぶとな」
まさに!
まさに渡りに船、の話である!
モーリスがミリアンとカミーユを伴い、キャナール村へ移住する大きな理由になるし、司祭兼村長の親友パトリスも大喜びするに違いない。
管理官が地元に居れば、村民達だって心強いだろう。
これは文句なく、OKするしかない。
リオネルも、ミリアンもカミーユも、
エステルも大きく頷き、同意していたが……
「だが、私はお断りしたよ」
と、モーリスは笑顔を崩さず、しれっと言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最高の条件、待遇といえるキャナール村の管理官を断った!!??
何故、何故、何故に断った!!??
全員が、大きな衝撃を受けた。
特に、ミリアンとカミーユのショックは大きい。
「師匠!」
「師匠!」
「おいおい、どうした、ふたりとも」
「ど、どうしたじゃないわ! だ、だが、断る! って、どうしてぇ!?」
「ね、姉さんの言う通りっすう!! だが、断る! って、どうしてっすかあ!?」
「ははははは、だが! 断る! と、人生で一回くらいは、この決めゼリフを言ってみたくてなあ」
「い、一回くらいは、この決めゼリフを言ってみたくって!? 何、それぇ!?」
「決めゼリフを言ってみたくてとかあ! 俺も姉さんと同じで、わけわからないっすう!?」
「ええっと……モーリスさん」
リオネルも、モーリスの決断の根拠が見えない、分からなかった。
しかし、モーリスの笑顔は変わらない。
話の冒頭に、
「いや、逆さ。本当に良き話となった」
というコメントも気になった。
「ミリアン、カミーユ。もしかして、モーリスさんの話は、まだまだ続きがあるんじゃないのか?」
「え? リオさん?」
「続きっすか?」
「ああ、とりあえず最後まで聞こうよ」
リオネルの言葉を聞き、モーリスも大きく頷く。
「ははは、さすが、リオ君。確かに私の話には、まだ続きがあるぞ」
モーリスがリオネルの言葉を肯定。
全員は改めて、モーリスの話を聞く事にした。
「私はな、管理官は断った。だが、副管理官を志願したんだ」
副管理官!?
リオネルはピンと来た。
だんだん話が見えて来た。
しかし、ここは、モーリスの話を最後まで聞いた方が賢明である。
「うむ、私はな、もしもキャナール村の管理官を新たに任命するのであれば、ぜひ! 司祭兼村長のパトリス・アンクタンを推薦したいと、ローランド様へお願いした」
やはり!
と、リオネルは思ったが、引き続きモーリスの話を聞く。
「何故ならば、これまでパトリスはキャナール村の為、命と身体を張り、粉骨砕身で働いて来た。今の平和なキャナール村があるのはパトリスの功績だ! 親友云々を差し引いても、パトリスの人柄、手腕は、文句なしだと断言出来る!」
「………………」
「私はな、そんなパトリスの功績を奪う、『良いところ取り』をする上席になどなれない」
管理官は村長の上席となり、命令する立場。
長年……
キャナール村へ尽くした親友パトリスへ、偉そうに指示をする。
モーリスはそんな地位になりたくなかったのだ。
「………………」
「私は今後、陰になり日向になり、副管理官として、パトリスを助け、支えて行きながら、キャナール村の為、村民の為に尽くしたいと申し上げた」
話は見えた!
驚き、興奮し、モーリスを責めていたミリアンとカミーユも、
感動し、目に涙を浮かべていた。
リオネルも同じ思いだ。
こうなると、結果は推して知るべしである。
「ローランド様には、すぐ、ご納得して頂いた。パトリスが了解すれば、私の望み通りにするとおっしゃって頂いたよ!」
モーリスは、晴れやかに笑うと、再び大きく頷いたのである。
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