第251話「さあ! ようやく転移魔法の修行が出来る!」
宵の口まで、村の中央広場において、
宴会を兼ね、村民全員参加のオーク討伐慰労会が行われた。
……夜が明け翌日、早朝から午前中まで、
安全になった農地で、村民達は今までの苦しさを晴らすかのように、
明るく朗らかに農作業を行った。
一方、リオネル達は午前中が半休となった。
早めにランチは済ませてある。
……そして午後から作業という事で、
お昼過ぎ、リオネルはひとり農地に居た。
昨日、リオネルが分担した仕事を行う為である。
追加発注を受けた分も含めた、新規の農地開拓、
その農地の畝づくりも併せて、リオネルが行う。
また既存、新規の農地を合わせ、
農地全体を外敵から防ぐ、防護用の岩壁の建設と整備も行う。
ちなみに、こちらは後から、『モーリスが行った事』にして貰う。
作業を円滑に行う為、本日のみ村民達の農作業は午前のみで終了となり、
周囲には誰も居ないのだ。
というか、そのような状況にする為、リオネルが敢えて段取りを組んでいた。
さてさて!
村を出る前から、索敵は張り巡らせているが、リオネルは更にギアを上げた。
周囲に敵は居ない。
少し離れた場所に、鹿らしき反応、近くの木の上にリスらしき反応があるだけだ。
なので次に、魔獣ケルベロスを召喚する。
その後で、収納の腕輪からアスプも出す。
『召喚!』
と、心の中で短く叫び、召喚魔法を発動すると、
リオネルの少し前の地に輝く『魔法陣』が浮かび上がった。
そして魔法陣の中から、一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来る。
体長は軽く2m、体高は1mを超えていた。
「うおん!」
短く吠えた犬――ケルは、リオネルを見つめ、念話で言う。
『主、待ちわびたぞ。……ここ最近、我はゆっくり英気を養い、万全だ』
『おお、ケル、万全か』
『うむ、パーフェクトだ。主も、いろいろあって、頼もしくなったようだな』
リオネルも、いろいろあって、とは含みのある言い方だ。
ケルベロスは、ソヴァール王国建国の開祖アリスティドの亡霊と、
リオネルが『邂逅した事』を知っているに違いない。
しかし、今まで何か、リオネルへ問いただして来た事はない。
それゆえ、リオネルも不明の点、尋ねたい事がなければ、
敢えて、ケルベロスに話す事は今のところはなかった。
なので、同じように含みを持って、言葉を戻す。
『ああ、いろいろあったよ』
『ふむ……貴方は、良き経験を積み、着実に成長している。我の主として、相応しくなりつつあるな』
『主として、相応しくなりつつあるか。……ありがとう、ケル。誉め言葉として、受け取っておくよ』
『うむ、主よ……我へ、何でも命じてくれ』
『ああ、ケル、俺はこれから農地の開拓を行い、その後に地の魔法で、防壁用の岩壁を生成する。周囲を巡回し、何かあったらすぐ報せてくれ』
『うむ、了解した』
『魔物や獣ならば、威嚇して追っ払って構わない。判断は任せるが、やむを得ない以外には、殺したり、怪我をさせるなよ』
『心得た! 何か、あればすぐ連絡する!』
『ケル、お前に配下として、アスプ4体を付ける。上手く連携を取ってくれよ……搬出!』
リオネルがキーワードを念じると、
左腕の収納の腕輪から、アスプ4体が飛び出して来て、
尾から、「しゅ~っ」と効果音を出し、リオネルに応えた。
ちなみに、2体は予備隊として残しておく。
『うむ、了解だ! ……アスプども! 行くぞ! 我の指示に従え!』
ケルベロスも応え、「わお~ん」と吠え、
アスプ4体は再び「しゅ~っ」と効果音を出し、
全ての魔獣が周囲の森、各所へ散って行った。
リオネル自身の索敵は張り巡らせたままであり、相変わらず異常はない。
「これでよしっと! 次はゴーレムだな。今日は労働オンリーで、戦闘は多分なしだけど、鋼鉄の魔導アタッチメントを装着させるから、鋼鉄タイプにしよう」
リオネルは、「搬出」と言い、鋼鉄タイプのゴーレムを5体出した。
ゴーレムの身体のどこかに、『真理』の魔法文字を改めて刻んである。
敢えて、額や心臓に刻まないのは、理由がある。
人型のゴーレムゆえ、心理的に人間と同じ弱点を攻めようとする、
敵の攻撃を受けても、「致命傷を喰らわないようにする」為だ。
「よし、お前達、農地に隣接する荒れ地の開拓作業だ! まずは、転がっている石をどかし、邪魔になる木を抜いて、片隅に寄せておけ」
「ま!」
「ま!」
リオネルの命令に従い、5体の鋼鉄製ゴーレムは人間らしからぬ短い声を発し、
粛々と作業を開始したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まだまだ経験が浅いが、リオネルのゴーレム制御は中々であった。
荒れ地の石、木々など障害物は取り除かれ、土だけ、綺麗な平地の状態となる。
ちなみに木を抜く際、枯らさないよう特に気を付けて抜いており、
農地から離れた場所へ移植しであった。
次にリオネルは、事前に用意しておいた、
鋼鉄製のゴーレム用の鍬と鋤を取り出した。
命令して、ゴーレム達5体、それぞれ自身で装着させる。
これもゴーレム制御の訓練を兼ねている。
話を戻すと……
ゴーレムが腕に装着したのは、『魔導アタッチメント』である。
ゴーレムを使役出来る術者が使う物であり、
例えば、今回のように術者が雇用され、農作業を頼まれた時、
腕に装着し、農地などを耕す時に使うものだ。
リオネルは、ワレバットの街へ帰還後、多くの品物を購入した。
これらの『魔導アタッチメント』もそうであり、
リオネルは街中の魔道具屋をめぐり、いろいろなタイプの、
ゴーレム用『魔導アタッチメント』を購入していた。
いろいろなというのは、
農作業用以外でも、道路工事用に、戦闘用、荷物運搬用など、
様々な用途と、素材、形状違いで、
購入した『魔導アタッチメント』は数十種類にも及んだからだ。
当然ながら、購入金額も結構な高額となったが、リオネルは全く気にしなかった。
今回の案件も含め、必ず、何かの役に立つはずであると確信している。
「よし! 次は荒れ地を耕せ! 耕したら、畝を作る!」
念の為、補足しよう。
畝とは、作物を植えつけたり種をまいたりする為、
畑の土を、幾筋も平行に盛り上げた場所である。
「ま!」
「ま!」
ゴーレムは先ほど同様、短く返事を戻すと、
後はひと言もは発さず、黙々と働き始める。
ざくざくざくざく!! ざくざくざくざく!! ざくざくざくざく!!
ざくざくざくざく!! ざくざくざくざく!! ざくざくざくざく!!
「よし、制御は上手く行っているな。周囲には相変わらず獣しか居ないし、俺も修行を開始しよう」
リオネルはそう言うと、軽く息を吐く。
「さあ! ようやく転移魔法の修行が出来る。何せ、ワレバットの街は人目があるからなあ」
念の為、再び周囲を見回した。
自分の他に居るのは、鋼鉄製ゴーレム2体だけ。
黙々と荒れ地を耕していた。
リオネルはもう一度息を吐くと、体内魔力を上げて行く……
そして、
「転移!」
と、言霊を詠唱すると、転移魔法は見事には発動。
リオネルの姿は、その場から、煙のように消えたのである。
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