第207話「覚悟を決めた!」
引き続き、毒と石化のフロア、地下7階層を進むリオネル達一行。
当然、依頼の遂行――地図の確認を丹念にしながら、歩んでいた。
……リオネルは思い出す。
モーリスは、こんな事も言っていた。
「英雄の迷宮、最下層までに出現する敵は、私は既に戦った事がある。戦う際のアドバイスもさせて貰いたい」と……
ここで、リオネルの索敵――魔力感知が敵を捉えた。
間を置かず、従士ケル――魔獣ケルベロスからも念話で連絡が入った。
『主……敵だ。いつものように初見の際は、敵の名と構成を伝えてやろう……アスプの小群だ……奴らのスペックは知識としてあるだろう?』
『ありがとう、ケル。ああ、アスプの知識はあるよ。敵の正体さえ分かれば充分だ』
『うむ……何か、あれば我へ命ずるが良い。……すぐに対応しよう』
『助かる!』
ケルベロスの連絡が終わると同時に、リオネルは振り向き、
モーリス以下4人へ言い放つ。
「全員! 聞いてくれ! 敵襲だ!」
「!!!!!!」
このフロアでは最初の敵襲と聞き、全員へ緊張が走る。
「敵は、アスプ3組のつがい、都合6体だ! 距離は約500m先! 奴らは毒息と睡眠誘因の視線攻撃を仕掛けて来るから要注意だ! ……各自、戦闘準備した上で、スタンバイしておいてくれ!」
確信を持ったリオネルの声に全員が応える。
「「「「了解!」」」」
ここでモーリスが、
「リオ君」
「はい!」
「アスプどもなら……何とかなるやもしれん」
「モーリスさん、何とかなる……とは?」
「うむ……古の時代に使われたという、奴らを支配出来る魔法の言霊がある!」
「え? 古の時代に使われた? 奴らを支配出来る魔法の言霊がある……のですか!?」
「ああ! 私が奴らと戦った後で知った『特別な言霊』さ。これまでに使った事がないのだが、試してみる価値はある!」
「な、成る程。トライアルアンドエラーですね」
「うむ、まさにトライアルアンドエラーだ。但し、言霊を使うのは、……『実験』の後だな」
モーリスは他者へ聞こえないよう、声のトーンを落とした。
「言霊を使うのは実験の後……ですか?」
「ふむ……リオ君の破邪魔法奥義『破邪霊鎧』の効果を試してからという事さ」
「な、成る程」
「なぜならば、このフロアに出現する敵の中で、アスプの毒息は最も毒性が低い。まずはトライアル戦という事で、リオ君が奴らの毒息に耐えられるか、試すんだ」
「成る程」
「まあ、アスプの毒が低いと言っても、このフロアに出現する他の奴に比べてという話さ。もし何の対策もしなければ、気絶した上、速攻、10分であの世行きだ、はははは」
「あはは、何の対策もしなければ、気絶した上、速攻、10分であの世行きですか? 怖いなあ……」
「大丈夫さ、『破邪霊鎧』を習得した上、毒、石化、それぞれ予防のポーションも摂っているだろう」
「はい」
「そして、いざとなれば、私がすぐ解毒のケアをする。……ちなみに『破邪霊鎧』を発動せずとも既に様々な『耐性』が身についているはずだ。だから発動前と後、ビフォーアフターで試してみれば良いと思うぞ」
「了解です」
「うむ、まあ未発動で問題なければ、ビフォーアフターに関しては、リオ君が考え、臨機応変に試してみると良い。ゴーチェ様から突っ込まれそうだ、あの特有の発光が目立つからな」
「はい、もろもろ、了解しました」
そう、モーリスの言う通り、耐性……どころか、
様々な攻撃が『無効化』となっている。
それゆえ、破邪魔法奥義『破邪霊鎧』レベル補正プラス40の、発動前と後、ビフォーアフターで試してみる事は事前にリオネルも決めていた。
しかし、モーリスは親身になってアドバイスしてくれた。
ここは、余計な事を言わず、礼を告げる一手である。
「モーリスさん、ありがとうございます!」
リオネルは、晴れやかな笑顔で、ていねいに礼を告げたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やがて……
コブラに酷似し、大きさはふた回りほど大きな魔物、アスプ3組。
都合6体の小群が現れた。
ギルドの図書館で読んだ古文書によれば、アスプは『つがい』で現れると言う。
記載通り、6体のアスプはそれぞれ2体ずつぴったり寄り添っており、
その全てが、リオネル達に向かい口を開け、威嚇していた。
よし!
まず未発動、通常時の『実験』である。
……爬虫類特有ともいえるアスプどもからの、『冷たい視線』を感じる。
結構なプレッシャーは感じる!
だが……眠気は全く誘われない!
大丈夫!
睡眠誘因は……無効化されている!
第一段階、クリア!
問題なのは毒息……
何の対策もしなければ、速攻、10分であの世行き……か。
はっきり言ってびびる。
『見よう見まね』のスキルにより、狼の豪胆さが、俺には宿っているだろう?
だったら、恐怖など感じないはずなのに……
と、ここで「何も知らない」ゴーチェが、アドバイスを送ってくれた。
「おい!! リオネル君!! 奴らの吐く猛毒に気を付けろよぉぉ!!」
この無心のアドバイスが、かえって、リオネルの浮き立つ心に、
落ち着きを取り戻させた。
アドバイスを送ってくれたゴーチェに対し、
リオネルは「了解! ありがとうございます」とばかりに、
右手を大きく挙げた。
リオネルは右手を下ろし、息を整える。
気持ちは完全に落ち着いた。
改めて冷静に考えてみても……10分で死ぬ猛毒って超ヤバイな!
いくら狼の豪胆さがあっても、怖いや。
やっぱり俺って根が『チキン野郎』なんだなあ……
つい苦笑したリオネル。
だが……たった今、実証出来た、
『睡眠誘因無効』の『実験成功』が後押しをしてくれた。
俺は、習得時に心の内なる声が告げた、破邪魔法奥義、
『破邪霊鎧』レベル補正プラス40のスペックを信じる!
そう決めた。
アスプの想定レベルは『35』……俺はレベル18。
レベル補正プラス40だから、レベル57の敵まで対処可能!
充分に範囲内だ。
睡眠誘因、猛毒と並ぶ、アスプの特徴。
それは、凄まじい敏捷性。
奴らは飛ぶように地を這い、跳ぶ!
そう、ジャンプして襲って来るのだ。
威嚇し続けるのが飽きたのか、それとも、頃合いと見たのか、
いきなり!
全てのアスプがとんでもない速度で迷宮の床を這い、まっしぐらにリオネルへ向かって来る!
リオネルは覚悟を決めた!
よっし!
ばっちこ~い!
真っ向から、てめえらの毒を受けてやるぜ!
予想通り、アスプ6体は、一斉にジャ~~ンプ!!
大きく跳んだ。
飛びかかり、否、跳びかかりである!
しゃあああああああああっっっっ!!
遂に!!
リオネルに対し、6体全てのアスプが『猛毒の息』を吐きかけたのである。
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