第196話「教師ケルベロス」
翌日朝、地下6階層への出入り口……
「おっはあ!」
と、前夜交わした約束通り、 身長2mの巨躯を持つ好漢、
サブマスター、ブレーズの副官、ゴーチエ・バラデュールが「にこやかな」表情で、
手をぶんぶん振っていた。
「おはようございます!」
「おはようございます! ゴーチェ様!」
ゴーチェの同行も、やむなしと割り切った、
モーリスとリオネルは大きな声であいさつしたが……
「おはようございます」
「おはようございまっす」
ごり押しのゴーチェに、渋い表情のミリアンとカミーユは、
ややトーンを抑えてあいさつした。
挨拶した後、姉弟は肩をすくめ、小さな声で話し合う。
「何が、おっはあよ……ゴーチェ様、呆れた粘着おじさんだわ……」
「姉さん、これ搦め手っす」
「搦め手?」
「そうっす。俺達におごりで、連日ガンガン食わせ、ギルドの正式依頼という形にした上、強引に押せ押せで来たっす。これじゃあ、絶対にゴーチェ様の同行を断れないっすよ」
「うっわ、大人の策略う」
「ホント、ずるがしこいっす」
そんなミリアンとカミーユの会話が、聴力がビルドアップしたリオネルの耳へ入って来る。
しかし……リオネルは少し別の見方をしていた。
姉弟の言う通り、ゴーチェがごちそうしてくれた上、
依頼という形にしてまで同行する目的は、
「自分をどこかの貴族家へ、養子として、入れようとしている」
のは間違いないと思う。
そもそも、今回の方法に関しては、ゴーチェだけでなく、
ブレーズの『指示』もあるに違いない。
だが……ゴーチェは勿論の事、
ローランドとブレーズが強引に『囲い込み』に来ないのは、
リオネルに対し、相当気を遣っているのだとも考えられる。
そして、はっきりと断ったのに何度も何度も誘うのは……
もしもリオネルが旅路の果てに、ソヴァール王国へ戻らなかった場合の、
『保険』もかけているのだ。
万が一、王国から何か『突っ込み』があった場合には、
「やる事はやりました」「リオネルの説得には最善を尽くしました」
そう勧誘の事実関係を作っておき、非難されても問題ないように、理論武装しておくと。
自分がそこまで期待され、望まれるのは花なのだが……
やはり、まだまだ旅を続けて、数多の人々と邂逅したいと、
リオネルは思うのだ。
そんな事を「つらつら」考えるリオネルに、
「じゃあ、並びは昨夜の打合せ通り、俺は殿に陣取らせて貰うぜ」
守衛が最敬礼する中、ゴーチェは『すまし顔』で、最後方に位置したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下第6階層に降りたリオネル達。
ここから先は魔導灯がない。
真っ暗闇である。
冒険者は、照明魔法か、携帯の魔導灯を使うしかない。
という事で、いつものようにリオネルは、出入り口から入った瞬間、
まず照明魔法『魔導光球』を召喚して行先を淡く照らした後……
更に魔獣ケルベロスも召喚。
『先導役』として放った。
但し、一行は、各自が革兜にベルトでつけるタイプの魔導灯は装着している。
なので、自分の行先が見えないという事はない。
さてさて!
ゴーチェが言っていた通り……
昨夜は急きょ参加のゴーチェを交え、5人は作戦会議を行った。
地下6階層はオークオンリーのフロアである。
上位種は、レベル50オーバーといわれるオークの最高位『オークキング』
同じくレベル40オーバーの『オークジェネラル』は出現しないものの……
既にリオネルが戦った、
レベル35オーバーの『オークカーネル』が低確率で出現する。
主には、オークレベル30オーバーの『オークオフィサー』
レベル20オーバーの『オークソルジャー』が出現。
上位種が『ノーマルタイプ』のオークを率いて襲って来るのを、
迎え撃ち、戦うという傾向である。
いろいろ検討した打合せの結果、フォーメーションは、
魔獣ケルベロス、リオネル、カミーユ、ミリアン、モーリス、
最後方の殿に、ゴーチェである。
カミーユとミリアンは、引き続き前衛を希望したが……
ふたりにとって、オークは未知の相手である。
上位種は尚更であり、『オークカーネル』だとレベルに差がありすぎて危険。
オークサージやオークソルジャーでも荷が重いとリオネルが判断。
相手の構成や状況を確認した上で、戦うという事になったのである。
そもそも地下階層6階以降は中級者レベル推奨であり、
ミリアンとカミーユがリオネルに絶大的な信頼を置いている事もあり、
異論は全く出なかったのである。
またゴーチェの乱入に関しても、リオネルは前向きに考える事にした。
歴戦の騎士であり、勇猛果敢な冒険者でもあるゴーチェは、
『盾役』として、とても有能だとブレーズからは聞いていた。
であれば、後方から敵に襲撃された場合は、
頼もしい『盾』となってくれるだろうと。
さてさて!
リオネル達がしばらく進むと……
先行したケルベロスが、『念話』でリオネルへ連絡をして来る。
低く重い声がリオネルの心に響く。
『主よ、敵だ。……当然、捕捉しているな?』
『ああ、いきなり出やがった。このフロアでは最強の上位種オークカーネルが……距離は500m先、レベルは、36か。それと上位種のオークオフィサーが2体、オークソルジャーが3体に、ノーマルタイプのオークも30体ほど居る。……放つ波動全てが、ギラギラしている。殺気に満ちていやがるぜ』
『ああ、主よ、その通りだ……どうやら、貴方の索敵が、……魔力感知レベルが上がったようだな?』
『ああ、そうみたいだ……手に取るように捕捉出来るよ』
『ふむ、落ち着いているな。その雰囲気だと、我のアシストは不要のようだ。今の主なら、オークカーネルなど、問題なく勝てるだろう。……存分に戦い、仕留めてみせよ』
『了解!』
現在『レベル17』のリオネルにとって、
『レベル60』オーバーの魔獣ケルベロスは『超』が付く『格上』である。
そして、従士でありながら……相変わらず教師然としてふるまうケルベロス。
とても頼もしいと感じながらも、
『超劣等生で罵倒され続けた魔法学校の学生時代』を思い出し、
リオネルはつい、苦笑してしまったのである。
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