第161話「ローランド様に謁見②」
「初めまして、ローランド閣下! リオネル・ロートレックです! お忙しいところお時間をお作り頂き、ありがとうございます!」
リオネルは「はきはき」と挨拶し、深く頭を下げた。
対して、
「ああ、私がローランド・コルドウェルだ。ようやく会えたな、『荒くれぼっち』のリオネル・ロートレック君」
「は、はい! 竜殺しの英雄と謳われる閣下にお会い出来て光栄です」
リオネルが『王道的』な返事を戻すと、ローランドは大笑いする。
「はははははは! そろそろ堅苦しいやりとりは、やめにしよう、リオネル君」
「は、はあ……」
「聞けば、王都支部のマスター、サブマスター、ウチのサブマスターのブレーズとはざっくばらんなやりとりをしているそうじゃないか。ならば総マスターの私とも同じで構わん」
晴れやかな笑みを浮かべるローランドは、王国貴族の伯爵、ワレバットの領主ではなく……
冒険者の統領たる、ギルド総本部の総マスターとして接してくれと言っていた。
総マスターというのも、とんでもない高位だと思うが、沈黙は金。
リオネルは余計な事を言わず、了解する。
「分かりました、総マスター」
「うむ! まずは礼を言おう。私が治めている村の件だ。いろいろと良くやってくれた」
「はい、ブレーズ様、指揮の下、全員で何とかやりとげる事が出来ました」
「ははは、ブレーズの報告通り、リオネル君は相変わらず驕らず、誇らずだな」
「いえ、本当に俺だけでは微力ですし、参加した全員が適材適所でやり遂げましたから」
「ふむ、君は本当に欲がない男だな」
「欲ですか?」
「ああ、並みの男なら、出世欲にかられ、ここぞとばかりに私へ売り込みを徹底する。好機到来と自分をより大きく良く見せようとするものだ」
「総マスターのおっしゃる欲は、自分の中で確かに希薄かもしれません」
「ほう! というと?」
「失礼して自分を『俺』と言わせて頂きます、総マスター」
「おお、構わんよ」
「俺にも欲はあります。それもたくさんです。青臭く『べた』なのですが」
「ふむ、青臭く『べた』が、たくさんか。ならば、言ってくれるかな」
「はい! 申し上げます! 俺は広い世界を見たいです! 多くの人達と邂逅し、心の絆を結びたいです! いろいろな分野において、自分の限界を突破したいです! 自分が生きた確かな証をこの世界に残したいです! 人生を全うし、満足して眠るように死にたいです! 以上……だいぶ、はしょりましたので、まだまだあります」
「ははははは、確かにたくさん欲があるな。それも大きな欲――夢と希望ばかりだ。若いというのは本当に良いものだなあ。誠に結構!」
ローランドは本当に良く笑う。
灰色の瞳はきらきらと輝いていた。
温かい波動が、リオネルへ伝わって来る。
「恐縮です」
「うむ……君はゴーチェの提案も断ったそうだな?」
ゴーチェの提案とは「はははは! ワレバット近郊にある貴族家の婿養子の件だ! もし養子になれば!リオネル君は次期当主となり、『美貌の麗しき貴族令嬢』を『妻』にする事が出来るぞぉ!……原文まま」という話である。
しかし、リオネルは即座に断った。
「はい、俺には分不相応ですし、申し訳ありませんが。理由は先ほど総マスターへ申し上げた通りですので」
「ふむ、やはりリオネル君は貴族家へ養子入りし、騎士になる気はないか」
「はい」
「ふむ、念の為に聞こう。ソヴァール王国騎士道の徳目を知っているかな?」
「はい、忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つです」
「正解だ。私が見るところ、リオネル君はその8つを全て満たしている。全然分不相応とは思えんな」
ローランドは言い、二っと笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
意味ありげに笑ったローランドは、秘書のソランジュへ言う。
「ソランジュ、ソヴァール王国騎士道の徳目の補足説明をしてくれるか?」
「はい、閣下、かしこまりました。ご説明させていただきます」
返事をし、軽く息を吐いたソランジュは、説明を開始した。
「忠誠は君主に対しての絶対服従を、公正は弱者とともに生きて生活する覚悟を、勇気はいかなる場合でも強者へ立ち向かう胆力を、武芸は優れた戦闘能力を有する為に鍛錬を行う努力を、慈愛は社会的弱者に対する思いやりを、寛容は分け隔てなく与える愛情を、礼節は目上を敬い、目下を侮らない謙虚さを、奉仕は創世神教会の教義に対する不動の信仰心を……それぞれ表しております」
ソランジュの説明を聞いたローランドは大きく頷き、言う。
「ははははは、どうだ、リオネル君、全てが君に当てはまる」
「はあ……とおっしゃられても何となくしか。俺にはあまり実感がないです。その時その時で、必死にやっていますから」
相変わらず、驕り誇らず、低姿勢で謙遜するリオネルの言葉を聞き、ローランドは何か言いたい事があるらしい。
「ふむ……リオネル君」
「はい」
「評価には自己評価、他者評価がある」
「ええ、そうですね」
「うむ! あくまで私の私見だが……」
ローランドは前置きし、
「世間の評価とは、殆どが他者評価であり、自己評価よりも圧倒的に重要視される。それゆえ、己が世に認められる為には他者評価が高く、更に複数の者達から存在価値をも認められねばならないのだ」
ローランドの言う事は納得出来る。
リオネルは大きく頷く。
「おっしゃる通りだと思います」
「部下達の報告と判断を全て聞いても、その結果、私から判断しても、リオネル君の評価はとても高いぞ。つまり君の他者評価は著しく高いと言えよう」
「ありがとうございます」
「だが反面、……君は自己評価が低すぎるな」
「ですか」
「うむ、自己評価が低いのは謙遜とも言える。だが……謙遜も度が過ぎると却って嫌味となる。注意するが良かろう」
「はい、総マスターのアドバイス、心に刻んでおきます」
「うむ、過度の自慢や自信過剰はけして良くないが、堂々としていれば仲間や下の者は、君を頼もしく思い、深き信頼が生まれる。窮地に陥った時でも、君にならついていける……そう考えるはずだ」
「はい、重ね重ねのアドバイス、ありがとうございます。総マスターのアドバイスは、全て心に刻んでおきます」
礼を言い、深く頭を下げるリオネル。
その姿をしげしげと見つめるローランドの目が哀し気となり、遠くなる。
何か記憶をたぐっているようだ。
「ふむ、リオネル君……君は、私の亡くなった息子に良く似ているよ」
「え?」
「あいつも良く夢や希望を語っていた……」
「……………」
「ああ、すまん。今のは聞かなかった事にしてくれ」
「は、はあ……」
「ひとつ言っておこう」
「は、はい」
「君から即座に断られたらしいが……ゴーチェの提案は今でも活きている」
「……………」
「もしも、気が変わったら、いつでも申し出てくれ。私へでもブレーズでも構わない」
いろいろな人より、前々から聞いていた通り、ローランドはリオネルを気に入ってくれているらしい。
だが、リオネルの意思は変わらない。
ゴーチェの提案は受けられない――『貴族家への養子入り』はしない。
なので、ただただローランドへ礼を言うしかない。
「総マスター、深きご配慮をして頂き、ありがとうございます」
「ふむ、リオネル君には今後とも期待している。もう少し実績を積めばランクAだ」
「ありがとうございます! 頑張ってランクAを目指します!」
「うむ!」
満足そうに頷いたローランドは立ち上がると、リオネルの傍へ来た。
大きな手を差し出す。
握手しろ……という意味だろう。
リオネルは「すっく!」と勢い良く立ち、ローランドの手をしっかりと握った。
ローランドは「ぐぐっ」と力を入れる。
結構な力だが、リオネルも同じくらいの力で握り返す。
それが礼儀だと、何故か思ったのだ。
すると、ローランドは満足そうに微笑み、
「ほう! なかなかの力だ、頑張れよ。但し、命だけは大事にな」
頑張れ……但し、命だけは大事に。
最後には、王都の宿の主人アンセルムとサブマスターのブレーズが発したのと、
同じ意味の言葉を投げかけられ……
リオネルの、ローランドとの謁見は無事、終わったのである。
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