第137話「不死者撃墜」
リオネル達は、全員で一致団結し、ゾンビ300体近くを倒し、塵にした。
とりあえず『不死者』第一弾は退けたのだ。
その中で、リオネルは練習とばかりに、葬送魔法『昇天』を行使すると同時に、
モーリスが使う、破邪聖煌拳の極意、「魔力のみでゾンビを倒す」課題にも挑んでいた。
カミーユへ言い放ったのは、偽りでなく、実戦形式の修行を行ったのである。
結果はといえば、さすがに上手くは行かなかった。
成功率は2割程度、しかし『トライアルアンドエラー』の精神、得るものはあったと感じていた。
というわけで……現れたゾンビは全て倒した。
カミーユは、モーリスにぶん投げられた時は、『殺意』を覚えたらしいが、
助けに来てくれた事、獅子は我が子を千尋の谷に落とすという『ことわざ』の意味を改めて知り、今では師匠に感謝しきりである。
しかし……
周囲にはまだ邪悪で、不穏な気配が満ちていた。
ゾンビは全て倒しても、「敵は途切れなかった」のである。
リオネルが見やれば、いつの間にか……
空中には、人魂、鬼火と呼ばれる、
数多のウィルオウィスプが、青白い光を放ちながら、ゆらゆらと飛び回り……
倒したゾンビが消えた辺りには……
交代した?とばかりに出現した大勢の亡霊が、
「この世に未練がある!」とばかりに、怖ろしい形相で立たずんでいた。
ミリアンとカミーユは新たな不死者の出現にびっくり!
「うっわあ! カミーユ、人魂が出たよぉ! ゾンビに続いて、初めて見たあ!」
「げえ! 姉さん! こっちも見るっす! 亡霊もいっぱい居るっすよぉ! ゾンビに、人魂に、亡霊っすかあ! 初物三昧! き、きりがないっすよう!」
リオネルとモーリスは顔を見合わせ、頷く。
そう、ここまでは『想定内の展開』なのである。
リオネルとモーリスが行った前打ち合わせ予定では、
ゾンビ討伐の経験を積ませたミリアンとカミーユを、破邪の魔法がかけられた管理小屋まで、一時的に撤退させる。
そしてしばしの休養を取らせ、魔力と体力の回復をはかり、再戦に備えさせる。
「カミーユ、ミリアンを守りながら、管理小屋まで、一時撤退しろ。ほら、念の為、渡しておく。万が一、ヤバくなったら、これを使え」
リオネルは、カミーユへ自分の魔法杖を渡した。
先ほどカミーユがゾンビへ乱射して弾切れとなった『昇天』が込められた魔法杖である。
ちなみに、リオネルとモーリスは修行の為に魔法杖を一切使わず、
『破邪聖煌拳』のみでゾンビを倒していた。
モーリスも頷き、ミリアンへ指示を出す。
ミリアンも、『破邪聖煌拳』を駆使しながらも、魔法杖の『昇天』も使い、
今の戦いで撃ち尽くしていた。
「うむ、ミリアン。ここは私とリオ君に任せろ。それとお前はこれを使え、同じく万が一の為の護身用だ」
そして同じく自分の魔法杖をミリアンへ渡した。
対してミリアンとカミーユは、
「ええっ!? 師匠、リオさん、まだあんなに居るよぉ!」
「そうっす! 俺と姉さんも戦うっす」
「ははは、無理をするな。一旦休養して、また戦って貰う。それに撤退も、お前達の修行の一環なのだよ」
「モーリスさんの言う通りさ。安全な状況で敵をじっくりと見ながら、退く時の練習もやっておくんだ」
モーリスとリオネルの指示を聞き、顔を見合わせたミリアンとカミーユ。
大きく頷くと、周囲を警戒しながら、素早く撤退して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ミリアンとカミーユが、撤退し、不死者を防ぐ破邪の魔法が行使された管理小屋へ入るのを確かめ、安堵したリオネルとモーリスは、改めて『敵』へ向き直った。
いざとなれば、助けに行こうと考えたが、上手く撤退出来たようだ。
さてさて!
空中には数十のウィルオウィスプが……
ふたりの正面にはこれまた数十人の亡霊がふたりの様子をうかがうかのように、
動いていた。
補足しよう。
ウィルオウィスプ、もしくはウィル・オー・ザ・ウィスプとは、
不可思議な火の玉であり、名前は敢えて言わないが、
『ある男の種火』という意味である。
こんな逸話がある。
その『ある男』は自ら揉め事ばかり起こし、挙句の果てに殺されてしまう。
しかし弁悦に長けたその男は、聖人を騙し、生き返るがまたも悪事を働き、
遂には冥界へ堕とされた。
その冥界で、悪魔が『ある男』に同情し、自分が管理する『冥界の業火』を少し分けてやったという。
『ある男』は結局、昇天出来ず、現世をさまよう魂となった。
それが、ウィルオウィスプだという。
逸話が真実かどうかは不明だが、リオネル達の前を浮遊する火の玉からは、
人間への『悪意』がはっきりと感じられる。
ウィルオウィスプは魔法を使い、心を乱し惑わす他、
自身が『炎弾』となり体当たりをするから、注意せねばならない。
また亡霊は誰もが知る存在であろうが、少々触れておこう。
死により、活動停止した肉体から離脱した魂が、現世に未練を残し、
留まる状態が亡霊だと言われている。
リオネルの持つ知識では、魂がそのまま残る事は少なく、多くはわずかな一部、
残滓であり、理性も自我も持たない。
しかし本能に近い未練から、生者へ害を及ぼす場合が多いというのだ。
話を戻そう。
油断は出来ないが、ウィルオウィスプも亡霊も、すぐに襲って来る様子はない。
この間にモーリスと対処を、行う作戦を確認しておいた方が良いだろう。
「モーリスさん」
「おう! リオ君、どうする?」
「はい、ウィルオウィスプから『炎弾攻撃』をされたら『うざい』ので、俺が『昇天』で奴らを倒しますよ」
「よし! では私はその間、亡霊どもを破邪聖煌拳の、魔力波飛ばしで、討伐し、浄化しよう! リオ君にキャナール村で教えた通り、『昇天』を使うより魔力がずっと節約出来るぞ」
今度は間近で課題に対しての『お手本』が見られると思い、リオネルは内心大いに喜んでいた。
先ほどは、カミーユへ偉そうに語ったが、リオネルも修行中の身である。
師は姉弟と同じくモーリス。
破邪聖煌拳、各種魔法、様々な経験を聞くなど、教わる事は山ほどある。
いまだに秘しているので難しいが、地の魔法も教わりたい。
それにリオネルは、モーリスが好きである。
気の置けない叔父……のような近しい気がするのだ。
「宜しくお願いします!」
「でも大丈夫か、リオ君。 ウィルオウィスプは的として小さ目だし、魔法攻撃を巧みに避けるぞ」
「心しておきます。そして充分注意しますよ」
さあ、ウィルオウィスプ討伐だ。
今回の依頼報酬金貨100枚とは別に、1体討伐すると、銀貨5枚《5千円》だと、
エステルからは聞いている。
ちなみに亡霊も、よほどの強大な悪霊ではない限り、
1体銀貨5枚から……だそうである。
両方とも討伐料がひどく安い。
だが、葬送魔法の達人からすれば、倒すのが児戯の如く簡単だからだ。
「よし! 行くぞ」
「はい!」
モーリスは、装着した破邪聖煌拳のガントレットから、『昇天』の魔力波を打ち出した。
ごはああああああああああああっっっ………
成る程……亡霊はこうやって倒すのかあ、勉強になる!
さあて、俺のスキルは不死者にも通用するかな?
試してみよう!
青白く光りながら、ふわふわ浮遊するウィルオウィスプへ、
リオネルは、『フリーズハイ』レベル補正プラス15を放った。
ちなみに、ウィルオウィスプは『レベル15』リオネルと同じレベルではあるが、
補正のお陰でスキルは通用する。
スキルが効き、ウィルオウィスプは硬直したように固まり、動きを止めた。
ゆっくりと落ち始める。
すかさずリオネルは、『昇天』を放つ。
命中!
ぶしゃ!
ウィルオウィスプは砕け散った。
他のウィルオウィスプが、リオネルとモーリスを敵と見なし、彼らの武器『炎弾』を撃つ気配を見せるが……発射までに10秒ほど、インターバルがあると聞いたから、
リオネルは、
『フリーズハイ』レベル補正プラス15を連射、連射、連射、連射ああ!
間を置かず、『昇天』も連射、連射、連射、連射、連射、連射、連射ああ!
先ほど、魔法杖で乱射したカミーユではないが……
リオネルは、『昇天』を速射砲のように撃ちまくり、数十のウィルオウィスプを、
あっという間に撃墜していた。
ここでお約束のイベント発生。
チャララララ、パッパー!!!
リオネルの心の中で、あの独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来る。
リオネル・ロートレックは、チートスキル『エヴォリューシオ』により、
特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス40を習得しました。
特異スキル『シャットダウン』レベル補正プラス40を習得しました。
特異スキル『リブート』レベル補正プラス40を習得しました。
特異スキル『フォースドターミネィション』レベル補正プラス40を習得しました。
お~!
レベル補正プラス40かあ!!
俺は今『レベル15』だから、これで相当な格上の敵と……
レベル55未満、『レベル54』までの敵とも、魔物でも人間でも、スキルを使って存分に戦える!
リオネルは密かに、心の中でガッツポーズをしたのである。
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