第四話『転生は転生でも乙女ゲーの世界に転生してた。でも、第二王子なんて居ましたっけ?』
初挑戦のジャンルで御見苦しい所などあると思いますが、楽しんで頂けると嬉しいです。
照れを含んだ恥ずかしそうな微笑みの少女に、イルは頬を赤く染める。
「(いやいや、相手は十歳そこらの女の子だぞ! トゥンク♡じゃねえょ! 俺はロリコンじゃない… そう、ロリコンじゃない… 俺は母さんみたいなおっとり系ナイスバディの美女が大好きなんだ! そうだ、俺はロリコンじゃない…。)」
そんな、イルの頭の中の葛藤を他所に、王である父親から次の爆弾が投下された。
「彼女は未来の皇太子妃だ、二人とも、仲良くするんだよ。」
目の前で恥ずかしそうに微笑む幼女は、未来の皇太子妃だと紹介され、イルは驚き、アルが父親であるホークに質問を投げかける。
「父上、先程、彼女を未来の皇太子妃とおっしゃいましたが、まだ継承権に関して決まっていないのではないのですか?」
「そうだよ父さん、なのに先に皇太子妃を決めるってどうなの? 彼女だって、そんな状態で紹介されても困るじゃん。」
未だに王位継承権が空位である事を指摘する双子に、ホークはウムと小さく頷くと、二人の質問に答える。
「実は婚約者に関してはお前達が生まれる前からすでに決まっておったのだ。私達に王子が誕生した際は公爵の令嬢を皇太子妃にする事はな。お前達の母親であるロアンヌも、元はブルボン公爵家の御令嬢だったのだぞ? 故に、近い年齢で子を授かり条件が合致したことは誠に幸運だった。」
「え… 生まれる前から?」
「イーグル殿下、王族に限らず、貴族の婚姻と言うのはそう言う物です。」
「つまり政治的な意味合いが強いと?」
「そうです、我々貴族は横のつながり、縦のつながり、血の繋がりを重視しますからね。」
「彼女は… エリーゼ嬢はそれで良いのですか?」
「??」
突然イルに質問を投げかけられた事に、エリーゼは少し首を傾げる。
「いや、好きでもない男と勝手に婚約をさせられるという事に納得されているのですか?」
「よ、良く解りませんが、お父様がおっしゃられるのであれば、わ、私は従います。それが貴族の高位貴族に生まれた女の務めだと… そ、そう学んでまいりました。」
幼いながらも貴族然とした彼女の返答にイルは言葉を失ってしまう。見た目こそまだ10代の幼い少女であるはずなのに、彼女の心は既に一人の貴族令嬢であった。
「それでも、お披露目会の時にいきなり顔合わせじゃ困るだろうし、短い時間の中でお互いを知ってもらいたくてね、こうして挨拶に来たのだよ。」
この国では12歳になると一般的には大人の仲間入りをしたとみなされる、年齢的には15歳で成人扱いだが、12歳で社交界などに足を運ぶなど政治的な活動が許されるようになる為である。
例もれず、アルとイルも12歳の誕生日には大きなお披露目会が予定されており、その時に顔見せと継承権に関しての発表を行うとホークからは聞いていた。そんな風にイルが考えているとホークから二人に声が掛かり、イルは顔を上げる。
「では、私達はこれから公爵夫妻と大事な話がある。お前達は彼女ともう少し友好を深めなさい。」
「解ったよ父さん。彼女は俺達が責任もってエスコートさせて貰うよ。庭園を軽く散策して、庭園内のガゼボでお茶して待ってるから、話し合いが終わったらそこに来てもらえる?」
「父上、私は少々体調がすぐれません。失礼を承知で申しますが、彼女の案内はイルに任せ、私は自室で休んでも宜しいでしょうか?」
「アルバトロス… お主、それは…」
「アル…。」
「何も二人がかりで案内する必要も無いでしょうし、こういった事はイルが適任かと。それに、知り合ったばかりの男に囲まれるというのは女性として少し恐ろしいのではないかと。」
初めて家族や使用人以外の。しかも、歳の近い女性の相手を言われたアルは面倒だと感じたのかそれっぽい言い訳を述べ退席すると発言し、それとは対照的に、イルはトントンと予定を立てる。
アルの態度に驚きはしたが、それよりも、イルのその気配りや采配、頭の回転、物怖じしない反応にセピアートは目を細めると、イルと同じ高さに目線を合わせて声を掛ける。
「まだ社交界デビュー前の娘ですが、よろしく頼みますイーグル殿下。アルバトロス殿下もお身体の調子の悪い所、無理を言ってお付き合い頂き有難うございました。」
「ああ、それでは私はこれで失礼させて頂く。父上と母上も、申し訳ありませんが失礼致します。お小言はいずれまた。」
「私に任せてくれセピアート公爵。彼女は責任もって私がもてなそう。」
そう言いうや部屋を後にするアルバトロス。
そして、セピアートの言葉を父親としてではなく立場としての言葉だと受け取ったイルは、いつもの砕けた態度を改め、王子然とした態度で返答する。そんなイルの対応にセピアートはさらに目を細め満足そうに頷いて見せた。
「では、ブルボン公爵令嬢。お手を失礼致します。」
「よ、よろしくお願いいたしますわ、イーグル殿下。」
座っていたエリーゼにイルは手を差し出すと、エリーゼはその掌にそっと手を添え優雅に立ち上がり、イルのエスコートを受け応接室を退室した。退室した三人をホークとロアンヌ、そしてエリーゼの両親であるブルボン公爵夫妻は意味深に見つめていた。
「(取り敢えず、彼女を庭園に案内するとして、問題はアルか… まさか出て行っちゃうとはなぁ… まだ、どちらの婚約者かは決まってないのにあの対応はまずいって。)」
「イ、イーグル殿下、どちらに向かわれてますの?」
真剣に色々と考えているイルを不安げな表情でエリーゼは見つめ質問する。
先程のアルの態度に申し訳なさを覚えるも、イルは努めて明るく振舞おうと気持ちを切り替える。
「エリーゼ嬢… っと、俺、かしこまったのとか苦手でさ名前で呼んじゃうけど許してな。そん代わり俺の事もイルって呼んでいいからさ。」
「は、はぃ… イル殿下。」
「殿下もぶっちゃけ要らないけど… まぁそこは追々だな。んで、ウチの庭園はさ、庭師のヘンリーが作ってて自慢なんだ。エリーゼ嬢は花は好き?」
「ぶっちゃけ? あ、は、はぃ。好き… です。」
「俺がヘンリーに無理言って作ってもらった花壇があるんだ。良かったら案内させて貰って良いかな? 割と綺麗なんだ? エリーゼ嬢にはヘンリーも紹介したいし。」
そこまで一気に言うと、イルは、ふと彼女が一般的な貴族と一緒で貴族以外の階級の人間、つまり、平民の事をどう思っているのかが気になった。
今から彼女に紹介しようと思っている庭師のヘンリーだが、王城に勤めているとはいえ彼は平民だ、彼女も普通の貴族同様で貴族主義なら拙いと思ったのだ。先程挨拶をしたブルボン公爵夫妻の感じから、それはないとは思うがイルはエリーゼに質問を投げかける。
「なぁエリーゼ嬢、エリーゼ嬢にとって平民… 民ってなんだ?」
まさか突然質問を投げかけられるとは思っていなかったエリーゼだったが、たどたどしくもイルの質問に答える。
「私達貴族が守るべきものだと、そう学びました。」
そんなエリーゼの回答に、イルはウンウンと頷きながら、彼が向かっていた目的地の花壇に着くと、咲いていた花を一輪、胸元のナイフを使いある程度の長さで切る。そして笑顔でその一輪をエリーゼに差し出して答えた。
「俺はさ、民ってのは国だと思ってる。確かに俺達無しでは国は成り立たない。けど、結局は民が居ないと国ってのは成り立たないんだよな。だからさ、確かに身分って言うのはあるけど、そこで人間性迄決めつける様には俺はなりたくないんだよな。」
イルが何を伝えようとしているのかは解らないが、とても大事な事を自分に伝えようとしている事は幼いながらにも理解できたエリーゼは、真剣にイルの言葉に耳を傾けつつ差し出された一輪の花をおずおずと受け取ると、目の前のイルは屈託のない笑顔でエリーゼに笑いかけた。
「この美しい花も、育てたのは平民のヘンリーだ、でも美しさに貴賤なんてない。綺麗なモンは綺麗。俺はそう考えてる。うん、最初に見た時から思ってたんだけど。やっぱりよく似合うな。」
そう言われ、自分が何の花を受け取ったのか、解ってなかったエリーゼは受け取った花を確認すると鮮やかな紫色のアネモネがそこにはあった。
この国では、一般的に男性が貴族の女性に贈る花は薔薇が基本であり、赤色が基本だ。しかし、薔薇ほどの豪華さは無くとも優しく咲くその花を見て、エリーゼは自然とその表情を緩めた。
「ありがとうございます… 大切に… 大切に致します。」
その微笑んだ顔は10代の少女の物ではなく、一人の女性の笑顔だった為、イルはついつい魅入ってしまった。そして、イルはそんな笑顔に既視感を感じ、一輪の花を持って嬉しそうに微笑むエリーゼを再度見直してその既視感に気付いた。
「(これ、前世でやってた乙女ゲーム実況生放送の王子ルートで俺の最推しのライバル令嬢の過去が語られる時に出てきた一枚絵じゃねぇか!? え? って事は目の前のこの子が俺の最推しのエリーゼたんって事!? アルバトロスって、あのアルバトロスか!? って事はこの娘はアルの許嫁って事!? ちょっと待て? これ、転生は転生でも乙女ゲーの世界か!? んな事あんのか!? あの、謎のチグハグ感はこれか!? って言うか、一番は俺の存在だよ! 第二王子なんて居たか!?)」
何せ10年前の事なのでゲームの内容までは殆ど覚えてはいなかったが、それでも信じられない事実が発覚したイルは、照れながらも嬉しそうに微笑むエリーゼを茫然と見つめつつ小さく呟いた。
「はは… 俺の… 二次元が来た…」
そんなイルの現実逃避は、優しく吹く風に揺れるアネモネの音にかき消されたのだった。
ここで漸くタイトル回収です。
自分が乙女ゲーの世界に転生している事には気付きましたが、その記憶も10年も前の事の為明確に覚えている訳ではなく、部分部分だったり人物の名前だったりと、殆ど覚えていません。
それでも、エリーゼがアルバトロスに婚約破棄されるという事実だけは覚えている為、今後の彼の行動を楽しんで頂けると嬉しいです。
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