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第二話『どうやら俺は、転生していたらしい』

 「イル… 大丈夫か?」


 階段から落ち、強かに体のあちこちを打ち付けたイルは、各所に包帯を巻かれベッドに横になって居た。

 枕元には、そんなイルを心配そうに見つめるホークとロアンヌの姿があった。



 双子の誕生日の夜。

 イルが階段から落ちた後、アルの叫びを聞いた城のメイドが慌てて駆け付け、執事などが駆け付けると近くのカーテンを破り、簡易的な担架を作ってイルを寝室に運んだ。

 侍女頭から報告を受けたホークとロアンヌは慌ててイルの寝室に飛び込むと、そこにはイルの手を強く握り泣き続けるアルの姿があった。


「どうしたというのだ…。」

「父上… 私が悪いのです… 私がイルを…」


 感情に任せ突き落とした、と続けようとした所で、イルが朦朧とした意識の中呟いた。


「俺が… 足を…… 滑らせた… んだ… ア…… ルは悪く… ない…。」

「イル! 俺!」

「だ… いじょ… ぶ… 俺が… ドジ…… なだ… け」


 そう言い残し、イルは意識を手放した。

 その直後に、王城に常駐している医師や魔導士が駆け付けると、治療に必要な人間以外の全員が部屋を追い出されてしまう。

 ホークとロアンヌは泣きじゃくるアルに事情を聴こうと思ったが、ずっと俺のせいだと呟いて居るアルに、これ以上何かを追求するのは酷だと考え、今はとにかく、イルが無事である事を願う事にした。


 そして、それから三日三晩、イルは眠り続けていたのだが、今日、目が覚めたと医師から報告があり、ホークとロアンヌはイルの部屋に駆け付けたのだ。


「もう、大丈夫だよ。父さんも母さんも心配させてゴメン。」

「いいのよ… それより、アルと何があったの? あれからアルに事情を聴いても、自分が悪いの一点張りで…」

「ちょっと喧嘩しちゃって、叩かれそうになったから避けたら足がすべちゃって…」

「で、階段から落ちたと…」

「うん、だからアルも自分のせいでって思ってんだと思う。アルは悪くないんだ。だから大丈夫って伝えといて。」

「解った、アルにはそう伝えておこう、今はまだゆっくり休みなさい…。」


 恐らくすべて真実ではないのだろうとは感じたが、息子がそう言っているのだからそうなのだと納得し、ホークは優しく微笑み、イルの頭を撫でロアンヌと共に退室した。

 徐々に遠くなる足音を聞き、二人が部屋から離れたのを確認するとベッドのイルは仰向けで天井を見ながらつぶやく。


「はぁ… コレ、多分落ちたショックで思い出した感じだろうなぁ… 今までの記憶も()の記憶も、キチンと俺の物として認識できるって事はさ…」


 そう独り言を零すと、イルは天井をボケっと眺めながらさらに独り言を重ねた。


「三日三晩眠っていたのも、多分、思い出す記憶を脳が処理する為に無駄な機能を切ってたんだろうなぁ、っても、五年もたって今更気付くのも、我が事ながらどうかと思うけど… どうやら俺は、前世の記憶付きで転生していたらしい… マジかぁ… 漫画やアニメじゃあるまいしさ… つか、やっぱあのトラックが原因で死んだんだろうなぁ… よくSNSとかでコンビニに突っ込んだ車の写真とかを見て、『いや、どうやったらこうなんだよwww?』って思ってたけど… 自分の事になると笑えねぇや…」


 部屋の中には自分一人と言う事も有るが、声に出さないと自分自身整理が出来ない気がして、尚も独り言を続ける。


「まぁ幸いだったのが、転生したのが王子様だった事だな。まず、衣食住の心配が殆どない。継承権とかいろいろ考えると大変そうだから、そう言う意味でもアルには頑張って王位を継承して欲しい。そう言う面倒は本気で嫌な所は、記憶が戻る前の俺と今の俺はやっぱり俺なんだって思うな、ちょっと何言ってんのか解んねぇけど。」


 そう考えた事を口に出していると、外から何やら走ってくる足音が聞こえて来た為、イルは入り口側のドアに目を向けると、ノックも無く今考えていた人物であるアルが息を切って入ってきた。


「イル! 目が覚めたって聞いて!」


 輝く金髪、透明度の高い青い瞳、そして、その嬉しそうな満面の笑み。

その笑みにわずかな既視感を覚えつつ、イルは今は考える様な事ではないと判断し、大丈夫だと安心させるようにアルバトロスに微笑んだ。


「おはよう、アル。」


憑依系ではなく、間違いなく転生です。

この時点で自分が前世の記憶を持った転生者だという事には気づきましたが、まだ、ここがゲームの世界に酷似している世界だという事には気づいていません。

更に補足させて頂きますと、いくら転生して前世の記憶が残っているとはいえ数年前の記憶を鮮明に覚えている訳ではありません。

そう言ったことを念頭に楽しんで頂けますと幸いです。


感想お待ちしております。

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