表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/6

第一話『今日は五歳の誕生日』

初回のみ二話分更新です。

 双子の王子が誕生したことは、大きく民衆に伝えられ、相続権などの事が解らない民衆はとにかくめでたい事だと喜んだ。

 王城も例にもれず、色々と懸案事項があるとはいえ、二人の王子が生まれた事は本当にめでたいと連日宴が執り行われた。


 そんな双子の誕生からちょうど五年、二人の王子はすくすくと育ち、金の髪がまばゆく青い瞳は宝石の様な、まさに絵にかいたような美少年に成長していた。


 二人の名は、名義上母体より取り出された順番で決められ、先に取り出された王子が兄で、名をアルバトロスと名付けられ、次に取り出された子供は弟で、イーグルと名付けられた。

そんな双子の全体的な面影はよく似ており、目元だけがアルバトロスは王に似て釣り目がちで、イーグルは王妃に似て、ややたれ目の優しい目つきである。


 今日はそんな二人の五歳の誕生日の為、広いダイニングルームに家族が全員そろって食卓を囲んでいた。お互いの席は、王族の為かなり離れてはいるが、政務が忙しい王や、茶会などで忙しい王妃が一堂に会して食事ができるのは双子の誕生日のみとなって居た為、王子二人もご満悦と言った表情で食事をしていた。


「父上! 今日は算術で先生に褒められたのですよ!」

「ほぅ、アル。それは良かったな。今後も励みなさい。」

「はい!」

「母さん、今度また美味しいお茶の入れ方教えてよ、最近、紅茶にハマっちゃってさ。」

「まぁイル。解ったわ。また、予定を空けますから一緒にお茶しましょうね。」

「うん。」

「イル! 母上と御呼びしろ!」

「良いだろ? 呼び方なんかさ。どんな呼び方でも俺は父さんも母さんも大好きだし、それに外ではちゃんとやってる。」

「イル、親しみを込めてくれるのは嬉しいが、とっさの時に口を滑らせてしまう事も有るのだ、気を付けなさい。あと、お茶と言ったが、授業の方はどうなんだ?」


 食事をしながらの歓談に楽しそうにしていたアルバトロス、アルは父であるホークがイルにその質問を投げかけると一気に面白くない顔をした。


「イルは狡いのです… 今月受ける授業の分の宿題をすべて終わらせて先生を困らせた挙句、もう今月は学ぶ必要はないから自由にさせて貰うといって遊び惚けているのですよ!」

「何!? あの教師の出す宿題を既に終わらせたのか!? アレの出す宿題は高難易度と聞くが、イル、凄いではないはないか!?」

「べ、別に大した事じゃないよ… 単なる足し算引き算に掛け算割り算だし… 桁数も多くないしさ…」

「いや、まだ五歳で四則演算を容易にこなすとは… ほかの宿題もか?」

「歴史は… 丸暗記だから関連事項と紐づけて年号を語呂合わせで覚えれば簡単だし… 他の勉強も… だから、本当に大した事ないんだって。」


 アルの、そんなイルに対する不満に、父親であるホークは予想とは違った反応を示す。怒られると思っていたアルはそんな父親の反応に一瞬時が止まった。


「父上! イルは言われた事を守らず勝手な行動をし遊び惚けているのですよ! 何故お褒めになるのですか!」

「う、うむ。そ、そうだな。イルよ、課題は成長速度などを加味して先生方がせっかく組んでくださるのだ、それを蔑ろにしてはならんぞ。」

「はぃ…。」

「だが、勉学に優れている事は誇らしい事だ、凄いぞイル。これからも励みなさい。」

「うん!」


 アルが望んだとおりに注意はされたが、その後、結局は褒められたため、アルは面白くないと、その日の晩餐はアルだけがつまらなそうに終えた。


 誕生記念の晩餐が終わり、王と王妃は寝室で二人語り合う。


「二人とも、壮健そうでよかった。政務が忙しく中々子育てに協力できぬ父親で面倒を掛けるな。」

「いえ、それはあの子達も解っておりますわ。ただ…」

「うむ、アルだな。」

「はい。」


 晩餐時のアルの様子を見て、二人、特に普段二人とあまり交流の無いホークは不安を感じていた。


「直情的に過ぎるきらいがあるな… 順応性も…」

「まだ、五歳ですわ…。」

「うむ、だが、継承権に関してはより王の素質のある者にと考えておる… 利用されんと良いが…。」

「ヴィジュアレ伯爵ですか?」

「あぁ、何やら色々と裏で動いとるようだ… そのせいか、激務が続いておる。証拠がない故に苦言を呈する事も出来ぬ…。 歯がゆいことこの上ない…。宰相のイザムも頭を抱えておる…。」

「あなた…。」


 二人の成長を喜びつつも、アルの成長に一抹の不安を覚えそんな会話をしていると、コンコンコンとドアをノックする音が響く。


「誰だ?」

「父さん、母さん俺です。」

「まぁ、イル? どうしたのこんな時間に?」


 もう寝る時間でしょうと言いながらもロアンヌは扉を開けると、そこには沈んだ表情のイーグル、イルが立っていた。


「実は父さんに、お願いがあってきたんだ。」

「お願い? まぁ入りなさい。 廊下は冷えるだろう?」

「うん。ありがとう。」


 ホークに入室を許可されたイルは頭を下げ部屋に入るとパタンと扉を閉める。


「して、こんな時間にお願いとは?」

「うん、あの、さ…」

「ん?」

「王位継承権なんだけど… アルにして欲しいんだ。」

「どういうことだ?」


 突然のイルの願い事にキョトンとするホークに、イルはそう考えた経緯を説明した。一つ、自分は誰かを導けるような器ではない事、一つ、自分は民を支える力はない事、一つ何より縛られたくないという事を拙いながらも必死に説明した。


「ふむ、イルの言いたい事は解った…。」

「じゃあ!」

「だが、コレはそんな簡単な話ではないのだ。解るな?」

「はい…。」

「解ったのなら、今日は寝なさい。」

「はい、我儘を言って、ごめんなさい… おやすみなさい。」

「ああ、お休み。」

「ええ、お休み、良い夢を見てね。」


 沈んだ顔で部屋を退出していくイルの背中を見送ると、ホークとロアンヌはイーグルもイーグルで問題はあったかと苦笑するしかなかった。


 継承権の件で父親で王でもあるホークに、王位継承権はアルに譲って欲しいとお願いをしに行ったが、にべも無く返されてしまい落ち込んで歩いていると、ふと目の前に誰かが立っている気配がした為イルは顔を上げた。

 そこには吊り上がった眼を更に吊り上げ、怒り心頭の面持ちで佇む双子の兄、アルバトロスが立っていた。


「イル、父上と母上にこんな時間に何用で寝所に尋ねた?」

「アルには関係ない…」

「また点数稼ぎか! 俺よりも少し勉強ができるからと… 俺をバカにして!」

「違う!」

「では、なぜこんな時間に父上たちの所に行く必要がある!? やましい事でもあるのだろう!」

「そ、それは…」


 アルの言葉に、点数稼ぎではないがやましい事はしていたと感じたイルは俯いてしまう。

 そんなイルの反応に、それ見た事かと、アルは畳みかける。


「ふん! おおかた、父上の後を継ぐのは自分が相応しいとでも言ったのだろう? そうだな! 勉強も出来て優秀なイルなら… 父上の跡を継げるだろうさ!」


 アルのその声は、涙をこらえる様な、そんな声だった為、イルは顔を上げると、そこには整った顔を悔しそうに歪め涙を流す双子の兄が居た。


「何故… 双子なのにこうも違う… 顔も似ている… なのに…… らぃだ…」

「アル…」

「イルなんて嫌いだ! イルなんて! イルなんて居なければ良かったのだ! そうすれば私が… 俺が父上たちの一番になれたのに!!」


 色んな感情がないまぜになったのだろうアルは、感情のままイルをドンと強く押し叩いた。

 その場所が悪かった、二人が言い合いをしていた場所には階段があり、押し叩かれたイルは、直前のアルの表情や言葉で唖然として力が抜けていた為、何の抵抗も無く階段の下へと転がり落ちてしまったのだ。


 目の前のイルが、階段に向かって倒れる様を見て、アルは自分が何をしたのか気付くと、慌てて落ちそうになっているイルに手を差し伸べるが、呆けていたイルはその差し伸べられた手を掴むことなく階段を転げ落ちていく、その様子がまるでスローモーションのように感じたアルは、慌てて階下に落ちたイルに駆け寄る。


「イル! イル! 違っ… 俺はこんなつもりは…」

「ア… ル…… だ… ぃじょ… ぶ…… だか… ら…。」

「イル! 誰か! 誰か助けて! イルを助けて!!」


 二人の五歳の誕生日。

 うわ言の様に、大丈夫と言い続けるイルと、必死に助けを求めるアルの声が静かな王城の廊下に響いた。


前書きにも記載致しましたが、今回は掴みの部分でもある為、二話分更新致しました。

今後の反応などを見て、更新頻度などは考えるつもりです。

応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ