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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第19章
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第3部19章『回帰』6

気が付けば、後1エピソードで100という所まで来ました。

 風の維持に集中していたソニアは、棘だらけの茂みの中で敵の気配が少し遠ざかったことを感じた。自分のことは気づかれなかったのだろうか? 自分のことを察知して来たのだとばかり思っていたのに、目的は違ったのだろうか?

 ともかく、風を解きたくない今は大いに助かった。ソニアはより一層集中して、自分の存在すら忘れるほどに嵐と一体になった。息が切れ、心臓が早鐘を打つ。

 これが虫軍だったら一部の兵にしか効力を成さないだろうが、自分の技でどうにか足止めできる種類の敵で良かったと思った。

 竜巻は太くなり、鳥は弾き飛ばされる。あまりに火と風が激しいせいで本物の雷雲まで呼んでしまったらしく、ゴロゴロと轟音が聞こえてきた。


 王城の上で竜巻の驚異に目を奪われていた大将は、一時治まりかけたかに見えた嵐が今再び強くなったので驚いていた。

 原因を突き止めに行ったヴォルトはまだ主術者を発見できないのだろうか。

 自分ではそれを真剣に行うつもりのなかった大将だが、あまりに事態が逼迫してきたので仕方なく自分も動いた。折角戦場に来ているのだから、手助けの1つもしないで軍が撤退などしたら、後で皇帝にお叱りを受けるだろう。

 そこでサール=バラ=タンは城を攻撃することにした。主術者が何処に隠れているか判らないのならば、一番痛い所を突いて誘き出してやればいい。探すよりも炙り出す方が、面倒が少なくて手っ取り早いものだ。

 サールは背に負うだけで手に取っていなかった大鎌をベルトから外してしっかりと握った。相手は術者のようだから、こちらも大魔法を見せつけてやろうではないか。

 大鎌の付け根にある宝玉が青く輝く。

 城兵の1人が、鳥以外の影の存在に気がついた。それが何なのか特定できぬうちにその影から青い球が発射され、こちら目掛けて飛んでくる。

「――――――敵襲!! ―――――敵襲!!」

そう叫んで警戒を促すが間に合わなかった。青い光球は城に着弾すると炸裂して脹れ上がった。秘められていた巨大魔方陣が封印を解かれて広がる。

 膨らんだ魔法陣の領域内にいる兵士達は、途端に自身の体の重みが何倍にもなったのを感じて地に押し付けられた。重力魔法だ。しかも人間達には考えられないようなレベルの。

 上から大岩でも滑落して来たかのような衝撃を受けて城壁にはヒビが入り、やがて兵士諸共に一部がガラガラと崩れていった。石など、重量の大きいものに一番負荷がかかるので、耐荷重量を超えたり老朽化した部分があったりすると、そこから先に耐えかねて崩壊していくのだ。

 着弾した場所の周辺、半径30ディーオスの西側城壁が崩れ、人々の叫びが空を刺す。西塔が倒れ、瓦礫の上に重なった。石が砕けて起きる土煙がもくもくと上がり、それすらも空気の重みですぐに沈んでいく。この魔法の残酷なところは、崩れた後も尚、上に乗る瓦礫以上の負荷が下にいる者にかかるという点だ。

 ギリギリ境界の外にいて崩落を目撃した者は、どうすることも出来ずに悲鳴を上げた。性質を見抜いて魔術師がやって来るが、反対呪文を投げてもあまりの規模に太刀打ちできない。

 サールは手を止めて嵐の様子を見たが、全く変化はなかった。少なくとも主術者は今の崩落の中にはいないし、全く動じていないということだ。

 のんびりしている暇はないから、サールは第2弾を放った。たった今破壊した所から少し離れた場所に同じ重力魔法を施す。建物とはバランスが大切なので、重要なポイントを何箇所か壊してやれば、自らの重みで全体が崩れていくものだ。だからサールは主塔や中心部を狙わずに周辺部を攻撃していた。


 アルファブラ王は西側地区から徐々に崩壊が起きていることを知らされ、ヒヤリとした。主城の真下には3人の王族の女がいる。もう既にセイルが脱出させた頃だとは思うが、報告を聞くまでは安心出来なかった。崩壊が主城に及ばぬよう、王は攻撃を防ぐ為に西側地区に向かって走った。


 少年は高台の屋敷からアルファブラ城を見て怖気が走った。これまで持ち堪えているように見えた城の優美な尖塔がいくつか崩れている。この高台から見る限り、風の力による破壊ではないようだった。城の一部分だけが集中的に崩れているのだ。敵の強力な砲弾を受けるか、さもなくば破壊魔法を受けるかでもしなければ、なかなかあのように崩れることはない。この嵐に負けず鳥が攻撃を行っているのか、或いは別種の敵がいるのかもしれなかった。

 このままでは城は落ちてしまうかもしれない。少年は判断に迫られた。今の所この屋敷への攻撃はおさまっているし、父母も無事のようだ。ここで手をこまねいているより、一番攻防の激しい場所に行って助けるべきだろう。だが、一度ここを離れたら、また戻って来るのは大変な手間だ。その間に父母が死んでしまうことだってあるかもしれない。

 少年は目立たぬよう、また自分の正体が知られぬように、記憶にある技の数々を未だ試していない。だが、体格の問題による一部の体術の不可能さを除けば、思い出せたものはどれも行えるようだった。

 だから少年は、ここでようやく飛翔術を試すことにした。マントのフードで特に顔を厳重に隠し、方角を定めて大地を蹴る。体はフワリと浮き上がった。

 何の造作もない。かつてこれを日常的に使っていた感覚が体に染み付いており、全く危なげも不安もなく空に舞い上がる。

 『行ける』と思った所で少年は城に向かって自らの体を飛ばせ、加速させて行った。


 もう1つの気配がこの邸宅を離れていくことに竜人は気づいた。この速度からして、飛翔術で移動しているらしい。もう一方はまだここにいるが、どうしても竜人はこの離れて行った者の方の気配に心惹かれ、追わずにはいられなかった。

 さして迷いもせずに、竜人は気配が残したオーラの残り香を頼りに高台を飛び立った。


 ああ、敵の気配が薄れていく。ソニアは心の片隅でそれを感じながら、意識の大半を尚一層嵐に向けていった。一番おそろしかった存在は遠ざかっていくから、後は敵軍を退かせるまで嵐を維持するのみだ。

 激しい消耗によって、ソニアは気を失いそうだった。魔法で起こす風と違うから、普通に起こす程度ならこれまで殆ど疲れを感じたことがなかったが、ここまでのレベルとなると話が違うらしい。

 魔法で竜や獣に姿を変えた時、あまり長く変化していると、やがて人間の心を失って元に戻れなくなると聞いたことがあったが、これはそれに近いと思った。ある境界を越えた向こうにずっといると、自分が生身の肉体を持つ生命であることを本当に忘れて風そのものになって溶けてしまいそうだった。

 それでも、止めるわけにはいかない。この技の危うさを今まさに実感しているからこそ、一度止めればまたこの境地に立つことはおそらく無理であろうと解るのだ。

 ここが一番守りたい国ではないが、手を抜くことができようか。

 空にはまだ沢山の鳥が飛んでいるのが感じられる。心の中で空を思った時に、塵がキラキラと舞うのを見るように飛翔する鳥の存在が感じられるのだ。

 これが晴れてスッキリするまでは……。

 一度茂みの中に入ってしまったので、目視では外の様子が見られなくなっている。自分の集中力がいつまで持つかわからないから、規模を縮小することになってもより的確なポイントに操作出来るよう目でも見るべきと思い、ソニアはゆっくりと這いずりながら茂みの外に出て行った。

 マントを被って4つん這いになれば、それほど棘の抵抗を受けずに進むことができ、一方で嵐を起こしながらの動作だから遅々としてはいたが、やがて身を完全に茂みの外に出した。

 立ち上がる余裕まではなく、座り込んだ格好のまま、顔だけを上げて街を見る。木や柱の隙間から見える限りでは、我が技の成した威力は相当に鳥軍を翻弄させているようだった。

 城は元の形より幾分か崩れてしまっているらしい。トライアの城が同じような攻撃を受けた時のことをふと思い、熱がさらに灯って嵐を支えた。

 状況を確かめた後は再び目を閉じて大気の意識に集中する。その姿は、端から見れば祈りを捧げているようでもあった。

 それを、物陰から1羽の鳥が見つめている。羽根を少し負傷した為に地に降りてきて、人間に見つからぬよう隠れていた者である。風がこんなに強いうちはこの翼では飛び立てまいと思っていたので、それが過ぎ去るまではこうして様子を見ているつもりだった。

 が、そこに何とも不思議なことをしている人間がいるので目につき、ジッと観察した。言葉を話せないし、それほど賢くもないが、何が起きているのかを理解する力はある。そして鳥族全体が信心深いから、祈りというものが何かも知っている。どうもそこにいる人間は何かに祈っているようだった。無理もあるまい。こんなに都市が手酷く攻撃を受けているのだから。

 また、天意とも思える嵐が起きているから神に感謝しているか、これを続けるよう願っているのかもしれない。敵ではあるが、その心理は自然に理解できた。

 今の鳥には何もできないから、この嵐がどうなるのか、あの人間の祈りが届くのかどうか、成り行きを見守ることにした。


 飛翔術で城に近づいた少年は、まずはこの破壊攻撃が何によってもたらされているのかを見極めるべく、城の外周部から様子を窺った。

 かつてここで働いていた若かりし時代の記憶が胸を擽る。その、記憶にある華麗な建築が手酷く傷を負っているから心が痛んだ。彼が終結させた大戦の時は、この都市はここまでの攻撃を受けていない。歴史書を紐解いて見ても、おそらく数百年前に溯ってもないだろうと思われた。

 この戦いは一体何なのだ? ヌスフェラートではなく、どうして鳥がこの国を襲うのだ?

 ああ、記憶が甦ってくれたらいいのに!

 少年の感覚は、この城の何処かに強敵が潜んでいることを教えていた。しかも妙な吐き気を催す存在感がある。しかし、この場所に様々な思い出が残っているせいもあって、それらが心の中で騒いでいるから、それによる酔いと区別が出来ず、少年はそのエネルギーを追った。

 外周部に当たる城郭から飛び下り、まだ無事な庭園を走り抜ける。小さな背の者が横切っても、他の者は自分のことで忙しくて取り合っている暇がなかったが、一瞬だけ、あれは子供ではないかという思いが頭を掠めた。

 崩壊をきっかけに、バランスの悪くなった箇所も崩れ続けている。その震動が足にビリビリと伝わってきた。腹の中を揺す振られ、怒りがこみ上げてくる。

 アルファブラが落ちたら、世界に激震が走ってしまう。大砲も矢も剣も魔法も効力を成さずに世界最強国が滅びたとあっては、他の国の士気にも影響する。戦意を喪失して、戦う前から気持ちで滅びてしまう国がどれだけ後に続くだろう。この城を失ってはならない。

 今度は爆発が起きた。この音はこちら側の攻撃ではないだろう。火薬の臭いはしないし、火器が爆発する時の音とも違う。魔法の場合は光の色や音が独特で、着弾音や、中に仕込んだ火薬の連鎖爆発音はしないから、純粋に炸裂する破裂音しかしないのだ。

 大規模な重力魔法に破壊魔法。なかなかやってくれるではないか! これは鳥の仕業ではないだろう。きっとヌスフェラートがいるのだ。

 少年は小門や通路を幾度も通って、その気配に近づいた。ある通路をくぐった所でその先が崩れて見通しが良くなっており、惨憺たる有り様を見せた。

 少年の目が苦痛に伏せられる。瓦礫の所々から人の姿が見えるのだ。

 自分の足下に魔方陣の境界である青い光が薄っすらと輝いているのを少年は目に留めた。この先には進めない。この規模では、これから反対魔法の結界を作って相殺するのは骨だろう。とにかく主術者を叩いて、これ以上の被害が出ないように努めるのが上策だ。

 少年はこの開けた空間の上空に滞空する1つの影を見つけた。羽ばたきがないから目立つので気がついたのだ。鳥でもないし、あの鱗だらけの者でもない。きっとこいつの仕業だ。

 ほんの1歩身を引いて少年は姿を隠し、ブツブツと呪文を詠唱した。

 そして影に向け、えいっと放った。彼の技は熟達しているから、見事に集束して狙いを外さず、直線的な軌跡を描いて影に向かった。

 人間達の魔法攻撃や矢が当たらぬように障壁を張っていた影にもこれは効いた。魔法は弾けて障壁ごと影を包んだ。攻撃というほどの攻撃ではないが、これは長時間持続する煙幕で、本来なら自分の身を守る為に使用されることが多い。だが、こうして敵の視界を遮る役にも立った。

 すぐに払われてしまうかもしれないが、ほんの暫くでも攻撃を止められれば次の手が打てるというものだ。人間達が仲間を救助する時間稼ぎにもなる。

 影は、パッと光が弾けてからドッと広がった煙の様子から、すぐにそれが魔法であると察した。ホウ、やり方を変えてきた魔術師がいるなと思い、ニヤリと笑う。多少は手応えがあった方が楽しいものだ。

 煙を払う霧払いの呪文を唱えると、爽風が影の周りを包んで煙をさらっていった。

 が、すぐまた別の閃きが起こって新たな煙が影を包もうとする。どうやら敵はとにかく徹底的に目隠し作戦を実行したいらしい。

 少年はヒョイヒョイと動きながら影に魔法を放ち、ほんの少し余裕ができるとその場で魔方陣の基点を作った。崩落している空間を上回る大きさに計6箇所必要だ。影がいつまでも同じ場所に滞空しているわけもないだろうから急がれる。

 転がっている石の欠片を拾って片手に握り、呪文を唱えて魔法の力を込める。すると小石はボウッと青白く光って基点を成せるほどの力を持った。

 少年はそれを足元に置くとまた走り、煙幕の魔法を放ちつつ瓦礫の壁を越え、基点を置くに相応しい地点を探した。

 影は煙が鬱陶しくなってきて、呪文で払うのに任せず自分の体を動かした。もっと上空に昇りつつ、城の領域外へ出ていく。呪文で発生させた煙だから動いたってついて来るのだが、次弾を浴びなければいずれ煙は切れるのだ。

 すると、ほんの一瞬煙が切れた時に下で何かがチラリと光っているのが見えた。あれが術者の居所に違いないと思い、影はその体勢から炎球を連射した。目標が正確に定まっていないから、エネルギーの低い炎球を数撃って当てようという試みだ。

 敵がその戦法に出たことは少年にも解っており、空から飛んでくる無数の炎球に気をつけて、時にはヒラリと避けながら魔方陣基点の完成を急ぐ。

 煙幕が切れた時、影は下に小さなマント姿の者が蠢いているのを見つけた。どうやらあれのようだと見定め、しかもあれだけ撃った炎球が1つも相手を掠めなかったようであると知ると腹立たしくなり、影は急降下した。どんな者か見てやろう。

 些細な生き物を殺すのでも、ただ殺すよりは相手の目を見てジワジワやるのが一番楽しいものだ。

 基点の完成と同時に煙幕が晴れて敵が下りてくるのを見た少年は、すかさず魔方陣を起動させる呪文を唱えた。

「――――――サーム・オー・ドル・ザンパ!」

少年の手の振りで基点が輝き、互いの位置を確認するように光を放って結んだ。小規模ならより正確な図形を描けばあっという間に発動するが、規模の大きい場合はそうはいかない。しかもこのように余裕がない時は少し時間がかかった。

 基点石が相互に位置を補正し、自らカタカタと動いてより正確な正6芒星を描ける位置に移動する。術者の込めた力が強いほど、その作業は速やかに行われる。

 舞い降りてくる影はその6芒星に気づいたが、既に遅かった。

 少年は完成した魔方陣をベースに呪文を唱えた。

「――――――バル・クリアー!!」

すると急速に魔方陣の輝きが増し、目を刺すほどの眩しい白光を放って影をも包んだ。陣が回転して球状になり、地上にも高さを持って、範囲内にいた影も呑み込まれてしまう。

 相手が子供程の背丈であったこと、そしてまさか人間にこのような技を使える者がいるわけがないという思い込みがこの油断を生んでしまった。

 光の領域の中に入ってしまった影は、未だかつて感じたことがない程の無力感に全身を刺されながら地に落ちた。背骨を抜かれ魂を縛られてしまったような、或いは男の力の源であると信じているものを死神にギュッと握られたかのような、我が身の萎縮を感じる。

 しかも施術者が何を唱えたのかを影の耳はしっかりと聞いていたから、自分が大変おそろしい状況にあることが解っていた。

 何てことだ! この陣から出なければ! 死んでしまう! 殺されてしまう!

 影は落ちた瓦礫の上で這いずった。

 少年は瓦礫の中から兵士の剣を抜き取って影に近づいていった。これは反対魔法ではないが、新たな魔法のお蔭で重力魔法の施術者が死にかけているので、その威力が弱まっており、生き残っている幾人かは意識を取り戻してその光景を見ることができた。

 少年は影の傍まで来て、その姿を認めると、全身を電流が駆け抜けていくような衝撃を受けた。体が硬直してしまい、そのまま固まってしまう。

 哀れなほどに萎れている目の前の悪魔を、そのままの姿で目にしたことはないはずだ。だが、この人物を自分は知っているのだろうか。きっと、自分の心臓を凍り付かせるだけの何かを、臭いを、この悪魔は持っているのだ。一体何なのか、よく解らない。

 だが、よく見れば、どこかにあのバル=バラ=タンの面影を感じる。自分の手で殺して再生不能にしたあの悪魔に。

 まだ思い出せない記憶の中に、このバル似の悪魔とのおそろしい結び付きがあるのだろう。それも、ゾッとするようなことが。

 殺してしまわなければ。それは確かだ。

 影は近づいてきた小柄な人間を見て呻き声を上げた。長き人生の中で、これほどの命の危機に直面したことはない。こんな簡単な罠に引っ掛かって人間に殺されたりなどしたら、バラ=タン家末代までの恥となってしまうだろう。

 影は息をつきながら必死で瓦礫を攀じ登ろうとした。が、我が技によって見事に崩れている石くれ達は、手や足をかけたそばからガラガラと転がり落ちる。

 逃げられない。この陣の中から出なければ、殺されてしまうのに。

 背後には剣を持つ小柄な人間が迫っていた。

「うぬは……何者だっ!! 人間なのかっ?! 顔を見せろ!!」

自分の声がみっともなく上ずっているのを聞いて、影自身が驚いた。何と弱々しくて情けない声であろうか。これが伝説の天使を葬った猛将サール=バラ=タンなのか?

 マントの者は目だけを露にしており、それ以外は全て布を巻いて覆っている。その目はキラキラと見開かれており、とても澄んだブルーグレーをしていた。

 殺される。影は居竦んだ。

 その時、空から滑るようにやって来た大きな翼が影を掻っ攫って魔方陣の外に運んだ。境界の外に出るや乱暴に放り投げられ、影は地に落ちて転がる。大将に対する扱いとしては酷いものだが、絶体絶命の危機を救ってもらったのだから文句も言えない。

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