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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第12章
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第3部12章『ディライラ狂想曲』5

 翌朝、陽も昇らぬうちからソニアは起きて、トライアに帰るのは今か今かと心待ちにした。

 着替えた後はずっとテラスで夜明けのソドリム港を眺め、紫色の靄が立ち込め、それが次第に白くなっていくのを見ていた。鳥が小さな点となって空を行き交い、漁師の船が幾隻か船出している。港の朝は何処も同じのようだ。彼方の空は灰色に霞み、厚い雲が覆って夜明けを拒んでいる。ナマクアと違ってここは年中雨量が多いから、今日も一雨あるのかもしれない。

 あぁ、早く帰って皆を安心させ、王様にあの実を食べさせたい……!

 ソニアはナマクア大陸がある西南ばかりを見つめ、トライアスに国の変わらぬ無事を祈った。

「ねぇナルス、トライアってどんなトコなの?」

ポピーはソニアに興味津々なので、彼女のこれまでの生活にもかなり関心があるらしい。昨夜は長々と話してはいられなかったので、互いのことにはあまり触れられなかった。だからソニアはこうして待つ間、トライアのことを語った。

 1つの説明が終わると、ポピーはその更に過去を知りたがるので、徐々に時間を溯っていき、最後には森での生活にまで辿り着いてしまった。ポピーはフウンとやけに納得して1人頷き、遠くを見る。この子にも、何か思う所があるような様子だ。

 だが、ソニアが自分と村との関係について尋ねても、姿は皆と似ているけど親は思い当たらないと返され、それ以上話の発展はなかった。誰も彼もが何かを隠しているようで、どうもソニアは腑に落ちなかった。

 こうして話しているうちに、気がつけば外は明るくなっていた。

 隣室からノック音とフィンデリアの声がする。

「起きてます?」

ソニアは扉を開け、朝の挨拶をした。フィンデリアもすっかり仕度済みだ。カルバックスも彼女に呼ばれて出てきた。本物の侍女ならば彼女の目覚め前に立ち働くものであるが、カルバックスは男であるし臣下であるから、双方微妙に気遣うところがあるようだ。

 3人揃ったところで、今日これからの予定を軽く打ち合せた。ソニアは勿論、流星術師待ちで帰国するのだし、フィンデリアの方は朝食を摂らせてもらったら、挨拶してすぐに立ち去るつもりのようだ。カルバックスはただ従った。


 朝食の席には王族が揃って顔を出しており、そこでフィンデリアが暇乞いをすると早速反応が起きた。引き止められるのは社交辞令として当然のことだが、その熱意はフィンデリアの予想を上回っていて、彼女を驚かせたのである。

 まず王は今宵歓迎の宴を催すつもりだと言うし、ニルヴァ王子も是非街を案内したいし、もっとホルプ・センダーのことを聞きたいからと、せめてもう1日は滞在していくよう強く勧めた。何やらそれ以外の理由も熱意に含まれているのは、一部の鋭い者には確かに察せられた。

 フィンデリアは、ここまで望まれて去るのは失礼だと悟って、滞在を引き延ばすことにした。カルバックスは何やら可笑しいようで、クスクスと笑っている。

「ところでナマクア向けの流星術者なのだが、先程戻って参って仕事を片付けている所なので、この食事が済み次第、手が空いたら飛ぶことになった」

「ありがとうございます。助かります」

ソニアはワクワクした。話すことが沢山あるし、思いがけないお土産もある。

 一夜明けて少し落ち着いた様子のアマンネルとスコラは、それでもまだ怯えた顔をして、ぎこちなく食事をしていた。その2人を王妃が優しく見守り、食事を取り分けたり口に運んでやったりした。そんな光景を普段あまり目にすることがないので、ソニアは何ともくすぐったい気持ちになり、子がいれば  こうして暮らしていたに違いないトライア王夫妻のことを思い、切なくなった。

 一家だけなら質素に済ませることもある朝食も、今朝は国賓が同席しているとあって、とても華やいでいる。山ほどの生花も飾られて、姫君を精一杯歓待しているのだ。

 ふとソニアが見れば、大輪のダリアが1輪、不自然に揺れてキラリと光の粉が零れたので、ギクリとして軽く咳払いをした。花が好きなポピアンが近づいて、つい興奮から光を零してしまったようだ。あの天真爛漫さからすれば、他にどんなことをしでかすか分かったものではない。

 ソニアは直接注意をすることが出来ないので、ドキドキとしながらテーブルの上を満遍なく見渡した。あまり注視していると怪しまれるし、食べ物が欲しいとも思われかねないので、目のやり方にも気を遣った。

 時々、自分の皿の上にある豆が独りでに揺れたり、葉野菜が虫に食われるように少しずつ欠けていったりするのを発見して、ソニアは慌てつつも何食わぬ顔をして手でそれを隠した。幸い、注目は発言者の方に集まっていたので、気づかれずに済んだようだ。


 食後、早速王子はフィンデリアを連れ出してソドリム散策へ向かった。カルバックスも付き添う。ソニアは術者待ちで城に残る為、ここでお別れの挨拶をした。

「またお会いしましょう」

「えぇ、必ず」

ニルヴァはフィンデリアを1人占めしてしまい、代わって残ったエミリオンがソニアに興味を示した。やがてホルプ・センダー入りすると見られている人物であるし、始終フードで魔術師よろしく顔を隠しているので、謎めいて見えるのだ。しかも時折チラリと覗く目鼻立ちは決して醜面ではなかった。

 自分もニルヴァと同じくホルプ・センダー入りを夢見ているエミリオン王子は、謁見室のテラスから街を眺めているソニアに声をかけた。

「ところで……あなたはどちらのご出身なのです?」

「……トライアです」

もうすぐ帰れるのだから、出身国まで偽らなくてもよかろうとソニアは判断した。

並んで立つと、エミリオンはソニアの肩くらいの背だった。17歳の少年としては平均的な身長だが、女性にしては長身のソニアと並ぶからそうなるのである。だからか、エミリオンの方でもソニアが男性なのか女性なのか判断がつきかねていた。当初は男だとばかり思っていたのだが、発言した時に聞いた声は、高くはないが澄んでいて美しかったし、フィンデリア姫も《ナルス》と呼んでいて、それはどちらかと言えば女性的な名前だったので、この長身の人物は女なのではないかと考えるようになったのである。そこで初対面の印象と、その後の考えとで二分されていて、まだどちらにも行けずにいた。

 エミリオンはそっとフードの中を覗き込んだ。目と目が合い、思わず息を飲む。

「失礼ですが……あなたは魔術師でしょうか? それとも剣をお取りに? どのような技でホルプ・センダー入りを考えてらっしゃるのですか?」

「……私は戦士です」

「戦士……。では、何故そのようにマントで姿を隠してらっしゃるのです?」

「……現在、隠密行動中なのです。あまり姿を出せないものですから」

エミリオンはひどく感心して何度か頷いた。若者らしく《隠密行動》という、如何にも危険を孕んでいそうな使命にときめいているのだ。王族として無茶を許されていない生活があるから、尚のこと、こんな者に憧れてしまう。

「……もう皇帝軍とは戦ったことがあるのですか?」

「……ええ、何度か」

「どんなでしたか?」

「どんな……というと?」

「ホルプ・センダーは……我々は、皇帝軍に勝てるでしょうか? どうお考えです?」

このエミリオンは、兄ニルヴァよりも若干強く皇帝軍の脅威を感じているらしい。ただ血気盛んで勝ち気なだけでは自軍を滅ぼしてしまうから、敵の力を侮らないことも将には必要だ。あの兄とこの弟で、ちょうどいいバランスかもしれないとソニアは思った。

「……わかりません。皇帝軍の力はあまりに強大です。まだ総攻撃を受けてはおりませんから、全ての力を結集して攻め入られた場合、どうなるかは全く予測がつきません」

前線に立つ者がそう発言したとあれば、王子の不安と恐怖がいや増した。そして覚悟も深まる。これこそが重要だ。

「……あなたやフィンデリア姫が戦う姿を見てみたいものです。どれほどの強者ならば、ホルプ・センダーに加わり、足手纏いにならずに皇帝軍と渡り合えるのか」

「加わらずとも、自国にて戦えば良いのです、王子。必ずしも重要な戦いの全てに彼等が立ち向かえる訳ではありません。限られた戦場にしか足を向けられないのですから。一度国を出れば……必ず有事の際に帰れるという保証はありません。気づいた時には手遅れということも有り得ます。そんなことはお嫌でしょう?」

「…………」

同じ事を父や母、その他大勢の者達に言われ続けておりウンザリとしていた王子だったが、謎の戦士に真に迫った口調でそう言われると、今までと違って聞こえた。

 その時、魔術師を手配してくれていた官吏がやって来てソニアに言った。

「流星術者をお待ちの方ですね? 大変申し訳ない。たった今急な知らせで出立させてしまいました。情報収集のみですので、昼前には戻ってくると思われます。もう暫くお待ち頂けますかな?」

ソニアの顔は曇ったが、この時世ではやむない事である。王子も顔を見合わせた。

「何かあったのか?」

「敗走して行方知れずになっていたサルファ王が生き延びているという知らせが入ったのです。救援を求めているとのことなので、真偽と現状の確認の為、陛下が派遣を命じられました」

サルファと言えばサルトーリの隣国で、サルトーリの次に攻撃された国である。ソニアは感嘆の声を上げて言った。

「事情は解りました。それならば勿論、そちらが優先されるべきです。私はもう暫く待たせて頂きます。それに――――サルファと言えば、フィンデリア様も向かわれるかもしれません。お知らせした方が宜しいかと」

官吏は承知して慌ただしく謁見室を出て行った。

 ビヨルクに続きサルファと、陥落した国で生き残り助けを求めている人々がいる知らせは、ささやかながら滅びの絶望感を和らげた。

「このような人々の救援こそ、あなた方にしか出来ない戦いではないでしょうか? ホルプ・センダーに物資の手配や人材の派遣までは出来ないかと存じます」

「…………」

王子は謎の戦士の眼差しに見入り、そして視線をソドリムの港に移し考えた。


 フィンデリアとニルヴァ王子は、専用の飛翔術者の手を借りて一飛びに高みから海抜0地点にまで下降した。カルバックスも後に続く。そこからは待機させていた馬車に乗り込み、衛兵が四方を囲んで警備に当たりながら繁華街の散策を始めた。

 目立たぬようにという配慮は全くなく、その必要もないから、4頭立ての白い馬車は金装飾の煌びやかさもあって、道往く人々全ての目を引いた。双頭の海竜の紋を見れば民は一目で王族であると判るし、王位継承者ニルヴァの顔は知れているから、国民は道を退いて頭を下げ、敬意を示した。

 王子はこの都市の活力源である港の大倉庫、大型船の並ぶ大桟橋、立ち働く者達の熱気が上がる市場を次々と案内していった。ただの一般市民では立ち入れないような監督席からも全体を見下ろすことが出来て、船の出入りと、物と人の出入りがこの都で如何に重要であるかが見て取れた。

 祖国サルトーリにはこれほどの海運業がなかったので、フィンデリアはひたすら感心して賛辞を述べた。ニルヴァは我が国の力が誇らしくてならないので、憚らず自慢に徹していたし、この大戦で名を馳せている姫が相手だから、尚のこと若者らしい自己顕示熱も加わって、これからの事業計画や防戦のあり方を熱く語った。フィンデリアが驚いたり笑ったり目をキラリと輝かせる度に、ニルヴァはゾクゾクして胸を膨らませた。

 術者を乗せて漁に出た船の収獲は上々で、大きな回遊魚が宝物のように陳列され、銀色の輝きを放っている。他にも、深い海に棲むややグロテスクな魚や、赤く派手な魚、背鰭のレモン色が美しい青魚、刀をそのまま魚にしたような厚みのない魚と、様々なものが並んで競りにかけられていた。

 海を渡ってやって来た他国産の香辛料は麻の大袋単位で取引がされている。織物、果物、野菜、薬品原料、陶磁器、ガラス細工、貴金属、刀剣類、穀物等々、それぞれの専用スペースで検分と商談がされている。その道に通じた商人達の目は鋭くて厳しく、生き生きとしていた。

 これから出航予定の船と護衛役の契約を結ぶ事務所では、魔術師と戦士等がたむろして、次の契約を結ぶ為に、めぼしいものをリストから探そうと掲示板を見上げている。成立したものは次々と掲示板に赤印がされていった。稼ぎたい者には格好の場所だ。勿論、危険を顧みないことが最低条件ではあるが。

 カルバックスは少し距離を開けて歩きながら2人の後について行き、じっくりと観察していた。王位継承者を預かる大役を任せられた臣下として、姫君の未来を憂いていたので、こうして他国の王室と交流することで相応しい縁談でもないかと願っているのだ。だから、姫君の機嫌を取ろうと躍起になっている王子の様と姫の反応は、彼にとって目が離せないものだった。

 彼の見立てでは、王子は大いに姫を気に入っている。そして姫の方は――――――ディライラの豊かさと強さに惹かれてはいるものの、残念ながら、その心の全ては未だに獅子人に向けられているようだった。カルバックスは溜め息をついた。

 一行はまた白い馬車に乗って、今度は街の中心地にある歌劇場を目指した。


「貴女は……もし大戦が終結して全てが落ち着いたら、その後はどうなさるおつもりなんですか?」

馬車上で、ニルヴァ王子はチラリと姫に目を向けて言った。姫は立ち並ぶ小売店から目を離さずにあっさりと答えた。

「……先のことは、正直申せば、まだきちんと考えてはおりません。あの獅子人との対決で、生きて帰れるなどという楽観視をしていないものですから」

王子は明らかにショックを受けて目を見開いた。暫く言葉も出ない。そこまでの覚悟をこの少女が抱いているということが信じられなかったのだ。

 そしてフィンデリアはこうも付け加えた。

「……もしホルプ・センダーに加わることをお考えでしたら、同じくらいのご覚悟が必要かと思いますわ」

侮辱とも取れる発言だが、真実だった。ニルヴァはただ黙って姫と真直ぐに見合い、その顔は次第に強く凛とした王者のものに変わっていった。

 馬車は総大理石造りの壮麗な歌劇場に到着した。王子が先に降りてフィンデリアに手を差し伸べる。彼女は高貴の者らしく慣れた振る舞いでその手を取り、優雅に降車した。

 そして手を引かれたまま幅の広い正面階段を昇り始めた時、ほんの数段足を掛けた所で、城よりの使者が馳せ参じてきた。

「サルファの国王が生き残っておられたとの知らせが入りましてございます。先程調査役が出立致しました」

「――――――真ですか?!」

その一報にフィンデリアもカルバックスも顔色を変えた。長年親交のあった隣国とあらば、ただちに自分達も現場に駆け付けたいと思った。

「――――ニルヴァ王子、私、やはり行かねばなりません。街の案内をありがとうございました」

「姫――――――」

カルバックスが伸ばした手を取ろうと、フィンデリアは昇りかけの階段を降り始めた。

 その時、パアンパアンと花火が空で炸裂し、一同ははたと止まって薄曇の白い空を見上げた。王子の表情がサッと強張る。

「――――――襲撃だ!」

護衛役は瞬時に王子達を取り囲んで馬車に乗るよう促した。フィンデリアも王子も拒み、四方八方を見回して敵の影を探った。

 すると、低く地を這うようにブゥーンという震動音が伝わってきて、本能的に皆は総毛立った。

「多い……多いわ……!」

 やがて、空を黒い影が幾つも過って行った。其処彼処で恐怖の悲鳴が上がる。フィンデリアは走り出して、見晴らしの良い高台を探した。

 早くも先陣が着地し、建物の壁や屋根に取りついて、その姿を露にした。全身オリーブ色に輝く巨大な楕円形の虫だ。長い触角が壁をペタペタとまさぐっている。

「――――――虫の軍勢よ!! あの人の警告通り!! 私はここで戦います!!」

王子も既に戦闘体勢で、彼の場合は護衛兵全員に姫の警護を命じ、自分は部隊の指揮を執るべく馬車の馬を外して単騎で城を目指した。

「――――――姫!! 無理をなさらぬよう!!」

「――――――あなたも気をつけて!! 王子」

家屋に取りついた虫達は、モゾモゾガサゴソ動き回って強力な顎で破壊活動を始めた。新たに飛来した大きな蟷螂は、それに代わって動くものを俊敏に追い、鋭い鎌で引き裂いた。

 実際に魔物を目にするのは初めての庶民が多く、逃げ惑い、喚き、泣き叫んで隠れ場所を求めた。

 戦い慣れたカルバックスは、もはや姫君を止める言葉などかけず、ピッタリとくっついて援護に徹した。

「こんな奴らと戦うのは初めてだわ……! どんなものが有効だと思う? カルバックス」

「判りません! あの甲羅に当てても効き目が低そうなのは確かですな!」

「では、目と触角を集中的に狙いましょう!」

フィンデリアは魔術師の杖で目標を定め、蟷螂の双眼を狙い火炎魔法を放った。動きの速い相手だが、魔法射的は彼女の得意中の得意なので、見事に凝縮魔法が人の頭大の目玉を直撃して蟷螂をのた打ち回らせた。

 幾人もの人々が彼女の脇を走り抜けて去って行き、護衛役とカルバックスだけが同じ方を向いて敵に構えていた。


 高台から街を見下ろしていたソニアとエミリオン王子は、逸早く来襲に気づいていた。物見台の兵士が上げた花火の鳴り方と、その後に響いてきた怒号は敵襲を伝えていたのだ。

 この音が何時鳴るか、何時鳴るかと思っていた王子は、実際耳にするとキュッと胸が縮まり痛みが走るのを感じた。

「襲撃ですか?!」

「ええ! そのようです!」

ソニアは顔を歪めた。よりによってこんな時に皇帝軍と鉢合わせようとは! しかし、例え今術者が戻って来たとしてトライアに飛んでくれるはずはないだろうし、してくれたとしても、彼女自身がこの街を捨て置くことなど出来なかった。

 一瞬で決断を下した彼女は、その場で勢いよくマントを脱ぎ、背に負っていた麻袋から鎧を取り出して素早く装着し始めた。

 急にその下の姿を見せた謎の戦士に王子は大いに面食らい、相手がやはり女性であったこと、そして見たこともない髪色をしていること、そして予想以上の麗人であることにすっかり目を奪われて、しばし襲撃のことも忘れてしまった。

「――――――私も戦います! 王子はどうぞ行って下さい!」

「は……はい、どうぞご無事で!」

我に返ったエミリオンは駆け出し、我が部隊の指揮を執りに行った。

 ソニアは手甲も装着し終えると改めてマントを羽織り、今度は顔もキチリと隠れるように深く巻いて目だけを露にした。そして、姿の見えないポピーに言った。

「――――――ポピー! あなたは村にお帰りなさい! いいわね!」

ヒラリとテラスを舞い降りて階下の砲台によじ登り、立つと、黒いものが群れを成して飛来してくるのが目に留まった。海岸線伝いに東からやって来る。絶壁の東側に城がそびえているので、何処よりも早く城の物見台がそれを発見出来た訳だ。黒い大きな影は次々と城を越えて、港街へと舞い降りて行った。

 羽ばたきの機械的な音だけで、ソニアはこれが虫の軍団であると判った。これだけの数なら、混成部隊であったとしても指揮統率は虫王大隊と見て間違いない。

 ソニアは束の間迷った。王室一家を守る為に城に留まるべきか、或いは逃げ惑う民を助けに下へ行くべきか。城下街にはフィンデリア姫とニルヴァ王子もいる。この城を一度降りれば、術者に運んでもらわなければすぐに戻るのは難しいだろう。

 だが、ソニアはより多くの命を救うべく民を選んだ。絶壁に近い城壁を飛び降り、兵士に驚き見守られる中、目も眩む断崖を降下した。普通の者なら死んでしまう高さだが、彼女には身を守る風があるので、それを強烈に下方から発生させて上昇気流を起こし、風の抵抗で落下速度を落として、問題なくフワリと着地した。そして、すぐさま中心部に向けて駆け出した。

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