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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第12章
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第3部12章『ディライラ狂想曲』3

 夜になってもバザールは人通りが多く、ランプの数も多くて、まるで昼のようだった。フィンデリアから自分の護衛者として振舞うよう提案されていたので、ソニアはカルバックスと肩を並べて彼女の少し後ろを歩くようにした。この方が何かと都合がいいのだとか。よく解らないが、拘りは全くないので、ソニアはただ従った。

 酒場通りを戻って元の大広場まで出ると、未だに露店が軒を連ねて食べ物を売っているし、踊り子や歌い手までが出没していた。そこを通り抜けて、1番大きな中央通りに入って行く。飲食店、宿屋、湯屋、マッサージ屋と、生活的な店が続く。

進むうちに、やがて住宅が多くなり、それもなくなり前方が開けると――――馬が屯する広場と、歩哨が立つ大きな門が現れた。見上げれば、切り立った崖と、それと一体化している巨城が聳えて出迎えている。ディライラ城だ。こうして見ると、闇夜に立つ大きな巨人のようだった。マナージュに比べれば単に大きい程度だが、それでも圧倒する威風がある。

 フィンデリアは城門を預かる歩哨に止められ、自分の身分と用向きを明かした。

「ホルプ・センダーが使者、サルトーリ王国王女フィンデリアです。ディライラ王にご面会願いたく、参上いたしました。お取次ぎ願います」

そこでカルバックスが懐から宝剣を取り出して見せると、兵士はそこに刻まれた百合と龍の紋に目を白黒させて戸惑った。通常はこの様なルートから高貴の者が訪問することはないからだ。

 しかし、彼女の告げた国名からすれば有り得ぬことではないので、歩哨兵はまず真偽を確かめる為にも城門をくぐらせ、1つ上の階層にまで昇らせた。訪問者の用向きを検分する場所である。多数の兵士がフロアーを取り囲み、不審者が紛れてはいないか目を光らせている。

 本物であったら待たせるような失礼をしてはならない貴人なので、兵士はすぐに検分係に目利きを頼んだ。順番待ちの列を無視して係の者の方が出て来て、もう一度カルバックスが差し出した宝剣を検めた。そして2人の身なりをよく見て、汚れる前の煌びやかさを想像するとサッと顔色を変えて伝令を走らせた。

 この高低差を補う為に、城内には連絡用の銅線電話が発達している。検分係は幾つも並ぶパイプの1つを迷わず選んで金具を引き、そのパイプの口に向かって2、3回用件を繰り返し言った。そして、今度はパイプに耳を近づけて聞き入る。戻って来た係は「間もなく迎えが参ります」と言って傍らの椅子を勧めた。フィンデリアは「いえ、結構」とあっさり断り、自分の接待よりも職務に戻るよう促した。

 やがて階上から転げるようにして現れたのは、より高位のローブを纏った官吏の者だった。その者は恭しく礼をして3人を先導し、幅広い階段を昇って行った。王の居室まで道程が長いことを官吏が断り、フィンデリアはそれに「構いません」と答える。そして、逆にこの様な夜分突然の訪問を詫びた。

 昇って上階に辿り着く度に違う宮殿があり、そこを通り抜けてまた昇り階段に入る。それを何度も繰り返しているうちに空が大胆に開けて見えるようになり、右手に港街が一望出来るようになった。どんどん昇れば昇るほど夜景の美しさが増していく。

 やがて屋内に入り、そこから先はひたすら階段とフロアーの繰り返しになった。幾人もの人が前を横切ったり通り過ぎたりしていく。その多くが、何者だろうと3人のことを盗み見ていった。一目で正体が判るような有名人ではないし、煌びやかな衣装を着ていないので、まさか一国の王女だとは誰も思っていない様子だ。

 通常の賓客なら、こんなに長くて急勾配な道を歩かせられないので、折り合わせて定めた時刻に使者が迎えに赴いて流星術で上層にまで連れて来るものなのだが、こうして何の予告もなしにやって来るより手段がない場合は、完全な登山となってしまう。

 ソニアには何でもない運動だが、フィンデリアとカルバックスは明らかに途中から息が上がっていた。案内役の官吏もだ。

 たっぷり時間をかけて上層に辿り着き、まずは上品な小部屋で小休止させられた。下から昇ってきた使者が、まずは一度休んで落ち着いてから会談出来るようにとの配慮で用意されている部屋なのだ。少々よろけるようにして椅子に座り、出された茶を飲むと、フィンデリアもカルバックスもフウと大きな溜め息をついた。

「噂には聞いていたけど、凄いわね。こんなに昇らされたのは初めてよ」

「下の街が攻撃されたとしても、この城は落とせないでしょうな……」

ソニアも最初はそう思ったが、空飛ぶ編成部隊で来られたら、逆に孤立するおそれもあると考えた。

 フィンデリアは姿見で丹念に身嗜みを整え、疲れが出ていないかを確かめた。

 一頃して、今度は別の者が迎えに来た。更に上級の官吏らしい真白なローブを着ている。いよいよ王と会談出来るのだ。赤絨毯の続く豪華な回廊を進み、大理石に金装飾の柱を幾本も通り過ぎ、3つの大扉を越えると、その先に謁見の間があった。この時分に正式な謁見を望む者はあまりいないから、広々とした空間に他の訪問者は見当たらない。城の衛兵と官吏の者が急いで来た様子で配置に着き、そこに並んでいる。玉座は空席だ。

 奥行きの長い長方形の部屋には10本の大きな柱が2列に並んでおり、それぞれに海洋の神話にまつわる生き物の彫刻が載っていた。何から何まで豪華絢爛だ。ソニアがこれまでに訪れた数少ない国の中では、明らかに1番金持ちの国だろう。――――ヴィア・セラーゴを除いての話だが。

 3人が玉座の下で待つこと暫くして、やがてディライラ王が大股でやって来た。

「これは、これは、よくぞ参られましたな!」

カルバックスとソニアはその場で片膝つき、フィンデリア1人はお辞儀をして王と対面した。夜の寛ぎ着そのままで現れたので、王の装いは紫色のローブをベルトで留めているだけのシンプルなものだった。

 王は玉座に上らず、そのままフィンデリアに歩み寄って手を差し出した。彼女はその手を取り、王の印である指輪にはめられた大粒のダイヤに接吻した。

「私はサルトーリ王フィンデロールの第3子、王女フィンデリア=ドラ=ミスラ=サルトルです。お初にお目にかかります、ディライラ国王」

今度は王が彼女の手に接吻した。親子ほどに歳が離れている。実際、王には同じ年頃の子供が何人かいる。

「サルトーリの事には胸を痛めておりましたぞ……! よくぞ生き延びられましたな!」

フィンデリアは、こんな時刻に突然訪問したことをまず詫びた。王は酒を嗜んでいただけだと言い、このような堅苦しい場所ではなく、もっと落ち着ける部屋で親しく話そうと誘った。フィンデリアは全く堂々としていて、承知しながらこう申し出た。

「お会いして早々お願いを申し上げるご無礼をお許し下さいますか?」

「構いませぬ。何ぞ申してみなされ」

フィンデリアは跪くソニアを指し示した。

「実はこの者は故国の家来ではなく、旅の途中で知り合い、ここまで護衛を勤めてくれた者なのですが、急用で早急に本国へ戻らなければならないのです。もし宜しければ、この者にナマクア行きの手配をして頂けませんでしょうか。流星術での帰還を望んでおります」

「ほぅ……貴女はホルプ・センダーで戦っておられると伺っておりますから、この御仁も一員なのですかな?」

「いずれ、そうなりましょう」

「承知しましたぞ。そのような方の旅の手助けとあらば、喜んで手配しましょう。――――キナイ、適当な者はおるか?」

王の呼び掛けで側近の官吏が1歩進み出た。

「おそれながら、只今は相応しき者が皆出払っております。各国を巡って任務を終え、戻って来るのは明日の朝となりましょう」

そこで、明日の朝まで待てるかと尋ねられ、ソニアは待たせてもらうことにした。

「では護衛方共々、今宵はゆっくりとしていきなされ。誠に、貴女とはお話がしたかった」

 こうしてソニアは、この夜を思いがけずディライラ城で過ごすこととなった。一刻も早くトライアに戻りたかったが、巡り合わせとしか思えぬフィンデリアとの出会いに意味を感じていたし、一晩待てば明日にはトライアに帰れる。ならばこの一夜くらい新しい交流に裂いても問題はあるまい。

 3人は王の案内でプライベートな空間に通された。食後酒の途中だったテーブルには、そのままグラスとデキャンタが置かれている。ゆったりとした大きなソファーは全身を横たえられるサイズで、幾重にも垂れている天幕は風に揺ったりと靡き、その向こうには光さざめくソドリムの夜景が一望に出来た。今までで1番の眺めだ。

 3人の客の為に、酒や軽食がふんだんに運ばれてきた。ソニアは護衛らしく腰を下ろさず、立ったままでフィンデリアの後方についた。容姿の話題に入ると面倒なので、フードはずっと被ったままで髪の色を隠している。この色を目印に追っ手が来る可能性もあるので、余程の必要がなければ、このまま通すつもりだ。

 明日には去る予定の謎めいた人物のことは多少気に留める程度にしておいて、ディライラ王はフィンデリアとの話に専心した。陥落したとは言え、サルトーリ王国最後の王位継承者であるこの姫は生きているのだから、万が一再興ともなれば、この娘はやがては女王となるのである。実質国主同士の会談でもあるのだ。

 それに、滅びというものには人事ではない負の関心がある。明日は我が身とも限らないのだから。

「……噂は聞いておりますぞ。父上殿や兄上殿達の仇を取る為、皇帝軍を追っているそうではありませぬか。何とも勇ましいことだ。御身はサルトーリ再興の為に大切なのですぞ。戦に出るのは……もう控えた方が宜しいのではないですかな? ――――他国の者がお節介だ、などと思わんで下され。我が子達と殆ど変わらぬものだから……まるで我が娘の如く心配でならんのです」

「お心遣い感謝いたします。なれど、私の心は変わりません。祖国の損害は手酷く、尚続く戦の中とあっては、とても再興が望めません。今は何よりも無念を晴らし、名誉を回復することのみが我が使命なのです。それを越えてこそ、再興に向けて踏み出す日もありましょう」

ディライラ王は本当に労しそうに目を細めて鼻息をついた。

「我が子が同じ道を辿るかもしれぬことを考えると……胸が詰まります」

フィンデリアは親子ほどに歳の差があるとは思えない貫禄のある笑みを見せた。

「どうか憐れまないで下さい。同じような国をこれ以上増やさぬよう、ホルプ・センダーと共に戦っています。再興より、まずは防戦と反撃です」

「……噂に違わぬ勇猛果敢なる姫君のようですな」

王とフィンデリアは笑った。

 護衛者らしく振る舞う為に、城内に入ってからずっと発言を控えて大っぴらな質問が出来ないソニアは、思いがけず知り合った娘が亡国の王女である驚きと、その詳細知りたさを隠して通さねばならず、ひたすら黙して2人の会話を聞きながら、これまでに知り得た情報と統合してあれこれ考えた。

「……本日ここへお伺いした訳も……実は仇の情報を得たいが為なのです。真紅の鬣を持つ2本足の獅子――――この将をずっと探しております。これこそが、我が一族と国の仇……何かお持ちの情報はございませんか?」

「残念ながら……特にこれと言った新しいものはないですなぁ……。獣だらけの軍勢と、それを率いる獅子将軍の話は聞き及んでおりますが、あれ以降、全く目撃談が聞かれておりませぬからなぁ……」

「世界一情報が集まると言われているここでも無いですか……。では、本当になりを潜めてしまったのですね」

 そこへ、ドカドカと若者2人が入って来て、その後に少年少女と女性が続いた。国賓来訪の知らせを受けて挨拶に来た、この国の王子達と姫、それに王妃である。

「ご紹介します。妻と息子達と娘です。さぁお前達、ご挨拶を」

 王妃は寡黙そうな人で、結い上げた亜麻色の髪にティアラを着けている。ゆっくりと頭を垂れてお辞儀をした。王妃と言うより母という空気の方が強い、優しげな雰囲気である。

 続いて子供達が挨拶をした。

第1王子ニルヴァ――――亜麻色の巻き毛だ。

第2王子エミリオン――――同じく亜麻色の巻き毛。少し上目遣い。

第1王女アマンネル――――やや緩やかなウェーブヘア。

第3王子スコラ――――皆より少し濃い色の巻き毛。

上2人は威勢が良く、下2人は年齢の為か少々おどおどしている。しかし4人とも視線は同じくフィンデリアに注ぎ、不安を表していた。国が滅んで、父も兄も失った姫が来ていると聞かされ、おそろしかったのだ。勿論彼女そのものではなく、滅びという現実の方がである。だが、滅びの中からやって来た人物の来訪は、不幸までも連れて来ている錯覚を彼等に抱かせ、その反応に彼等自身が驚いていた。

 第1王子ニルヴァはフィンデリアの2つ年上らしい。彼女に負けず劣らず勝ち気な様子でこう言った。

「ホルプ・センダーで戦う姫君の噂はかねがね聞き及んでおりました。私も是非一団に加わり、共に戦いたいと願っております」

「……ニルヴァはずっと、このような事を言っておるのです。私が今のところは止めているのですが……何時この怖いもの知らずが親の言うことを聞かずに飛び出すか、気懸かりでなりません」

フィンデリアは思慮に満ちた眼差しでニルヴァを見つめた。隣に立つエミリオン――――彼女と同じくらいの歳だ――――の様子も見る限りでは、彼もそうしたいらしい。血気盛んな年頃の若者らしく、自ら戦地に赴いて功名を上げたいのだろう。

「……私には、お勧めすることも反対することも出来ません。私にはもはや失うものがありませんから危険を冒せますが……貴公方にはまだ国とご家族があります。それをよくよくご承知の上で、ご決断なされませ」

ソニアは、ニルヴァの表情に複雑な葛藤を読み取った。一瞬、年下の娘に偉そうな口をきかれて反射的にムッとしたようだったが、彼女の理知と背景に敬意を払ってもいて、そしてほんの僅かに頬を染めてもいた。この国で彼にピシャリと物を言うような女性は母親くらいしかいないのだろう。

 トライアには王子王女がいないので、こうして短期間の内に幾人もの若き王族を観察出来るのはとても興味深かった。生まれた時から高貴の育ちをした人間がどういうものなのか、そして、どんな人々が次代の世界を担っていこうとしているのかを知れるからである。皆それぞれに人間味があって個性的なようだ。

「貴女のご意見、参考にさせて頂きたいと思います。是非、ホルプ・センダーと貴女の旅や戦いの話を聞かせて下さい」

やはりニルヴァは、いずれ参加する意志満々のようだ。王も止めはせず、現場の悲惨な話でも聞けば少し考えが改まるかも知れないと期待して、子供達を会談に加わらせた。我が子達に今後の覚悟をさせる為にも役立つはずだと考えているのである。

 王妃はやはり大変寡黙な人で、このやり取りの間も自分は一切発言せず、ただ子供達の様子をジッと観察していた。そして、実に思いやり深い微笑を称えてフィンデリアに何度か頷いて見せていた。どのような出身の人か知らないが、王妃という地位よりも母としての立場を優先しているらしい。

 フィンデリアは小さなスコラがいても話をオブラートに包むようなことはせず、サルトーリの最後の様子から今日に至るまでを詳細に語った。アマンネルとスコラはクッションを抱き締めて顔を青くしている。上の2人は背筋を正して聞き入っているが、膝に乗せられた拳は強く握り締められ、僅かに振るえていた。

 カルバックスに連れられ敗走して後、サルトーリは見る影もなく荒廃して、今や城都市そのものが廃墟の街と化している。死体は街の陥落時に炎で焼かれ、全て灰となっていた。交流のあった隣国に事の顛末を告げる為に訪れはしたものの、保護の申し出を断って旅を続け、やがて発生したホルプ・センダーに加わり何度も戦場に赴いた。仲間が幾人か失われており、彼女自身も2度ほど窮地に陥り、危うく死にかけた経験をしている。だが、それに臆することなく、未だ獅子人を追うことに情熱を燃やしているのだ。

 無言で話を聞き続けているソニアにとって、この物語はとても感慨深かった。つい先日ビヨルクの滅び様を目の当たりにしているだけに、その空虚感と無惨さを容易に想像することが出来たのだ。ビヨルクの場合は雪に覆われているだけ、まだ視覚的衝撃は薄い方かもしれない。フィンデリアの語る光景がその通りなら、まさに地獄絵図であろう。

 語るフィンデリア自身は凛として感傷に耽ってはいなかったが、カルバックスの方は無念さが甦って俯き、時折瞼を伏せていた。

 アマンネルがシクシクと泣き始め、スコラもぶるぶると震えているので、ディライラ王妃は2人を抱き締めてやり、王の頼みで寝かせるように連れ出して、会談の場から遠ざけてやった。どうせすぐに眠れはしないだろうが、この先の話を聞くのは長たる者達だけで十分である。

 フィンデリアは後ろめたさを見せず、言うべき事を言った威厳だけを身に纏っていた。

「……殿の御国は国力に優れ、兵にも秀でておられます。我が祖国のように易々と攻められはしないと思われますが、1つだけ助言させてください。最近入ったばかりの情報なのですが、皇帝軍が大隊毎に担当域を決めて攻撃をしているのは確かなようです。ここはラングレアにも近いですから、もしやすると虫共の攻撃を受ける可能性が高いかと思われます。勿論、如何な種類の軍勢にも警戒はすべきですが、虫軍に対抗する策を特に重点的に講じられておくことをお勧めします。かなり特徴的で、戦い辛い性質を持っているようですから」

王はウウムと唸った。

「虫の……化物どもか……」

 その後はホルプ・センダーで戦う間に知り得た対虫軍の有効手段にテーマが絞られ、王と王子達とで防備の話し合いがされた。ニルヴァ王子は既に一部隊を率いる特権が与えられており、自らの兵をどう動かすかについて語る彼の目は爛々と輝いていた。一般市民に生まれついていたら、日々喧嘩が絶えないであろう豪気さで溢れている。

 フィンデリアは情報収集を終えたらまたホルプ・センダー本部に戻るので、今後、真紅の獅子人に関する情報を得たら一報して欲しい旨を述べ、それを王が確かに請け負い、双方必要な情報のやり取りは一通り終わった。

 ソニアは言うべきかずっと悩んでいたが、この頃合いを見計らって伝えることにした。

「……発言するご無礼をお許し頂けますか?」

今まで全く言葉なく、マント姿でただ立っているだけだった護衛からの申し出に、フィンデリアも含め王も王子達も軽く驚いて注目した。

「何でしょう、ナルス。何か大切なことが?」

ソニアは頷き、フィンデリアは一瞬考えをめぐらせてジッと彼女を見、それから承諾した。ソニアはその場の全員と、特にディライラ王に向けて言った。

「姫と合流する前、ほんの数日前のことなのですが、私はスカンディヤのビヨルクにおりました。故あって国内の様子を調査していたのです」

ここでまた、ささやかながら「おぉ」と声が漏れた。

「一度は城が陥落し民も敗走しましたが、今は全く魔物の気配もなく、人々は城に戻り始めて再興の為に動いております。王は没されましたが、嫡子のメルシュ王子殿が生き残っておられ、城にて指揮を執っておられます。願わくば、彼等の為に助力の手を伸ばして頂きたいと存じます」

「なんと……音信不通であった彼の地はそのようなことに……! 何度か術者を飛ばせていたのだが、あまりに危険で途中からは送ることも出来なくなり、最後に向かわせた時には誰にも会えなかったようで、半ば諦めておったが……そうか……! 生き延びておられたか!」

非常に感慨深くフィンデリアもこの話に聞き入っていた。酒場でフラリと出会った者が、まさかそのような情報まで携えているとは思わなかったのだ。ますます、只者ではないと見て目がキラリと好奇に輝いた。

 王は早速、術者が戻って来た明日にでも調査班を送ることを約束した。ソニアはホッとして、姫に恥をかかせぬよう断りもきちんと入れた。

「合流したばかりで、このことをお伝え申し上げることが遅れてしまい申し訳ございませんでした、姫」

フィンデリアは「よい」と許し、王達もホルプ・センダーに関わる人々の動きは目まぐるしいから、こんな事も当たり前なのだろうと思い、あまり気に留めなかった。

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