第3部10章『雪原の彼方に』7
3人は城の正面入り口に向かい、正式な扉右側の一部になっている小さな扉が開くかどうか試みた。少し凍りついていたが、力を入れれば扉は開き、中に入ることができた。閂が破壊されてそのままになっている。どういう経緯でこうなったのかは解らないが、これが城内侵入の原因の一つなのだろう。
入ってすぐの空間には暖炉があるが、今は火が焚かれていることもなく、番人もいない。かつてはここでコートを脱いで番人に渡したものだ。
扉をしっかりと閉じて次の扉を越えると、そこは吹き抜けの大ホールだった。風が吹き付けることはなくなり、城内はシーンと静かである。それが逆に恐ろしいほど寒々しかった。至る所に傷があるが、修復しないと使えないという程ではなく、機能に問題のない範囲で外観だけを損ねているようだ。階段もホールの暖炉も元通り使えそうだった。天井のステンドグラスはそのままに残っている。
かつて、このステンドグラスを見て感嘆の声を上げた時の喜びが甦り、ソニアの胸をくすぐる。彼女がそれを見たことがあるとも知らず、国の宝を誇りに思う気持ちでソーマが教えた。
「大精霊ウージェンが世界を見守られる御姿を描いたものです。美しいでしょう」
ここまで来るのに、以前と全く同じ形を留めているものは一つとして見られなかったものだから、自分の記憶の程を知れなかったソニアだったが、こうしてそっくりそのまま残っていたステンドグラスを眺めると、記憶が正しかったことを知れた。
だが、それと同時に、かつて見た物とは少し違っていることにも気がついた。子供の目で見るのと、大人の分別ある目で見るのとでは、感じ方が変わるものなのだろうか? それとも、頭の中で記憶が形を変えてしまっていたのだろうか? ともかく、彼女が今日改めて見て思ったのは、このステンドグラスがこんなにも多くの物語を細かく描写していたのかという驚きだった。
ステンドグラス中央には、真白な姿の美しい精霊ウージェン――――長い髪に長い衣だ――――が両腕を広げて立っており、それを中心に五つの階層が同心円状に取り巻いている。ウージェンに最も近い階層から、宇宙・天空・大地・海洋・その下の何かだ。そして、それぞれの階層に太陽や月、翼を持つ人々や鳥、動物や植物や人間、魚や人魚、ヌスフェラートらしき青い鬼や、その他多種の鬼達がびっしりと描かれているのだ。
平面感の強い図柄だが、色取り取りで実に美しかった。外側の階層にいくほどスペースが大きくなるので、5番目の何だか解らない階層のことが一番広く描写されていて、その世界が幾つもの色分けによって区分され、未知の国や種族が表現されていた。
「我がビヨルクは国名こそ変わることがあっても、王族の血筋が何千年も前から絶えることなく続いているとされていまして、それくらい昔から、この大精霊ウージェンが崇められているのですよ。この世の全ての精霊を統べ、世界の平安を見守られている御方なのです。このステンドグラスそのものも、かなり古くからありまして、何度も修復を繰り返して今日まで保たれてきたのですよ。こうして……今度の戦いにも残ったなんて……」
ソーマも戦士も感慨深くそこでウージェンの御姿に見入り、目を閉じて祈りを捧げた。その様は、神など信じないと叫んでいたあの若者とは対照的だった。こうしてステンドグラスが残ったことは大精霊が今も存在していることの証であり、それを発見できたことは啓示であり、ウージェンは自分たちのことを見守っているのだと信じて止まないのである。いや、信じたいのである。ソニアは彼等のこの姿を、痛々しく感じる反面、この大地の冴え冴えとした空気のように美しいものだと思った。
これほどの広い世界と多種族を見守る精霊ならば、きっとトライアスと同じ志を持つに違いないと思い、ソニアも白き精霊に祈った。これ以上世界に悲惨な苦しみが広がらぬよう、人々が復興できるよう、そして自分が無事トライアに戻り、国を守れるようにと。
静寂の重さ漂う城内ホールで一時の祈りを終えると、3人は奥に向かって進み始めた。
「……あなたの国にはウージェン様はおられないので?」
ソーマが尋ねた。この地で生きる彼等には、ウージェン以外の神など考えられないのだろう。
「……ええ。私の国では……かつて実在した戦士が崇められていますから」
「ほう……戦士。それではあなたの国は、さぞ勇ましいお国柄の軍国なのでしょうな」
明らかに違ったイメージを持たれたようだが、話だけ聞けばそう思われるのも無理もない。テクトを出身国と偽っているだけに、細かい点を訂正するとボロが出そうだったので、ソニアはただ「それほどでも」とだけ言った。
奥に進むうちに昇り階段と下り階段が幾つも現れ、それを通り過ぎて行く。
「この先を曲がって突き当りにまで行くと、地下への階段があるんです。そこを下ると大倉庫がありまして、何も手を付けられていなければ、まだ食料や武器の多くが残っているかと思います。まずはそこへ行きましょう」
幾つもの部屋を通り過ぎ、かつての厨房なども見かけたが、何処にも人影はないし、魔物の死骸もない。だが、引き摺られた後のような血痕はある。一体何処に運ばれてしまったというのだろう? 魔物が全て食べてしまったのだろうか?
3人は石造りの城内を足音静かにゆっくりと慎重に進んで行き、突き当たりの角を右に曲がって、その先に続く薄暗い通路の奥へと入って行った。もう松明がないと先が見えないほどなので、うち捨てられていた燃え残りの松明を見つけてソニアが魔法で火を点け、それを頼りにした。
間もなく、3人は地下倉庫への下り階段がある扉の前に辿り着いた。鍵はかかっていない。
「……物色された後なんだろうか……」
ソーマはそう呟き、なるべく音を立てないよう慎重にして鉄製の扉を開けた。軽く軋んだ後は、金属がビリビリと震動する低音が響く。開いた途端、下からジットリと妙に生温かい空気が漂って来て3人の顔を覆った。妙な臭いがする。階段の先にある暗黒を、ますます不気味に思わせる嫌な感触だ。
「……やはり少し様子がおかしいな……。前は、こんな気味の悪い雰囲気はなかった」
ソーマは階段の壁に目をやり、油灯の油がまだそこに残っているのを確かめた。
「ここに火を」
彼の指示通りにソニアが松明の炎を壁の穴に近づけると、ポッと炎が油灯に移って階段を照らした。段を少し降りていく毎に、そこにある油灯に火を点けていく。次々と通路に炎が灯るにつれ、階段は明るくなっていった。
「…………」
その途中でソニアはふと足を止め、ジッと佇んだ。
「……どうしました?」
先を進んで油灯を探しては、その位置を彼女に示していたソーマが振り返り言った。
「……この先にあるのは……倉庫だけなんですか……?」
ソニアは何かを探る様子で闇に目を凝らしている。ソーマは後から来た戦士と目を見合わせた。
「……あなたには……何か特別な勘でもおありなんですか? 何故そう思うんです?」
ソニアは自らの風を操る能力のことを伏せておきたくて、それが行く先の空間構造を知る助けになっていることは説明できなかった。
「ただ……何となく……倉庫にしては形が変わっているような気がして……」
ソーマは「ほぅ」と感心の声を上げ、戦士も珍妙なものを見るようにソニアを眺めた。
「……確かに、後一つあります。倉庫の奥にある――――《開かずの間》が」
「……開かずの間……?」
ソニアの目に好奇の光が過った。
「それは通称で、正式には《王族の間》とされているのですが、そういう部屋があります。その名の通り、王族の――――しかも王位継承者にしか立ち入ることを許されていない場所でして、鍵は国王が大切に保管しているのです。他の誰も、勿論私も、その扉の向こうを見たことはありません。最も近年では10年ほど前に王子が一度入ったきりで、後は使われていないはずです」
それを聞いても、ソニアは納得して足を進めるどころか、一層鋭い顔になって先を見据えた。そして2人に目配せした。
「……それと関係があるのかどうか判らないのですが……何か、この奥にいますよ。……人では……ないのかも」
彼女の言葉に2人の背筋はゾクリとし、身震いした。彼女とほんの数日間旅を共にしただけなのに、それが病的な不安症から発された言葉や当てずっぽうではないことをもう理解しており、鵜呑みにはできないものの、何かしら根拠のある現実の感覚を元に彼女がそう判断しているのだと8割方信じていた。そして、確かに自分達も感じるこの不気味な空気が何者かの気配なのかもしれないと思うと、改めて緊張が走った。
「……人ではない……? 魔物……ということですか?」
「さぁ……よく判らないんです。あまり強くないものだから……つかめなくて」
3人は戸惑ったまま暫くそこで立ち往生していたが、やがてソーマが決断した。
「……もう少し進んで、倉庫の状態だけは調べておきたいと思います。危なくなったらすぐに立ち去る心積もりで。いいですか?」
「はい」
戦士も頷いた。
3人は再び階段を下り始め、全ての油灯に火を灯し、やがて一番下に辿り着いた。その先はまず広い空間になっており、その向こうに倉庫入り口の扉がある。その空間に出ると、松明の光が全面を照らして奥行きが広がった。鍵付き倉庫の中に入れる程でもない椅子や机や布の類が乱雑に散らばってグチャグチャになっているのが見える。
「ここでも戦いがあったんだ……!」
所々に血糊があり、死闘があったことを物語っていた。椅子や机は叩き割られたように壊れ、足や天板が木切れになって散乱している。広いスペース一杯に爪跡と血糊があるのに、しかし、死体は何処にも見当たらなかった。
「食料を守ろうとしたんだろうか……」
ソニアはある一方に顔を向け、尋ねた。
「開かずの間と言うのは……こっちですか?」
そこでもまたソーマは軽く驚いた。
「ええ、その先です。細い通路の先にあるんですよ」
そこは真っ暗闇の通路で、松明の光も届かない。
ソニアは剣の柄に手を掛けた。
「……この先です。何かがいるのは。……私達に反応している」
また再びゾッとした2人は、それぞれ身構えて武器に手を掛けた。
最初に聞こえてきたのは、大きな溜め息だった。まるで竜がそこで伸びをしているかのようだ。次に響いてきたのは、何か重いものを引き摺るような、ズルッ、ズルッという音だった。
何者かが、確かにこちらへ近づいて来るのだ。
戦士は鞘から剣を抜いて深く構え、ソーマは杖を腰のベルトに差して、代わりに細身の長剣を抜き出した。両腕が使えない為に選んだ軽量品だ。ソニアもトライア国の紋の入った鋼鉄製の長剣を鞘からスルリと滑らせ、鏡面の如く炎を映して輝かせた。
ややあって、闇の向こうから現れた者の姿を見て、3人は息が止まった。大層惨めななりをした、体中至る所傷だらけ血だらけの雪猿だ。これだけ負傷しているのに、顔は狂気じみた暴力性を表し、血と汚れで褐色に染まった牙を剥いていた。その牙も何本か欠けている。3人共が一目で、その雪猿が狂っていると判った。
雪猿は気味の悪い雄叫びを発した。
「様子が変だ! 離れて!」
ソニアの言葉で2人共がサッと後退した。部屋中を風が流れていく。それが彼女の仕業だと知らない2人は不思議に思いながらも、その雪猿の出現による何らかの現象と結論付けた。
風は深い森林地帯の空気のように生気に満ちた光を運んで流れ、雪猿を取り巻いたが、それを浴びても一向に彼の凶暴性が変わる様子はなかった。
先程までは眠っていたのか、最初に感じられた力は微弱だったが、今目の前にいる雪猿からは恐ろしいまでのエネルギーが発散されていた。火花散る熱線を前にしているようだ。
雪猿は腕を振り回して3人を追った。転がっている家具を壁に打ち付け、粉々に砕く。気が狂っているだけに、その乱暴ぶりは自らの身体さえも滅ぼしかねない無謀さがあった。
「――――――何なんだコイツは?! これだけの傷を負っていながら、何故ここまで戦えるんだ?!」
ソーマと戦士は奇妙に思いつつも、かわし身を続けながら隙を見て雪猿に攻撃した。剣は雪猿の腕や足を傷つけ、確かに手応えはあるのに、雪猿の闘争心を掻き立てるばかりで大して運動性が落ちず、段々気味が悪くなってくる。
ソニアは様子見で攻撃を避けてばかりいたのだが、そのうち、一瞬、何らかの感情の断片を感じて立ち止まった。誰かの心の叫びが彼女の頭の中に飛び込んで来る。まるで地下深くの牢に閉じ込められて瀕死の者が発するような、悲しく弱々しいものだ。
ソニアは理解しかねたのだが、他に見当たる者もなく、その叫びが目の前の雪猿から発せられているとしか思えず、戸惑った。狂暴かつ血塗れの鬼面からは考えられないものだ。
「――――――ここは一旦退散しましょう!」
「し……しかし!」
「この雪猿は普通ではありません! 倒すべきかどうかもわからない!」
「我々を襲って来るんだ! 立派な敵ではないか!」
ソーマも戦士も攻撃の手を緩められず反発したが、ソニアの有無を言わせぬ威圧感に満ちた声が空間を通った。
「――――――ここは下がるのです!!」
2人がそれと知らぬ彼女の軍隊長としての貫禄が彼等を圧倒して従わせ、3人で後退りしながら階段へと戻り、ゆっくり昇って行った。
その雪猿は不思議なことに、彼等が階段通路に入るとそれ以上追って来ることはなく、牙を剥いて威嚇を続けはするものの、その空間から離れようとはしなかった。そして、その様に驚いて3人が立ち止まり、陰でジッと様子を窺っていると、のそり、のそりと身体を引き摺らせて開かずの間がある通路へと戻って行き、闇の中に消えてしまったのだった。姿が消えた後は暫くズルズル引き摺る音だけが残り、それもやがて止まった。
「……何なんだあいつは……? 何故我々を追ってこない……?」
3人は顔を見合わせた。
「解らないけど……でも……もしかしたら……あの《開かずの間》を守っているのでは?」
ソーマと戦士は眉根を寄せて頭を振った。
「さっぱりだ……あそこには一体何があるというんだ?」
「……これでは倉庫に行けんな……」
ソニアは頷いた。
「倉庫に行こうとする限り、あの雪猿との戦いは避けて通れないようですね」
あの雪猿が追ってこない限り、今すぐに退治する必要もあるまいと後回しにすることにし、3人はまず他の場所を廻って安全な場所がないか、使えそうな物はないか、生存者がいないか探すことにした。ソーマの案内で、そこから一番近い北塔の螺旋階段を一歩一歩昇って行く。
「この先に回廊があって、それは主城とも繋がっているので王室や南塔にも行けます。その最上階にも見張り台があるので、そこから一帯を見渡して警戒することができますよ。厚い石の壁が敵からも風からも守ってくれますから、子供達を安心して休ませてあげられます。街の家よりはずっといいでしょう」
3人はまず最上階まで上がり、白夜の雪原が一望にできる北塔の天辺に出て外界を見渡した。この都市全体の様子も窺える。
人も、魔物も、動くものは何一つ見えない。かつて人々が息づいていた頃には、こまめな雪掻きでもう少し黒い壁面や屋根を覗かせていたものの、今では煙突さえも埋もれて、殆どが形を留めておらず白いベールの下に隠されてしまっている。そのあまりの白さが、ソーマ等に改めて滅びを感じさせた。
今この都市にいるのは、やって来たばかりの自分達8人だけなのかもしれない。
出会ったのは、ただ、あの雪猿1頭のみ。
耳に届く風の音が死霊の悲鳴のようで、寒さと侘しさで居た堪れなくなった3人は、すぐにそこから降りていった。
回廊のある階に辿り着いて奥に進んで行くと、赤い絨毯や石の壁面に爪跡や傷が残るものの、まだ美しさが留められていて、この付近が高位者の居住区であることを豪華さが物語っていた。油灯の受け皿や柱の彫刻も細やかで、金色に輝いている。弾け飛んで直線的にこびり付いている血の痕でさえ、ある意味それらを一層鮮やかに演出していた。
高官が集い談議する会議室や書記官の控え室、侍者の控え室、その何処にも人や魔物の姿は見当たらない。
柱廊の先にある大きな扉の前に来て、ソーマは息をついた。
「……王室です」
扉を開けると、そこは円形の広間だった。寒いお国柄だからだろうか、柱や天井には曲線が多く用いられており、デザインに温かみが感じられる。少しでも冷たい石の壁面を覆おうと木が使用され、その全てが暗色の漆がけで重厚さを演出していた。家具調度品も同様だ。天井には、ここでも大精霊ウージェンの姿が描かれている。大ホールのステンドグラスと同じ内容のようだ。
玉座は背凭れが高く、全体的に金装飾が施され、座面と背凭れ部分には臙脂色の革張りがされている。手摺りから天辺にかけて、ふんだんに幽鬼の魔石が飾られており、煌びやかな輝きを放っていた。
ここにも人の姿はなかった。死体すら見かけない。ただ、そこら中が切り裂かれ壊されて、高価な家具調度品が倒れ、バラバラになっている。
現在の王――――最後の王かもしれない――――メシュテナートⅡ世の大きな肖像画が3本爪で引き裂かれ焼け焦げているのを見つけると、ソーマも戦士も憎しみの目でそれを見詰め、それから視線を落とした。巧みな模様が美しい絨毯や壁の精巧な絵に降りかかる血が、もしかしたら王のものかもしれないと思うと、何とも耐え難い悔しさが込み上げてくる。
「それにしても……何故どこにも死体がないのかしら……?」
ソニアがそう呟いた時だった。地下の雪猿とは別の新たな気配を感じて、ソニアは柱廊の方にサッと顔を向け緊張した。2人にも感じられたようで、各々の武器に手を掛ける。
「――――――何者だ!!」
問いかけに返ってきたのは、負けず劣らず威勢のいい声だった。
「――――――そっちこそ何者だ!!」
ソーマがハッとして前に出て行く。目がキラリと輝いた。
「人間なのか?! 生き残りか?!」
すると、その声を聞いて柱の陰からおそるおそる一人の兵士が顔を覗かせ、こちらの面々を見ると驚いて飛び出して来た。
「――――――あなた方は……!」
ソーマも彼の姿を見て声を上げた。
「ターク! タークじゃないか!」
その兵士は信じられぬ様子でソーマに近寄って行き、そこに跪いた。
「た……団長……! またお会いできるなんて……!」
もう一人の兵士も柱から出て来た。
「――――――ソーマさん……!」
皆、ソーマの部下や知り合いだったのだ。彼等は歓喜の中で寄り集まり、抱き合った。戦士も同じ生き残りとして喜び合い、肩を取り、背を叩き合った。
「何故お前達がここにいるんだ? 他にも誰かいるのか?」
2人の兵士は争うようにして一気に喋り出した。再会の興奮でやや吃音気味ではあるが、一通りの話を聞けば内容を把握することができた。
彼等の話によれば、あの戦以来彼等も一旦は敗走して付近の森に集団で潜んでいたらしい。暫くして様子を見る為にこの都市へと調査隊が派遣されて、ソーマ等と同じようにここへやって来たのだ。彼等の方が何日も先にここへ到着して、滞在しているのだ。都市の状況を知った仲間の一部は連絡役として、他の村の様子を調べる為に旅立ち、今ここにいるのは10数名なのだという。
「我々は、あなた方の立てる音に気づいて敵かと思い、様子を見に降りて来たのです。てっきり魔物かヌスフェラートかと……でも、またこうして隊長にお会いできるなんて……!」
ソーマは彼等の瞳を真っ直ぐに見つめて、静かに尋ねた。
「……陛下は、どうなされた……?」
2人の兵士の顔は強張り、ソーマがまだ真実を知らないことを悟って青褪めた。そして、悔しそうに俯いてしまった。
「それが……」
「……我々……騎士団がいながら……」
2人はそれ以上の言葉を口にできず、察したソーマも項垂れて目を閉じ、苦痛に顔を歪め、歯を食い縛った。騎士団長として、一番不名誉且つ耐え難き瞬間だった。
ソーマはハラリと涙を溢し、同じ団員である兵士の肩を取って言った。
「……そうか…………。残念……極まりない……。完全なる……敗北だ……」
「団長……」
自らの非力さと滅びの喪失感に苛まされ続けてきた彼等は、ソーマの言葉にもはや感情を抑えることができず、悔し涙を流して肩を震わせた。王の死を知らされた戦士も、柱に手をついて肩を落とした。
ソニアは、裂かれた壁の絵に描かれている王の姿を見て、かつて見た王の眼差しを思い出し、もうあの人がいないのだと思うと、鱗が一つ剥がれ落ちてしまったような空虚さを感じた。
『ビヨルクの王様に会いに行ってごらん』
これまで特にそうしようとも思わなかったことだが、もう二度と果たされることはないのだ。アイアスが暗示していた謎は、一体何だったのか解らぬままに。
「……御遺体は……庭園に埋葬致しました。……他の仲間の遺体は、まだ雪の下に埋もれたままですが……城内で発見したものは、すべて同じように庭園に葬っています。……魔物達は焼き払いました」
何故城内に死体がなく、きれいに片付いていたのかがようやく判明し、さぞ大変な作業だったろうとソーマは彼等を労って、もう一度兵士2人の肩を取り、背を何度も叩いた。
現状が如何に悲惨でも、再会の喜びは次第に彼等を笑顔にさせ、仲間に引き合わせることのできる嬉さで輝いた。
「さあ、こちらに来て下さい! ご案内します! 右大臣様とメルシュ様が生き残っておられます。この度の調査隊のメンバーになって、この城に戻って来られたのですよ! あなた方に会えば、きっとお喜びになるに違いありません!」
「王子が生きておられたのか?!」
「――――おお! 何と!」
沈んでいたソーマと戦士もこの吉報に目を輝かせ、再会できる知人への思いで一杯になり、笑顔になった。
ひとまず一人が知らせに向かい、残る一人が3人を案内して南塔に向かった。再会の喜びが大き過ぎて、そこに一人異邦人がいることにはあまり気を払われていない。
ソニアは、何とかこの出会いで魔術師か流星魔術薬が見つからないかと考えながら、一行の後ろについて行った。




