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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第32章
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第5部32章『滅亡のとき』21

 夜になり、さすがに今日の所は王都に近づくのを止めることにしたソニアは、森の中にある川辺の草原を選んで、そこを今夜の寝床とすることにした。今は出発時に持たされた沢山の保存食があるので、狩りや漁をする必要はなく、パンや干し肉、干し果物を出して薪を集め、魔法で火を熾し、鉄製のカップで川の水を温めた。

 そうすると彼等も火の近くにやって来た。だが、彼女の許しを得られるまで彼女の側には近づけない様子で、距離を開けて彼女を見ている。

 そんな彼等を見て、ソニアは手振りで彼等を招き入れた。デラとアルスラパインは嬉しそうに火を囲んだ。セルツァは誰よりも警戒を強めているので、少しの笑顔もなく辺りを見ている。

「干し肉とか、乾いた果物ばかりだけれど、食べる?」

デラとアルスラパインは興味津々でそれらを受け取り、自分達にあまり馴染みのない果物を珍しそうにじっくりと見た。そしてすぐ我に返ると、慌てて杖を翳して宙を一振りした。

「――――是非、ソニア様も!」

ポン、という軽い音と共に薄っすら光る煙が現れて、そこから出てきたのは、沢山のエルフの食べ物だった。色んな形のパンや変わった色の見知らぬ実や、菓子かと思われる白い玉など、勢い余ったようで山のように雪崩れてきた。「うわっ」と言って、アルスラパインは酷く紅潮した。

 それを見てソニアは思わず吹き出し、笑った。実に久々に、心の底から愛と慈しみに溢れた笑顔が彼女の顔に表れ、それは彼等を見とれさせ、喜ばせた。

 ずっと難しい顔をしていたセルツァも、彼女の笑顔を心から讃え、安堵し、優しい顔になった。彼等がずっと見たくて見れなかった、ソニアの輝きである。

 ソニア自身も、そうして笑えたことで心の中の壁が薄くなって消えてしまい、少し吹っ切れたような気がした。

 そうして暫く皆で笑った後、デラとアルスラパインは再び杖を振るって食べ物を少し減らした。そして、その中から綺麗なガラス細工の瓶に入った飲み物を選んでソニアに差し出した。

「どうぞ。マナージュの樹液が入っている葡萄酒です。元気になりますよ」

香水瓶のように美しいガラス瓶の中の赤紫色が焚火に照らされてキラキラと輝き、とても目に心地良かった。

「あれ? ソニア様は、あまりお酒は召し上がらないんじゃなかったか? アルス」

「えっ⁈ そうだっけ」

アルスラパインは慌ててデラと他の瓶を探した。ソニアはまた笑った。

「ありがとう。そんなに強くなきゃ、大丈夫だよ」

薬用で低発酵に抑えているとのことなので、ソニアはその瓶を受け取った。人間世界の規格にはない、掌に納まる中くらいのサイズだ。

「エルフの作る物って……本当に綺麗ね」

ソニアがそう言って瓶を炎に翳し眺めるのを見て、彼等も嬉しそうだった。彼女がコルク栓を抜いて葡萄酒を一口流し込んで味わい、「美味しい」と微笑むのを見ると、彼等もニコニコと頬を染めて食事を始めた。

 周辺の警備をしていたセルツァも、魔法で何やら天幕のようなものを張ると、皆に加わった。人間が食するものより一手間も二手間も造形が凝っている花の形をしたパンや、茸を模したエルフのチーズ等、あれも食べろ、これも食べろと勧められながらソニアは口に入れ、時おり瓶の葡萄酒を口に含みながら彼等の笑い話に耳を傾けた。

マナージュの樹液が入った薬効なのか、炎の色も彼等の話もとても温かく感じられて、ソニアは心和み、冷え冷えとしていた胸がほんのりと温まっていくのを感じた。

 その菓子を作った職人は最近新しい作品に取り掛かったところ、勝手に踊る人型の焼き菓子ができて、しかも何処かに消えてしまい帰ってこないとか、実に平和で長閑なあの村らしい事件は心にとても優しかった。

 そうして色んな話を聞いて食事も殆ど終わりかけた時、ソニアはまだ少し残っている葡萄酒の瓶を両手で握り締めたまま、それを炎の中に翳し見て、その輝きにウットリとするうちに、自分の目から涙が零れたのに気がついた。片方の目から、真珠が零れ落ちるように一粒だけだったが、それを見た彼等は話をするのも動くのも止めて、その姿にジッと見入った。

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