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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第32章
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第5部32章『滅亡のとき』19

 トライアでショックを受けたフィンデリアは、それでもすぐにはホルプ・センダー本部には戻らず、行く予定だった土地を先に訪れた。今度はバワーム王国の首都エランドリースである。派遣した調査員達の報告を聞き、彼等とバワーム王国にもアイアス出現の知らせをもたらす為である。

 このエランドリースでは謎の襲撃事件が起きたばかりで、しかも詳細がまだ判明していなかった。正気を保って事件の一部始終を目撃していた城の人間が言うには、野菜が人間のように歩いていたとか、人間もおかしくなってフラフラ歩いていたとか、皇帝軍のおそろしい敵がやって来て街を破壊したとか、それでもその敵は何者かと戦い合っているようだったとか、情報が錯綜しているのである。

 その後、おかしくなっていた人間達も皆、正気に戻ったから人命の被害は少ないのだが、当時かなりの人数が自意識を失ってしまっていたので、有効な目撃証言を集めるのに苦労していた。このような変事の場合、ある程度同じ証言が揃わないと信憑性に乏しいから、本当に起こった事の全体像が見え難いのである。

 バワーム城下に広がる街の様子をフィンデリアは軽く視察した。

「ソニアさんのこともショックですが、この町もかなり酷いもんですな」

カルバックスがそう言う。暗黒大隊を退けて勝ち残り復興中であったというのに、またこんな得体の知れない襲撃に見舞われたのである。民の感情を思うと労しかった。それでも、この町はつくづく幸運な方だとフィンデリアは思った。襲撃内容や軍団の質が、いつも致命的なものではなかったから、すぐに立ち直れる余力を残して事件が収束するのである。祖国サルトーリのことを考えると、非常に羨ましい。

 破壊された家屋の修繕がせっせと行われているし、食料も豊富に出回ってる。さすが世界一の農業大国だ。食料に関する不安がなければ、人々は何とでもやっていけるものだ。争いも犯罪も起きない。巡回する兵士達は念の為に暴動等を警戒しているが、ストレスでちょっとした小競り合いが起きる程度で、平定するのが楽そうだった。

 町の視察を終えたフィンデリアはバワーム城に向かい、国王に面会を願った。先に仲間が来ているから話はすぐに通って、ちょうど今回の件で仲間と国王が話し合っている所に案内された。幼い王子もそこに居り、噂の姫君に会えたことに感激して目をキラキラと輝かせた。つい今し方までは、仲間のことを同じように尊敬の念で眺めていた所である。

 フィンデリアは話を中断させたことを詫びて、それでも重要な知らせを先に皆に伝えた。国王は勿論、ホルプ・センダーの仲間は熱狂的な信者であるから、喜びの叫びを上げて仲間同士抱き合い、飛び跳ねた。

「アイアス様が、やっとお立ちになった!」

「やっぱり生きてらしたんだ!」

城内がその話題で盛り上がり始めたものだから、かなり待ってからようやく襲撃事件の話をすることができるようになった。情報をある程度まとめている仲間が、それについて教える。

「破壊された家屋の中にいて死んでしまった人がいるんだが、せいぜい5~6人で、あとは皆、怪我だけで済んでいる。治療も順調に行われているから、深刻な後遺症を残す人はいないだろうって。ただ、この騒ぎ以来、行方不明になっている人が何人かいるらしい」

町の有り様からすれば、使者が5~6名程度で済んでいるというのは奇跡的だ。その行方不明者の中には農業研究家と大臣の従者がいるのだが、ちょうど付近の農園に出ていた所で、その後を従者が追って行ったらしいから、2人共が何かに巻き込まれてしまったのではないかと心配されていた。彼等はそれ以上詳しい事情や原因を突き止めるつもりはなかったが、バワームの人達にとっては案じられることらしく、特に従者である女性の安否を色々な人が確かめようとしているとのことだった。

「一部の噂では、今回襲ってきたのが野菜の魔物だったものだから、その研究家が怪しいんじゃないかって言ってる人達もいるみたいなんだが、その人がいないもんだから確かめられないんだよ。本当なら、やるだけのことをやって用が済んだから消えたのかもしれないが」

「まぁ、それだと成功したのか、してないのか、よく解らない結果なんだけどな」

仲間達はその線の捜査についてもバワームの人にお願いし、何か判明したら知らせてくれることになっているようだ。

 ともかく、ホルプ・センダーから急ぎ人手や物資を送る必要はなさそうであるから、それが解っただけでも良かった。フィンデリアはそれだけの情報を得ると、ホルプ・センダーの本部に戻ることにした。

 この国の誰も知らぬ事なのであるが、その農業研究家が手を加えた野菜達は今なお世に出回っており、畑ですくすくと生長している。またあんな奇妙なことが起きるのではないかと怖れて廃棄を考える人々もいたのだが、食料が要る状況でもあったから、折角見事に育った作物達を捨てることもできなくて、結局今まで通りに畑を耕し、収穫していた。

 野菜達の中に、時の声を待つスイッチは残っているのだが、それは作成者の設定した数段階の起動刺激を与えられて発現するものなので、自然に切り替わることはまず有り得ない。本人がもはや存在していないから、つまりは永久に起こることはないのだ。だから、豊かに生育する恩恵だけを残して、これらの作物達はこれからもこの国を潤していくのである。育てる者、食する者がいる限り永遠に。

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