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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第32章
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第5部32章『滅亡のとき』15

 エクセントリア王国にあるホルプ・センダー本部では、今日も世界各国から皇帝軍の襲撃に関する情報が集められていた。バワーム王国で謎の襲撃事件があったのだが、もはや鎮静化しているので現在は調査員を数名派遣しているところだ。他のメンバーは引き続き謎の人物から与えられたノートの解析に集中している。

 キルシュテンは寝る間を惜しんで何度も繰り返しノートを読んでいるし、フィンデリアも同じように再読に再読を重ねている。その2人が手に取っていない隙を見て空いている本を他の者が軽く目を通し、よく解らない部分についてはキルシュテンがフィンデリアの解釈を聞く、という風にしていた。

 そしてキルシュテンとフィンデリアの2人で話し合った後、優先順位の高そうなものから少しずつ皆に知識の共有が行われた。一番大きな部屋に集まって、教師よろしく2人が前に立ち、ノートの内容を噛み砕いて解り易く伝えていくのだ。メンバーは戦士、魔術師、格闘家、戦術家といろいろおり、その中には皆の食事の世話をするコックもいれば、本部の掃除や洗濯など、身の回りのことをしてくれる管理者もいるから、必ずしも皆の教養が高いわけではないし、独特の解釈や発想を持つ者も多いので、質問が沢山飛んだりもし、なかなか充実したやり取りとなった。

「ヴィア=セラーゴの地下から、そのヴァイゲンツォルトっていうヌスフェラートの国に行けるんだとしたら、ヴィア=セラーゴを幾ら叩いたって、ヌスフェラート達の国は痛くも痒くもないんだな」

「そうだね。それに、決して自分達の国土を戦場にはしないわけだから、その点でも向こうは優位だよ。出征してきた兵士達の損失しかないわけだから」

「虫や獣や鳥の軍勢も、それぞれ別な所に本国があるわけだから、同じだよね」

「汚ねぇよな……。この地上世界が故郷なのは、オレ達人間だけなのか?」

現実を知れば知るほど、人間側にとって如何に不利で無謀な戦を仕掛けらているのかが解り、彼等は途方に暮れた。だが、そうして意気消沈させる為にこのノートがあるのではない。

「普通の戦なら、こちらにその兵力があれば、彼等の本国を攻めて撤退を迫るものなんでしょうけど、私達は侵略者ではないし、あくまで自分達の住処を守って平和に暮らしたいだけ。だから反撃に出るという選択肢は、実質選べないし、あっても選んではならないと思うの。幸い、このノートには他の種族のことについても少し書かれているわ。それに……これも何かの運命なのだと思うけれど、私は虫族の女王と獣族の王、両方に会っている。2人とも話ができる人のようだった」

かつてあれほど獅子王憎しと復讐の炎を燃やしていたフィンデリアがそう言うものだから、メンバーは皆、驚いていた。彼女に最近何があったのかは聞いているが、世界の局面を変える為に冷静に考えをここまで変えられるというのは大したものである。

「だから、私達は防戦に徹する一方、皇帝軍に加わっている異種族にコンタクトを取って、外交によって軍を退けてくれるよう頼む努力もするべきだと思うの。それでもし獣王大隊や虫王大隊が引いてくれるなら、兵力を持って相手を打ち負かすより、ずっと有効で強力な結果をもたらせるわ。それなら、私達みたいな少人数でもできる冒険だし、ヌスフェラートのことをどうするかは、それが達成できてから考えるべきだと思う」

世界で一番勇敢な者達の集まりであったが、さすがにこの提案について“よし、やろう!”とすぐ返答することはできず、皆が息を呑んだ。このノートに書かれていることが全て本当であるならば、そうしなければならないのだろうとは思う。だが、見たことも行ったこともない地下の世界の、虫だらけの国や獣だらけの国に行くというのだ。それこそ決死の覚悟が要る。

 だが、やがて勇猛果敢で知られるディライラ出身の戦士キースと冷静で肝の座ったエルナダ出身の魔術師のオレアノンが拍手を送った。その拍手の強さが、言葉にせずとも“よく言った。オレがやる”と語っている。仲間達はさすが彼等だと思いながらキースとオレアノンを見、徐々に自分達も拍手に加わっていった。

 すると、そこにひときわ大きな拍手が上がり、フィンデリアとキルシュテンがその人物に目を留めた。いつの間にか部屋に現れたマント姿の人だった。仲間でないことはすぐに解る。かと言って、エクセントリアの定期報告者ではないし、その他の使者でもなかった。

 フィンデリアとキルシュテンがあまりに注視するものだから、他のメンバー達も壁際に目をやるようになり、その人物に気付いた。するとエステルが例の人物であると気づき、そう解るように2人にサインを送った。2人の表情がサッと変わる。

「素晴らしい提案だと思います。実に賢明だ。是非、私にもお手伝いさせてください」

フィンデリアは部屋を横切って、その人物に近づいて行った。

「あなたが……あのノートを私達にくださった肩ですか?」

「はい」

おお、と感心の声が上がった。やがて仲間入りするという噂だった謎の人物が遂に登場したとあって、一同の期待が大いに高まる。何しろこんなとんでもない情報を提供してくれた人物本人なのであるから、姫の提案した作戦にも大いに役立つことは間違いない。

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