第5部32章『滅亡のとき』13
デラとアルスラパインはすっかりセルツァに任せてハラハラと成り行きを見守っていた。流石に様々な世界を旅して逸早くソニアの護衛についた彼だからこそ、こんなに巧く言葉が見つかるのだろうと思い感心している。
「天空の都市や代表のことは一旦脇に置いておこう。それは時間がかかってもいい。――――だが、君に敵が向かってくる危険があるのは確かなんだ。あのヴァリーのように、いつ何時、曲者がやって来るか解らない。それなのに、ここにいたらオレ達だけでしか君を守れない。ヴァリーの時はあいつもいたから運良く助かったが……」
セルツァは、その言葉がある程度の効果を持っていると見た上で、そっと強調した。予想通りソニアの瞳は一瞬揺らいだ。
「だが、もうオレ達だけだ。今度あんなことになったら……どうなる? あいつもいない。ディスカスもいない。本当にオレ達だけだ。この国を守る以前に、君が死んだら、どうする……?」
目を逸らさずに彼を見ていたが、ソニアの表情は少しも納得していなかった。
「……そもそも、私が始めたことじゃないわ」
「それは、重々承知している。ハイ・エルフを代表して、済まなかったと思ってるよ。そのことは君には一切否がない。こちらの都合があって時を急いでいたものだから、君への説明が後回しになって勝手に事を進めてしまったのは、本当に申し訳ないと思っている。だが、君の母であるエアも含めて、これは長年計画されてきたことだったんだ。それを遂行しようという思いの方が先立ってしまって、君本人の心が尊重されなかった。許されることじゃないが、言い訳をさせてくれるなら、どうかその200年越しの想いというものを少し汲み取ってもらえるとありがたい。
そして、君のせいじゃなくても、事が始まってしまったからには、どうしても敵ができてしまうんだ。こちらのやり方が君の信頼を損ねたのは解ってるが、君のことが大切であるのは変わりないよ。だから、エアルダイン様もオレも、その他の皆も、君のことを守りたいと思っている」
ヴァリアルドルマンダのことがあってから、本来すぐに聞けるべきだった謝罪を彼の口からようやく聞けて、ソニアも溜め息が出た。どうしてこんなに遅れたのか。そんなに複雑なことなのか。そして、この間に一体どれだけの物事が起きたことか。そんな事を考えた。
「エリア・ベルにいれば、幾ら何でもこないだみたいな奇襲は有り得ない。エアルダイン様の結界があるし、村全体の魔法もあるし、リュシルも、優れた少女達もいる。もっと大勢のエルフや妖精達で君を守ることができる。あの村からでも、この国のことは見守れるよ。そして異変があれば、君と一緒にオレも、他の仲間達もこの国に駆け付けよう」
それには、ようやくデラとアルスラパインも加わることができた。
「私達もきっとお手伝い致します!」
「ソニア様の御心のままに、共に戦います!」
ソニアは3人を見回した。説得によって拒絶感が緩和された様子はまだ少しも見られない、悲しげな表情のままである。
「約束するよ、ソニア。君の望むように、この国を守る。君はこの国を見守り、駆け付けることができ、オレ達の加勢が得られる。そしてオレ達の方は、君の身の安全を確保することができて、安心を得られる。これは双方にとって最良の選択なんだ。どうか信じて、オレ達と一緒に来てくれ……!」
ソニアは苦痛に満ちた表情のまま、目を閉じた。
「あいつもきっと、そうすることを望むと思うぞ。君の無事を何より願っていたんだから……!」