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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第32章
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第5部32章『滅亡のとき』4

 そんな皇帝軍の動向を知らぬアイアスは、両親に頼んで、ある日フェリシテ女王にメッセージを送ってもらった。誰からということもなく、ただ今晩、城のテラスに1人でいて欲しいと願ったのだ。まだまだ自分の姿は若いのだが、これ以上は待てないように思ったので、再会に踏み切ったのである。

 そのメッセージを届けたのがパンザグロス夫妻であるものだから、当然ながらフェリシテもアイアスからの言葉ではないかと思い、激しく心乱され、胸ときめいた。亡き夫セイルに悪いとは思うものの、やはりかつての愛を捨てたわけではないから、きっかけさえあれば容易に情熱が蘇ったのである。

 勿論フェリシテは、その晩は公務と食事を早々に済ませると、できるだけ1人にしてくれるよう頼んで自室のテラスで夜風を浴び、メッセージの主が訪れるのを待った。今は執政がいるから、頼めば完全に公務から切り離されて自由な時間を得られるので、ありがたかった。

 室内の照明も消して十分に暗くすると、早くから近くに来て様子を窺っていたアイアスが、待たせずすぐにテラスにヒラリと降り立って、マント姿のまま暫くそこに佇んだ。

 礼儀を持って最初は距離を保っていたので、2人はその立ち位置のままで互いをよく見た。

 フェリシテは思った。もう20年近く時が経つというのに、どうしてだろう。マントで姿を隠していても、その人がアイアスだと解ると。解って、胸がじんわりと温かくなってきて、肩が震えた。

 アイアスはマント姿のまま、そこに跪いて頭を垂れた。

「……お久しぶりです、姫。いえ……女王」

声も、20年近く聞いていないというのに、すぐに記憶が蘇った。普通は成長や加齢と共に声が低くなっていくものだから、それよりはやや高く感じられるほどだ。まるで昔そのままであるように。10代の若々しさで。

 フェリシテは自ら近づいて行った。するとアイアスは差し出された手に接吻した。過去どんな関係であったにせよ、今は女王とその臣下だ。

 そしてアイアスは立ち上がり、そこでマントのフードを取り払った。城の篝火に照らされて、彼の整った童顔が浮かび上がある。フェリシテは息を呑んだ。

「アイアス=パンザグロスです。長い間、貴女には申し訳ないことをして参りました。只今、訳あってこのように若い姿をしておりますが、私は正真正銘、貴女の知っているアイアスです。どうか、驚かないでください」

フェリシテは瞳を潤ませて彼の頬にそっと手を伸ばした。触れて本物か偽物かの区別がつくわけではないが、確かに肌はとても若く瑞々しかった。最後に彼を見た時と殆ど変わらない程である。

 彼は、彼女と別れてからの生活を簡潔に説明し、そして両親に話したのと同じように、どうして自分がこのような若い姿なのか、その為にこれまで姿を見せられなかったのかを話した。

「本当は、もう少し元の姿に近づくまでは時を待とうと思っていたのですが、明日、何が起こるのかも判らない時世ですから、今晩お会いすることにしました。

 国王陛下とセイル殿下のことは……とても残念です。私が駆け付けていながら、お助けできなかったなんて……無念でなりません」

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