第5部32章『滅亡のとき』1
アイアスが両親と再会してからは、彼の生活も更に目まぐるしく回転した。肉体の成長スピードは以前に比べるとゆっくり穏やかなものになってきたものの、普通よりは速いようだったし、両親を安心させる為にも日に一度はパンザグロス邸に寄ったし、ホルプ・センダーの様子を見たり各国の動向を探ったりもした。いつ名乗りを上げるのかは、もう秒読みの段階だ。
自分の復活が明らかなものとなったからなのか、天空大隊がグレナドを襲撃して以来、規模の大きな攻撃はなくなって皇帝軍は鳴りを潜めてしまっている。ヴォルトが手勢を連れて両親を攫いに来たのは、個人的に自分と対面したかったからだけであって、皇帝軍とは関係のない行動であったから、やはり皇帝軍は不気味な休止期間に入ってしまっているようだった。
地上進攻そのものを諦めて退散する、ということだけは決してないと解っているので、この間に一体何を企んでいるのだろうと考えると、アイアスは落ち着かなかった。
策を練って自分を倒してから再び侵攻を開始する、というような方法を取ろうにも、また自分が復活する可能性が大きいから、向こうもすぐには手が打てないのだろう。
前代未聞の出来事があまりに重なり、何とも微妙で繊細で緊張感の溢れる膠着状態に陥ってしまったようだ。
だからこそ、その隙にアイアスは世界中を飛び回って調べられる限りのことを調べた。どの国が次に狙われ易いか、今攻められて弱いのは特にどの国か、復興作業中の都市や町の進展具合はどうか、といったことなどをである。
皇帝軍が本気で攻めてきたら、どの国であろうと滅びるのは必至であろうが、それなりに差はあった。アルファブラは、まだ戦えるだろう。城を集中的に攻められて王やセイル殿下は失われたが、兵士の損失そのものは案外少なくて済んだのだ。
勿論、まだ攻撃を受けていない国々もそれに入る。ナマクア大陸はペルガモンもトライアも無事で、テクトだけが襲撃を受けており、しかも持ち堪えてバル=クリアーで守られているから、かなり狙われるかもしれない。
テクトを訪れた時にバル=クリアーで保護された城塞都市を見て彼はとても驚いていた。しかも、そこで得た情報によれば、救援要請によって駆け付けたトライアの国軍隊長――成長したソニアがそれを行ったというではないか。だから彼は、かつて自分が教えた魔法をあの子が自己鍛錬によって無事に会得したものと思った。あの子なら使えておかしくないと思っていたのだが、こうして広範囲を包む規模の大きさを目の当たりにすると、流石に特別な子であったのだなと感心してしまう。あの子がいれば、トライアはかなり安全だろう。
こうして各国の事情を知っておくと、もし複数同時に問題が発生した時にどの国を優先して救援に向かうべきかの順位付けができる。今の段階では、トライアはかなり下位に位置付けておいた。もう少しして女王となったフェリシテに会い、ホルプ・センダーにも仲間入りしたら、挨拶だけのつもりであの子の顔を見に行こう。立派に成長したことを誇りに思うと言いに行こう。彼はそう考え、楽しみにした。
ホルプ・センダー本部にもう一度行って、エステルが1人でいる時を狙って再び姿を見せ、その後どうなったのかを尋ねてみた所、彼等はアイアスが提供した情報を真剣に吟味しているようである。彼はそのことも喜んだ。
あなたは何者なのかと熱心に問い詰められたのだが、今暫くは正体を明かせないと言って、アイアスは決して素性を教えなかった。
そして、他に欲しがってた情報はないかと尋ねて、虫族や鳥族の弱点をリーダ達が知りたがっていたことを聞くと、彼は次に来る時はそれを持って来ようと約束して去って行った。
勿論、またキルシュテン達は大騒ぎになった。彼等も皇帝軍一時休止の隙に知識をできるだけ蓄えておきたかったので、求めるだけですぐに応じてくれるなんて、やはり只者ではないこの人物を調法がったのだ。一体何者なのだろう。早く一緒に戦って欲しい。仲間になって欲しい。皆はそう思った。