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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』69

「だが……お前を1人で旅立たせるなんて……どうにも心配だ……! クソ……! こんなことにならなけりゃ……!」

「……きっと、セルツァが一緒にいてくれるから、1人なんかじゃないわ。ディスカスはさっき帰してしまったから、これからどうするのかは判らないけれど……」

「セルツァは秘密だらけの男で……どうも、すんなりお前を任せられない。あいつは本当にお前の望むようにさせる気があるのか……」

ソニアは、昨晩現れたセルツァが語ったことについて、今この場で彼に話すことができなかった。何しろ今の状況とはあまりにかけ離れているし、無関係なことのように思われたからだ。この自分でさえ飲み込めていないことを彼に話して、これ以上、心を乱したくない。

「……こうして再び会うことを誓い合っても……心配で……心配で……。本当にそれが叶うのか不安だ……!」

彼の不安を鏡に映すようにソニアの顔にも不安の色が広がり、2人は雪原に放り出された子供のように手を取り見つめ合った。そして、吹雪の中で互いを見失わないよう縋るように、またきつく抱き合った。明日には別れなければならない互いの温もりを感じ、拍動を感じ、慣れた香りを嚙み締めた。今、ここで夜を共にできないことが辛かった。

 ふと、ソニアはある決意を抱いて目を見開いた。彼から離れ、その際に彼の腰に下がる鞘から長剣を抜き取った。

「ソニア……?」

何をするのかと驚いて見ている彼の顔を正面向いたままソニアは見つめ、長いルピナス色の髪を首元で一掴みに束ねて剣を宛がった。そして一つ息を吸うと、下から一気に剣を振り上げて髪を断ち切った。

 短くなった髪がフワリと頬にかかり、断ち切られて手の中に残った腕より長い髪が、細紐で結ばれたまま解けずに1つの束となってクタリと垂れる。

 アーサーはあまりの驚きに目を丸くして息を止めた。

 未練のない潔い眼差しで、ソニアはその束を彼に差し出した。言葉がなかなか出せないながらも、彼はまるで世界一高価な首飾りでも賜るかのような仕草で恭しく丁寧に、それを両の手に取る。そして未だに信じられない様子で首を左右に振りながら、彼女の顔と、その束とを何度も見比べた。

 彼がデルフィーで初めてソニアを見たその日から、彼女の髪は今までずっと長く、彼を魅了し続けてきた。その、彼にとっては絹糸よりも金糸よりも価値のある美しい束が、今はその手の中にあるのだ。そして目の前には、始めて見るショートヘアのソニアがいる。

「……お前……何てことを……!」

ソニアは覚悟を決めた戦士の頬笑みを彼に向けた。

「どうせ変装して旅をするのなら、この方がいい。それは――――あなたと再び会う為の誓いだと思って。再会できるまでの間は……これを私だと思ってちょうだい……!」

彼はその眼差しと光を受け、手の中の束をもう一度見つめると、それをギュッと握り締めた。

「ソニア……!」

2人は再び抱き締め合った。ソニアは長剣を放り出し、アーサーはルピナス色の束を握ったまま。互いに見合う顔は強さを取り戻しており、信じあうことで凛々しく輝いていた。

「お前が何処にいようとも……必ず迎えに行く。この髪に誓って……お前に会えるまで、何処までも探しに行くよ」

「必ず……会いましょう」

そして2人は、再び会うまでの長い時間の分をするとでもいうように、深く甘いキスを何度も繰り返した。

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