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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』68

 アーサーは何も言わなかった。彼が何か言ってくれるまで、ソニアは怖ろしくてとても顔が上げられない。沈黙が長くなるほどに、彼が幻滅して自分を見放すのではないかという怖れが膨らんでいって、彼女を震わせた。

 とても長い沈黙だったが、やがて彼が鼻を啜るのが聞こえた。

「……ソニア」

呼びかけに応じて、ようやく震えながらおそるおそる彼女が目を開き顔を上げて見ると、アーサーもそこで泣いていた。これまでともて静かだったのに、真っ直ぐ、懸命に彼女を見つめ、激しく泣いていた。彼女を責めるというより、ただ1人苦しんでいるような顔だった。

「オレを……愛しているんだな?」

震えと涙が止まらなかったが、彼女はそれにハッキリと頷いた。

「もし……今、あいつが生きて……ここにいたとしても……それでも、オレなのか?」

ぎこちなくとも、素直な頷きでソニアはそれに応えた。

 アーサーは、彼自身も涙を溢れさせて呼吸を乱しながら吐息した。彼は、今明らかにされた事と、その後にあった事を結び付けて考え、彼から見た世界で感慨を受けていた。

「それで……あいつは……どうしたんだ? メチャクチャなことになる前に……落ち着いたのか?」

ソニアは小さく頷いた。全てを言い切ってから闇の森は消えており、今では月光の青白い世界に変わっていた。

「……気がついたら……彼が出て行く所で……傷だらけのまま……」

目を閉じて顔をクシャリと歪ませると、また涙が溢れて零れた。

「“ありがとう”って……そう言って……」

月光に照らされた微笑を残して、彼は闇の中に去って行く。後には、失われた苦しみと痛みだけが残って彼女を震わせた。

 アーサーは彼女に手を差し出した。ソニアはその手と彼の顔とを見比べた。涙に濡れた彼の顔は、笑っても怒ってもいない。ただ、とても優しい目をしていた。

「もう二度と……そんなことがないよう祈る。……死んだ奴のことだ。冥途の餞と思い、忘れてやる。お前を……責めはしないよ、ソニア」

ソニアはまた顔を歪ませて、彼の手をそっと取った。すると彼がその手をグイと引き寄せて、彼女を痛い程に強く抱き締めた。

 彼女の捨て身に近い献身を受けた幸運な恋敵は、愛すればこそ彼女の側にいてはならないことを悟り、旅立って行ったのだ。遠く見守り、戦う為に。だからこそ、自分に言葉を託しに来たのだ。1人の男として耐え難い苦しみではあったが、アーサーはそれを受け入れた。

「ちくしょう……! お前は優し過ぎるんだ……! だが……そんなお前が好きで、好きで、しょうがない……! ちくしょう……! お前を愛してる……! ソニア……!」

「アーサー……」

ソニアは声を忍ばせながら、彼の腕の中で泣きじゃくった。赦しを与えてくれる彼だからこそ、尚一層彼が愛しかった。

 そして本当に二度と彼を苦しめずに済むよう、彼を置いて飛び込まねばならないような、そうせずにはいられないような不幸が目の前に転がらぬよう強く願い、祈った。

「お前がここに戻れるよう頑張り……それでもダメだったら……きっと迎えに行く。そしたら、もう二度と……誰にもお前を苦しませたりしない! きっと、生き延びよう……! ソニア……!」

「ええ……!」

2人は互いの涙を拭い合って、そして深く、長い口づけをした。ずっとこうしていたいのに、すぐに別れ別れにならねばならない不条理に腹立たしさを感じる。アーサーは彼女の髪を掻き上げ、涙を拭ってやり、頬を撫でた。

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