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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』67

 嬉しそうだった彼女の顔が陰り、表情が曇ったものだから、彼は焦りと不安を感じて激しく困惑した。

「どうした……? ダメなのか……? それじゃあ嫌なのか……?」

ソニアは目を閉じて頭を横に振った。

「違うの……! ……違うの……。私……あなたと約束する前に……あなたに話しておかなければならない事がある……。あなたにそれを教えないで……あなたに約束させるわけにはいかないから……」

ただ、黙っていればいいと判断する者も多いだろう。だが、彼女は違った。姿形だけでなく、精神性においてもハイ・エルフの特質が色濃く反映されており、彼に()()()を隠したままでいるのは、とても卑怯なことのように思われたのだ。

 ソニアはアーサーの腕から離れると、何かを恥じらうようにして自らの腕を抱き、彼から顔を背けて足元に視線を落とした。

「な……何だよ……話って……」

彼に話をする為に、その事を思い出したソニアは、苦しみの涙を零し、見る見る紅潮していった。それを見てアーサーは、ますます不安になっていくのと同時に、彼女がどんな種類の話をしようとしているのかを悟って、胸を掴まれる思いがした。

「あの……祭の夜にね…………私……」

もう、それ以上先のことを聞きたくなかった。言うなと叫びそうになったが、それと同じくらい大きな力で真実を知りたがっている自分もいて、彼の中で両者がぶつかり合い戦った。

 彼がどんな反応を見せるか怖れているソニアは、たったそれだけ言っただけなのに、もう彼がそこで唸り始めているものだから、続きを話すのを躊躇った。

「……言い訳がしたいんじゃないの。何があったのかを……あなたに正確に伝えておきたいの。でないと……」

「……言えよ。……聞いてるから」

彼が本当にその気になっているのか、見た目からは解らず不安だったが、おそるおそるソニアは語り始めた。

 彼女はずっと目を閉じて、その光景を思い描き、告白した。アーサーを前に語る緊張感で、今まで以上に、あの怖ろしくて哀しい夜が瞼の裏に蘇り、まるであの森に今いるような感覚に陥っていく。また同じ体験を繰り返しているのと殆ど変わらぬ闇と混乱と哀しみがそこに現れ、再現されていく。

 呼石(コール)が放つ青い光を見て狂気に襲われていく男の姿。

 闇の森を彷徨い走り、彼女を連れ出そうとして、そうできず、それがますます彼を狂気のふちに引きずり込んでいく。

 ソニアは当時と同じように戸惑い、恐怖し、肩を震わせて涙を流しながら苦痛と闘い、話し続けた。彼女は腕を伸ばして宙を掻き、握り締めて、そこにいない人を捕まえようとする。その人が救いなく死んで、もうそこにいないことが、尚更にその幻想の闇を強めた。

「……私……必死で……夢中で彼を捕まえていて……。そのうち……わけが解らなくなって……それで……。後は……殆ど……覚えていないの……」

当時の苦しみに、その人が既に失われてしまった喪失感と痛みが混ざって募り、ソニアは言葉を出すのがやっとだった。閉じた瞼を開けることができず、彼女は顔を歪めて喘ぎ続ける。

 アーサーは何も言わない。それが怖ろしくて、尚、彼女は目を開けることができなかった。

「……でもね……、あの人のせいにしたいんじゃないの……! あの人のせいじゃない……! 私が言いたいのは……もっと悪いのは……私が()()()()()()ってことなの……! あなたを裏切ることになるのに……でも……私……あの人にしたこと……後悔してないの……!」

もうこれ以上耐えらえず、ソニアは両手で自分の顔を覆った。

「それでも……こんな私でも……あなたは約束できると言うの……? 私を迎えに来ることができる……?」

全て言い切った後暫く、沈黙が続いた。彼女の咽ぶ呼吸ばかりが部屋に響く。

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