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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』61

 陽が沈み、紫色と桃色の空が次第に宵闇の深い藍色に変わっていき、星が幾つも輝きだした頃、ソニアは玉座の間への出頭を命じられた。

 再び両腕を拘束し直され、今度は簡素なロープではなく、鋼鉄製の手枷を嵌められて、二日ぶりに正式に北塔の監禁室を出た。

 ソニアに対する気遣いなのか、或いは騒ぎを起こさぬ為の配慮なのか、通常の屋根付き回廊の方は通らずに暗い騎馬訓練場の方を回り、なるべく人目につかぬルートを使って彼女は玉座の間へと連れて行かれた。

 四方を守る兵士達は一言も発さず、出頭命令を告げに来て一緒に行く近衛兵も無言だった。それでも城内を通るのだから誰にも会わないということはなくて、やはり少数ながら幾人かの女官や兵士達とすれ違い、彼等はソニアの姿を認めると小さな悲鳴を上げた。恐怖の悲鳴ではない。あまりに労しい姿であるから驚いているのだ。

 中央城郭に入ればもっと大勢に会うことが必至と思われたが、ここはかえって広範に人払いがなされているようで、階段脇や回廊の角といった要所に控える兵士4、5人以外には会うことがなかった。

 その代わり、玉座の間の扉脇には通常より多い4人の近衛兵が槍を手に警備をしていた。彼女が拘束、監禁されてから初めて姿を目にする者ばかりであるから、姿勢をきちりと保ってはいるものの、何人かは涙目になっていた。

 まだ腑抜けたままになっているディスカスも、一応は後について来ている。彼は何も知らぬ従者ということで罪に問われてはおらず、主人がこのようなことになっても尚も忠実に側に控えている大した者だと思われていた。だから彼のことは誰もあまりとやかく言わなかった。

 玉座の間の扉が開き中に入ると、そこにはこの国の要職幹部達がズラリと壁際に並んでおり、まるで裁判所のようであった。これから行うことが、ほぼそれと同じであるから、そうしたのだろう。玉座には王と王妃がおり、その前には書状を手にしたハルキニアが立っており、中央の空きスペースには被告人用の小さな台が設けられていた。

 拘束されたソニアの簡易着姿を初めて見る者達は、ギョッとした様子で目を見開いた。それを見慣れて落ち着いている番兵と、当の被告人ソニアの一団の方がずっと冷静なようだった。

 中央の台に連れて行かれると、ソニアはその台に取り付けられている小さな柵に手を置き、正立した。番兵はそのまま警護役として彼女の両脇と後方に立った。

 そしてようやく、ソニアは顔を見るのが辛くて正視しないようにしていた王の顔を正面から見た。父と慕ってきた国王ハンスは、今や一気に数歳分老け込んだように見え、顔の色にも生気はなく、目だけを潤ませて生きていることを示しながらソニアを見ていた。

 国王もまた、国軍隊長として鎧武者姿で颯爽と輝いていた時と比べ、見るからに粗末な格好でいるソニアの様に心痛めている。2人共が、心の中で既に泣いていた。

 未だソニアを好意的に思っている者も含め、その場にいる一同が、これまでのようにただの美しい女性戦士として彼女を見るのではなく、見知らぬ異種族の血を引きヌスフェラートなどと付き合う者として、異質で危険なものを見る目で眺めた。

 かつてならば、その1人1人に挨拶の視線と微笑みを送るところなのだが、むしろ彼女の方が分を弁えていて、囚人らしく孤高に振舞ってみせた。

 あまりに辛いし、哀れに思えたので、彼女はアーサーの姿を探さなかった。きっと泣き出しそうな顔をしていることだろう。

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