第4部31章『堕天使』59
ヴィア=セラーゴの魔導大隊本部庁舎内でゲオムンド=エングレゴールはその一報を聞いた。ディスパイクが第一の発見者であり、その知らせを受けたゲオムンド直属の部下が事の真相を確かめて、それからその部下がゲオムンドに知らせたのであるが、報告を聞いたゲオムンドはそこに硬直した。
竜人天使ヴォルトが息子ゲオルグの居場所を突き止め、バワーム王国の首都でヴォルトとマキシマの凄絶な対決となり、長時間の戦闘に及ぶも、結局マキシマ――――ゲオルグが破れて死し、灰となった。こんなに怖ろしいことがあるだろうか?
ゲオムンドはまず当然ながらマキシマの正体がエングレゴール家の者とバレてしまったのか、次はこの自分にヴォルトの手が伸びてくるのか、ということを真っ先に怖れた。部下達もその辺りを今、必死に調べている。
ヴォルトは所謂、感情的な乱暴者ではないから、仮にゲオルグの素性がバレていたとしても、皇帝軍を揺るがす大事と捉えて無闇に騒ぎ出したりはしないだろう。まずは裏を取って、この自分にも探りを入れて、それから皇帝に報告する、という手順を踏むタイプだ。だから今後のヴォルトの動きを見ていれば、彼が何処まで知っているかが解る。
ゲオムンドの心臓がチクチクと痛んだ。これはすぐには解決しないだろうから、当分は気が休まるまい。全く……何もかも、あの忌々しい娘が始まりなのだ。さっさと始末できていれば、こんな面倒事にまで発展することはなかっただろうに。それが、ゲオルグが双子の存在を知ってから、あの娘に夢中になってしまい、そこから全てが狂っていったのだ。エングレゴールの者らしい学術研究が疎かになり。無関係なことに時間と労力を割くようになってしまった。そして、トライアを攻めるなだの、ソニアを危険に晒すなだのと言い出した。あの時スキュラがきちんと始末をしてくれていれば、ここまで梃子摺ることもなかったものを。
それが結局、ゲオルグの方が先に死んでしまい、あの娘はまだ生きているのだ。何という皮肉か。トライア攻めを阻止する為に竜王大隊に横槍を入れて、しかもヴォルトの右腕たる弟子を殺してしまったから、あんな恨みを買ったのだ。これで皇帝軍から、実に有能な人員が2人欠けたことになるのである。何と惜しいことだろう。
それにゲオルグはマキシマの成功によって戦士としても強くなったが、元は科学者だった。どんな動機であれを生み出したにせよ、過去の一族の誰も行っていないような素晴らしい偉業であったことは確かだ。マキシマの真実を伏せなければならないから大々的に発表できないのは残念であるが、研究の記録は今後も大いに一族の役に立つであろう。
もっと生きていれば、後どれだけの崇高な発明をしたことか。
愛、愛だ。そんなものが、いつも全てを台無しにしてしまう。
ゲオムンドは眉間に皺を寄せて居室内をウロウロと彷徨った。あの孤島に行って、どれだけ研究資料が残っているか調べたいが、今は動かない方がいいだろう。後を尾けられて、あの場所が知られてしまい、資料が明るみに出れば動かぬ証拠となってしまう。