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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』56

 建物の上に飛翔術で戻り、彼のマントを取り上げたマリーツァは、沢山ある内ポケットの中から青い薬品が入った小瓶を見つけ、それの蓋を開封した。そして、彼と同じように液体を霧状に変える呪文を唱えながら、それを宙に高く振り上げて中身を出し、空中に散布した。

 薄っすらと青い霧がエランドリースの町に降りていく。

 やがて、それに触れた野菜の魔物達の動きがピタリと止まり、それが周辺部に徐々に伝播していった。動かなくなった野菜は、二足歩行の形状からゴロゴロと単体に分かれて転がっていき、ただの野菜となってそこに落ちた。人間達も次第に正気を取り戻していく。

 あと少しで養分の足りなくなった魔物達が人間から体液吸収を始めるところであったが、ギリギリ間に合ったので誰も被害に遭わずに済んだのだった。

 被害は家屋と、2人の戦闘の煽りを受けた負傷者達だろう。それがどれくらいの数になるのかは、今はまだ判らない。だが、それは彼女にはどうでも良かった。ひとまず魔物の怪は止めたのだから。

 マリーツァは彼が横たわっていたクレーターに戻った。竜人もまだそこにいる。

 クレーターには、()()()()灰があるばかりだった。それは風に吹かれてどんどん無くなっていく。

 マリーツァはストンと膝を落として、そこでまたポロポロと涙を零した。

 ヴォルトは彼女のことをどうすべきか考えた。事情を知っている者なのか、彼が何者だったのか知っているのか、いずれかかもしれない。

 だが、直感では己の敵ではないと解っていた。そして放っておいてやろうと思った。何故ならば、そこであんまり哀しそうに泣いているからだ。

 彼女の気配はよく覚えたから、必要があれば、またいつでも会うことができる。だから今日の所はこのままにしておこう。

 そこでヴォルトは、無言でその場を立ち去ったのだった。

 夕映えの中を、全ての灰が風に流されて消えていくまで、そこで見届けたマリーツァは、止まらぬ涙と苦しみを抱えたまま1人ひっそりとその場を後にし、そして二度とこの国でその姿を見せなかった。

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