第4部31章『堕天使』52
足下では野菜の魔物達がウヨウヨとしており、その中に意思のない人間が混ざってゾンビーのようにフラフラ歩いている。その上では竜人と奇跡の融合体の一騎打ちだ。こんな珍奇な光景はまたとないだろう。城から出てきた兵士も結局は野菜同然になってしまうから役に立たず、ゾンビーの一員になってしまう。まだ正気である人々は、逃げるか何処かに隠れるしかなかった。
城からは多くの人々がこの怖ろしい様を眺めていた。大砲を撃とうにも、上空の標的はあまりに動くのが速いし、下に落ちれば大勢の人間が傷つくから撃つわけにもいかない。矢についても同様であるから、城の兵士達は城門を固く閉ざして守りに徹するより他になかった。
既に日は傾いている。マキシマとヴォルトは再び戦い始めた。先程までとは戦模様が異なってきた。マキシマが如何に訓練された戦士ではないとは言え、ここまで肉体的、能力的に優れてくると、一気にカタをつけるのはヴォルトでも難しくなってくる。互角、というと言い過ぎかもしれないが、それに近い拮抗状態となった。この分では戦いは長期化しそうであった。
マキシマとしても、これは千載一遇の好機と捉え、できることならこのヴォルトをも仕留めようと考えた。ヴォルトを倒したとなれば皇帝軍に激震が走るだろう。そして誰もマキシマには挑戦しようとするまい。怖れて近づかないようにするはずだ。そして名実共にこの世で最強の戦士となるのだ。そうすれば――――誰にも邪魔されずに愛する者を迎えに行くことができる。
ヴォルトは愛する弟子の復讐に燃えているし、マキシマもまた必死だった。両者とも、愛する者の名誉や、美しく穏やかな最期の為に戦っているのだ。どちらも決して引くことはない。
2人が戦う程に街は傷つき、崩れていった。野菜も人間も破壊活動はしないのに、2人だけで大軍団に匹敵する破壊を行っている。
それでも、まだマリーツァは建物の上から動かず、全てを見守っていた。
これは、歴史に残る決闘であった。語り部として優れた者がこの一部始終を見ていないから、実際には後世に伝わらないのだが、何百年、何千年と残っておかしくないものであった。何しろ、天使と一対一の対決をしてこんなに長い時間戦っていられた者は、かつて存在しないのだから。
どんどん日は傾き、そして夕暮れが迫ってきた。空も雲も町も次第に金色に染まっていく。疲れを知らずに戦う2人も黄金色に照らされ、美しく輝いた。