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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』47

 マリーツァは彼の体に腕を回し、初めてギュッと抱き締めた。これまでのどんな瞬間より彼を強く感じる。彼が偽りの姿を取っていても変わることのない香り、雰囲気、波動。彼もまた、同じように彼女の全てを今まで以上に強く感じたのだった。状況の変遷を観察すること方に集中していたいのだが、どうしてもこちらに気を取られてしまう。

「……ねぇ、あなたがこういう事してたらさぁ、誰か……凄く悲しむ人がいるんじゃないのかなぁ……?」

それは暗にソニアのことを指していた。そして彼の方も、確かにソニアのことを思い浮かべた。あれだけ人間を守ろうと必死の双子なのだ。当然、身内のこんな所業を知ったら、ますます自分のことを嫌うだろう。母には……元々嫌われているからいい。

 彼は突き放す気にはなれず、そうして彼女をくっつかせたまま、それでも実験の成果を観察することに集中しようとした。根から切り離された野菜達の生命活動は時間が限られているから、やがて融合した種類だけが違う行動を見せるようになるはずだ。人間達に抱き着き、そこから直接体液を吸収して栄養源にするのである。自分と同じ細胞とエネルギーを体に取り込んでいる人間に対しては、そういった行動ができるのだ。

 これは、ある熱帯域に植生する食虫植物や、自分にも取り込ませている融合特性のある植物細胞等を取り入れることによって可能にした現象だった。巧く利用すれば人間達は滅びの兵器を自分達で育成してくれるし、こちら側は一切手を汚さずに、しかもギャアギャアと血生臭いことにならずに侵略が完了できるのである。

 今回は本来の規模より小さく発生させた、あくまで試験レベルだ。これが巧くいったら、父ゲオムンドに報告し、実際に利用することになる予定だ。

「……ねぇ、お願いだからさ、あなたの手で、ここで止めてよ。こんな事、良くないよ。私……一緒に行くからさ。何処までも、一緒に行くからさ、だから……止めてよ」

マリーツァにとって、人間も哀れだが、野菜も同様に可哀想だと思っていた。妖精は植物をこよなく愛しているのだ。

 間近で彼女はジッと彼の顔を見上げている。彼にはまだ信じられなかった。彼女から抱き着いてきたのといい、こんな事をする男だと解っていて、それでも一緒に来ようとするなんて、この娘はどこかおかしいのではないかとさえ思ってしまう。自分の兄に面影が似ているからという、ただそれだけのことで、ここまで相手に寛容になれるものなのだろうか?

 だが、彼は一瞬、彼女の求めに応じて、この時点でこの実験を終わりにいてもいいかなと思い、それをまた自身で驚いていた。この自分が、これだけ時間と労力をかけてきた実験を中途で放棄しようなんて、どうかしている。

 だが、こうも思った。ここで彼女の願い通り実験を止めなくても、しかも正体が人間ではないことを明らかにしても、それでもこの娘はもしかしたら、自分について来てくれるかもしれない、と。それがまた、一瞬の陶酔感を生んだ。

 ところが、その幻の一時はすぐに終わった。彼女がふいに腕を解いて彼から離れてしまったからだ。同時に彼も気付いたのだが、すぐそこに男が立っているのだ。同じ建物の上に。普通は人間が簡単に上がってくることのない場所である。そして漂わせている気配がただの人間とは思えない強烈なものであったから、彼女は警戒を示したのだ。

 それは赤毛の男だった。くせっ毛で上背が大きい。そして旅人の装束している。

 ゲオルグは瞬時に、その気配を感覚的に判別してゾクリと総毛立った。

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