表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
333/378

第4部31章『堕天使』46

 野菜の魔物達は、次々と人間を仲間に入れていくと自らも融合して、より進化を遂げていった。知能といえるものこそないが、植物としての単純反応の幅が広がっていく。

「あなたの作った変わった野菜を食べた人達が、皆、あんな風になってしまうの?」

ゲオルグが全く答えないのに、マリーツァは懸命に訊き続けた。彼女もこれまで、それなりに彼の企みの見当をつけようとしてきていた。農業研究者として人間世界に紛れ込んでいるのだから、農作物に何か細工をして、それが人間に影響するのだろうとまでは容易に考えることができていたが、そこ止まりだったので、ようやく実際の現象を目にすることで、それが明らかになってきたのだ。本人が側にいて訊けるうちに何でも聞いておかないと、後で人間達を助けようにも助ける方法が解らなくなってしまう。

「一度ああなっちゃった人間達って、もう助からないの? あのままなの?」

そんなことまで冷静に訊いてくるのかと思い、今度こそ、ついゲオルグはマリーツァを振り返り見てしまった。彼女は真剣そのものの表情で食い入る様に彼を見ている。そこには空を飛んでいるという恐怖感は微塵も見られないし、この現象を無闇に怖がっている様子も少しもなかった。彼がこれまでに見てきた平均的な人間の娘からすると、どうも落ち着き方と頭の回転が普通ではない。この娘は、それほど危険な橋をこれまでにも渡ってきて場数を踏んでいるのだろうか。何しろ、たった1人でこのエランドリースに移り住んできたのだから。彼はそう思った。

 野菜も人間達もゾロゾロと群衆になって、続々と城下町に雪崩れ込んでいく。彼は目立たぬようあまり高くは飛ばなかったので、屋根伝いに観察しようと高い建物を選んではその屋根に上り、そこで一旦足を下ろして街の有り様を見渡した。

 彼が首謀者だと解っているのに、マリーツァは暴れて逃げようともしないし、彼を止めようと掴みかかってくることもしない。ただ、彼に手を繋がれるままにしていた。彼にはそれが不思議だった。恐怖のあまり動けない、といった様子でもないのに。

 人々は皇帝軍の襲撃だと騒いで町を右往左往している。しかし野菜の魔物達の発する香気に触れると、すぐに意思のない人形となって愚鈍な様子になり、行列に加わるのだった。

 野菜の魔物が人間を食べたり噛みついたり切り裂いたり、というような狂暴なことはしない。ただ仲間を増やしてどんどん数が膨らんでいく。

 マリーツァはハラハラと見守った。テレサや店の人達、城の国王や大臣達もこれに巻き込まれてしまうのだろうか?

「……こうやって、凄い軍勢を用意しなくても静かに人間達を乗っ取ることができる……。これが、あなたの狙いなの?」

正に、その通りだ。言い当てられたゲオルグはまた驚き、マリーツァを再び見てしまった。それが返事であるに等しいから、マリーツァは確信を強める。

 彼にとって不思議なのは、そこまで見抜いていながら未だにマリーツァが自分に対して嫌悪感を示さないことだった。

「今日……私を遠い所へお使いに行かせたのは……私がこの騒ぎに巻き込まれないようにする為……。私を、助けようとしてくれたのね?」

このことだけ否定するのも白々しいから、彼は尚も無言に徹していたのだが、マリーツァの方は既に間違いないと信じているようだった。彼女の瞳が少し潤んでいる。

 そして、眼下に野菜の魔物や人間達の逃げ惑う姿、意思のなくなった人間達の姿が広がる異様な光景の只中の、しかも建物の屋根の上という状況にあって、彼女はどうしてか彼にゆっくりと抱き着いたのだった。彼の方が驚いてしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ