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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』45

 野の道をマリーツァと共に歩くゲオルグは、ここで彼女に自分がこれからする事をハッキリと見せて幻滅させてやろうと決心した。そうすれば、この娘も諦めがつくだろうから。

 すぐそこに生き生きと輝く野菜畑が広がっている。広げた葉の青さが美しい、大きな葉野菜で、以前に配布して育てられている改良新品種だ。彼はその畑に入っていき、懐のポケットから薬品の入った細いガラス管を取り出して魔法を唱え始めた。

「……何をしているの?」

マリーツァは興味深げに彼のすることを見守っている。好奇心からではなく、警戒してのことであるが。彼は呼び掛けを一切無視して魔法を唱え続けながら畑に薬品を広く振り掛けた。呪文の効果で液体が霧状になって散布されていく。

 彼の呪文は液体を霧状にするものだけではなかった。魔法によって薬品も改良品種も目覚め、融合し、反応を見せ始める。畑に並んでいた花の様に大きな葉を沢山つける球状の野菜が次々と自ら動き出し、根と葉を自ら切り離してフワフワと宙に浮かんだ。

 マリーツァはポカンと口を開けてそれを眺め、暫くは驚きのあまり言葉が出なかった。野菜を魔法にかけて動かして、それでどうするというのだろう? まさか軍隊でも作る気なのか? 彼女は始めそう思った。

 野菜達は次々と他の畑にも飛び、改良品種が植えられている畑からは呼び掛けに応えるようにして他の野菜達も目覚め、起き上がって宙に浮かび始めた。空を飛ぶ、というほど高くは舞い上がらないが、人間の膝くらいの高さをフワフワ滑るようにして流れていくのだ。何だか、見えない川が流れていて、その水に浮かんでプカプカ流されているかのようだ。

「ねぇ……、何してるの? 何なのこれ? 何をするつもりなの?」

一度口を開くと、彼女は次々と捲し立てるようにして質問を浴びせかけた。彼は完全にそれを無視して事を進めていった。

 野菜達は勝手に他の畑へと移動し規模を広げていく。彼はそれを追ってフワリと宙を飛んだ。そしてその際、彼女の手を取って一緒に移動させた。彼女自身でも飛べるのだが、折角彼が運んでくれるのだから彼女はその能力を隠し、彼に任せた。

 野菜の軍団は、やがて農地の近くに達した。そこで農作業をしていた人が迫り来る野菜達を見てギャッと悲鳴を上げる。そして野菜の幾つかがその人間の側に飛んでいき、葉っぱでペタリとくっついた。気味悪がる人間がギャアギャアと喚くのだが、そのうちに叫びがピタリと止んで腕をダラリと降ろし、ボーッと立つだけになる。

 人間達がそうなると野菜は離れていき、また軍団の流れに混じった。すると、その人間もフラフラと動き始め、何とその流れに加わり野菜の1つのようになって、何処とも知れぬ目的地を目指して行った。

 ディライラでの惨状も目にしてる彼女だから、マリーツァは叫び出すような騒ぎ方はしなかった。

「これ、皆、あなたがやってることなの?」

ゲオルグはずっとマリーツァの質問を無視している。しかし、ここで降ろすと危険だから手を離しはしなかった。

「あなた、人間の味方じゃないのね? 本当は人間じゃないの?」

案外この娘は落ち着いているのだな、と思いつつも、ゲオルグは少しも振り返らずに足下の光景を観察することに徹した。先程配ったばかりの苗が合流を始めている所があった。あれは特別な苗で、他の野菜と融合することができる。融合した新種はまるで二足歩行の生物のように立ち上がり、エランドリース中心部を目指していった。

「これは、人間を殺すものなの?」

そろそろ、振り返りマリーツァの顔が見たい欲求が沸々と込み上げてきていた。彼女がとても冷静で的確な事ばかり訊いてくるものだから、どんな顔をしているのか見たくなったのだ。だが、務めて無視するようにした。自分から取った彼女の手の感触が気になる。とても肌が滑らかだ。

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