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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』29

「母さんやミンナが苦しい立場に立たされてしまうのは耐え難い……! 2人が後ろ指差されて生きなきゃならなくなったりしたら……おそろしく辛いよ……! だが……こんな事でお前と引き剥がされて……二度と……一生会えなくなったりなんかしたら……! 苦し過ぎて、オレは死んじまう……!

 バカで情けない男だと笑ってくれ……! だが、これが……これが……オレっていう男の本当の姿なんだ……! お前のことで一杯の……どうしようもなく弱い人間なんだ……!」

「アーサー……」

彼に愛されていると知っていて、意識していながら、それでも猶予を与えられてここまで過ごしてきた。決して縛らぬようにという彼の配慮の中でゆったりと時が流れ、漠然と、彼を愛しているに違いないと思い、生きてきた。

 彼はいつも明るく元気で、自分に優しくて、強かった。その温かい眼差しに何度心救われたか知れない。

 その彼が、彼だけは元気なままでいて欲しいと彼女が心から願うその彼が、今こうして強がりも道理もかなぐり捨てて苦しんでいる。

 彼のその姿に幻滅するどころか、ソニアは今こそはっきりと、彼への愛情を自覚した。そして自分が引き起こした問題で彼を苦しめているということに深く心痛めた。

 ソニアは彼の頭を胸に抱き寄せ、その頭に頬ずりし、髪に顔を埋めた。

「アーサー……あなたとずっと離れ離れにならない方法は、きっと他にあると思うわ……! だから、お願いだから、国を飛び出すことだけはしないで……! もし私が追放されても、この国だけは守りたいのよ。あなたまでいなくなったら、本当にどうしようもなくなってしまうわ……!」

「何言ってんだ……! お前にこんな事をする奴等の国だってのに――――」

「――――お願い!」

ソニアは彼の肩を強く掴んで、涙の中で向かい合った。彼の黒い瞳が転がるように揺れている。その潤んだ輝きは、黒曜石トリックスターを思い出させた。

「あなたを……愛しているわ」

「ソニア……」

「愛してるから……どうか言うことを聞いてちょうだい……!」

崩れるようにして背を丸めていた彼が、ゆっくりと頭を上げた。

「……本当に……?」

ソニアは、小さくともしっかりと頷いて見せた。彼の顔から不安は消えない。

「あいつが死んじまったから……それで……」

「――――やめて! そんなんじゃない!」

ソニアは眉間に皺を寄せて目を伏せ、死人の面影と苦しみを振り返るようにしてから、再び目を開けて彼と向かい合った。彼女の瞳もまた、痛みで揺れている。

「あの人を失って……あの人が私にとって何だったのか、よく解ったの。あの人は……私だったのよ」

「……お前……?」

「私が持つのと同じ苦しみを持ち……私が怖れていたのと同じ不幸を生き……私と同じように色んな美しいものを愛せる人だったの。だから、自分自身を救う為に……あの人を救おうとしていたんだと思うわ。あの人が幸せになれれば……憎しみや不幸が少しでも軽くなれば……自分にも……その幸せが約束されるような気がしたのよ」

アーサーは次第に落ち着いた呼吸を取り戻していき、ジッと話を聞いた。

「勿論、あの人はとても大切な存在だった……。友達としてか、男性としてか、私もどちらなのか解らなくて戸惑っていたけれど……それは……きっと、すごく愛に近い所にいた人だったから……。失って……まるで自分が死んだみたいに打ちのめされたもの……」

まだ新しい傷の痛みに、涙が頬を伝い落ちていった。

「でも……あなたは太陽なの……! この世界で私をいつも本当に笑わせてくれるのは、あなただけなの……! あなただけが……私を照らしてくれるわ……! あなたがいなかったら……私の方こそ、暗闇の中で枯れてしまうかもしれない。それが、やっと解ったわ……!」

彼は潤んだ目をパチクリとさせて、暫く呆然としていた。

「……本当に……オレを……」

ソニアは、疲れ果てた顔と涙の中にありながらも微笑んだ。そして、酷かった彼の顔も愛を告げられたことで瞳に見る見る生気が戻っていき、揺らがぬ輝きに満ちていった。

「ソニア……!」

アーサーはソニアを抱き寄せ、あらん限りの想いを表現しようとするように彼女を愛撫し、頬や額や唇にキスをし、頬ずりをして彼女を離さなかった。

「あなたを窮地に追い込むことなんてできない……! 私の為に……! きっと方法はあるから……どうかこの国を出ようなんてことはしないで……! お願いよ……!」

「……オレも、何とか方法を探してみる。……お前にこんな不名誉で……酷い仕打ちをしたままで終わることがないように……」

難しい立場と状況にありながらも、今ここにある愛を喜び、噛み締めて、2人は涙ながらに微笑み合い、長い口づけをした。

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