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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』27

 後夜祭も大盛り上がりの中で終了したばかりのトライアは、打って変わってとても不穏な空気の中にあった。何があったのか未だに公式発表は城から出されていないが、人伝の噂は伝わるのが早いので、軍隊長が突然拘束されて懲罰部屋に監禁されているということは、あっという間に城下の人々全てが知るところとなった。

そしてジワジワとではあるが、何処から漏れたとも知れぬ情報で、彼女が何の罪に問われているのかも知れ渡っていった。

 彼女がそんな事をするとは信じられない者が大半であったが、それでも拘禁されたとあっては、余程確かな証拠があるのだろうとは思われた。だが一方では、王位継承権の話が出た直後のことであるから、彼女に王位を渡すまいとする者達の陰謀なのではないかと疑う者もいた。それでも、陰謀なら陰謀で彼女の身が潔白であるのならば、武人たる者が大人しく拘禁に応じるというのも考え難い。だから民は混乱した。

 そしてこれが真実であるならば、彼女を信じてこれまで想いを寄せてきた近衛兵隊長はとても哀れである、という見解が主流となった。

 今回の告発者は、アーサーはただ騙されたのであり、第三の男がヌスフェラートであるとは知らされていなかったのだと解釈して、アーサーがそのヌスフェラートのことを知っていたかもしれない可能性については一切を伏せていた。それによってアーサーが嫌疑を受けることはなかったし、昨日ソニアが取った行動のお陰で国王も彼も立場的に守られ、誰に疑われることなく、彼女だけが唯一人の当事者であるということになっていた。

 その国王とアーサーは、今回の出来事による落胆と、夜を徹しての議論ですっかり参ってしまい、哀れななりになっていた。必死で彼女の弁護に回り、何とか少しでも彼女の立場を良くするべく幹部連中と意見を戦わせていたのだが、思うように状況の改善ができなかったこともあって、尚更2人は憔悴しきっていた。

 以前から彼女の秘密を知っていたということは、例え明らかにしても彼女の助けにはならないと思われたし、今の勢いでは自分達までが拘禁されかねない状態だったので、その点について2人は固く口を閉ざしていた。何しろアーサーには妹と母がいるし、国王も国王という立場上、滅多なことは言えないのだ。だが、それは彼女に対する深い罪悪感を2人に抱かせ、彼等を内側から責め立てた。

 彼女が北塔へ連れて行かれた直後から、その場で討議が始まり長引いたので、幹部達が座れるよう会議室へと移動し、それから延々と議論を続けて、一区切りついたのが朝日の昇った後であり、それからようやくアーサーは北塔のソニアの様子を見に行くことができたのだった。

 討議そのものは終わった訳ではなく、一時中断という形を取っており、少し時間を置いてから再度集まって最終決議を下すことになっている。今は祭の後処理でただでさえ忙しい所であるし、ソニアがいない状態で軍務国務を機能させるということにも同時に従事しなければならず、また加熱し過ぎた頭を冷やして民意を知る為にも、幹部達は皆、最低でも一日は熟考する時間が必要だと判断したのである。それだけ、ソニアが北塔の部屋で過ごす時間が伸びることになった。今夜か明日、最終討議を行う予定だ。

 重い足取りでアーサーは北塔の螺旋階段を上り、3階に着くと、曲線を描く廊下の一番奥の扉前でディスカスが立っているのが見えた。そこに辿り着くまでにも、実に10人以上の番兵が要所要所に配置されており、彼に敬礼していく。皆の顔には困惑と悲しみとが表れていた。

 番兵長にアーサーは面と向かい、言った。

「……彼女と話したい。開けてくれ」

番兵長は沈み調子で「はっ」と一言承知しただけで、後は黙ったまま鍵を開けた。彼女やアーサーがその気になれば全く意味のない鍵なので、それは儀礼的で無意味な作業だった。番兵の数も、彼女の階級の高さに合わせて配されているだけの意味のないものだった。

 部屋に入ろうと通り過ぎる際、ディスカスは済まなそうな視線をチラリと彼に向けた。もし緊急の事態が彼方で起きている場合は、この従者が教えてくれるであろうから、姿の見えないうちは外のことは心配せずとも良いのだろうと判断し、アーサーは討議に集中していた。

 彼が部屋に入ると、扉が後ろで閉じられ、鍵がかけられた。

 ソニアはもう起きていた。昨夜はようやくゆっくり横になれたから、体力的なものは少し回復したらしい。だが、気力の方はどうにもならず、2人ともが酷い顔をしていた。アーサーの姿を見たソニアの方が特にそれを哀れんだ。

「ああ……アーサー……!」

ソニアはベッドから立ち上がり、おそるおそる彼に近づくと、両手でそっと顔を包み込んだ。

 彼の目から涙が零れた。昨夜はずっと堪えて溜めてきたものが、彼女を前にし、その手に触れられたことで堰を切って溢れ出てきたのだ。ソニアは堪らず顔を歪めて彼を抱き締めた。

「ごめんなさい……! 本当に……ごめんなさい……!」

番兵長は見える位置に立っていたが、2人の様子が見るも哀れだったので顔を背け、他の番兵にも手振りで指示して一時その場から遠ざかっていった。ディスカスも何となく彼等と共にそこを離れた。

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