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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』24

 研究農園で所員と共に忙しく立ち働いていたゲオルグは、ほんの小一時間経っただけでマリーツァがここに戻って来たものだから呆気に取られていた。見れば、手にした籠には頼んだ品の内のほんの2、3品しか入っていない。

 何だコイツは、大変そうだから、さっさと切り上げてきたのか? 簡単に投げ出すなんて何て奴だ。彼はそう思った。

「どうした? 頼んだ物が全部入っていないじゃないか」

彼がとても棘のある口調でそう言うものだから、所員はギョッとした。こんな美女に対して冷たく当たる男なんて普通そうそういはしない。

 しかしマリーツァの方はケロリとしていて、笑顔が絶えない。

「他の物は、他の人が届けてくれることになっているんです」

彼女の言うには、城を出た途端に商人や物売り達が声を掛けてきて、これから何処に行くのだと尋ねられたから、メモを見せてお使いに行くのだと説明したところ、その内容に驚かされて、あっという間にマリーツァ支援部隊が編成されたらしい。代金は後でいいからと、まずはエランドリース市場で揃えられるだけのものを見繕ってくれて、残りについては、これからその村に行く人を見つけたりして、個別に調達員を揃えてくれたのである。正にマリーツァの美女パワーの成せる業であった。

「私が一人で全部集めるよりも絶対早いからって、午後の早いうちには全部揃いますよ」

彼の意図を解っていつつも、マリーツァは言い使った用事を素早くこなせた得意さで笑顔が輝いている。ひたすら呆気に取られていた彼は、一日中追っ払っておきたかった彼女がこうして無難に任務をこなして戻って来てしまったものだから、苛立ちが再び募った。

 そこで今度は新たに別の用事を思いつくままに言いつけてみるのだが、彼女はそのどれも実に甲斐甲斐しくよく働いて、さっさと済ませてしまい、有能ぶりを発揮した。所員達はマリーツァさん凄い、と褒めちぎるのだが、彼の方は全く気に入らない。

 早くこの国での実験を済ませて退散したいのに、何度追っ払おうとしても帰ってきてしまうものだから、予定より捗らなくて困った。ちょうど誰にも見られたくない作業をしている時に限って彼女が帰ってきたりするものだから、その度に彼は険しい形相でそれを迎えた。しかし、手際には文句のつけようがないから、叱りつけたりもできない。

 所員達の方も、そんな2人のやり取りを見ていて、この謎の勝負はどうやらマリーツァの方が勝っているらしいと気が付き、ニヤニヤと行く末を見守るようになった。

 昼の休憩時に所員が食事をとりに出て行き2人だけとなった時には、首でも絞めてやろうかと思うくらいになっていて、彼は苛立ちのままに珍しく机の上に足を投げ出して書類に目を通した。

 彼とマリーツァの食事はここに運んでもらうことになっている。お前も行って来いと言ったのだが、従者は離れないものだと断固としてここから出て行こうとしないので、それを強硬に追い出そうとしても、どうせすぐに食べ終わって戻って来るだろうという予想もあり、面倒だから放置したのだ。

 それで何もせずにいるのも、また別の用事を言い使って出て行かされる口実になってしまうと思ったようで、マリーツァは「掃除をしますね」と言って研究所の中をクルクルと回っていく。布巾と箒を手に、まるで踊っているかのようだ。

 頭痛が酷くなっていた彼は額を指で揉み解した。

 マリーツァは実に楽しそうにハミングしながら窓を拭き、床を掃いていく。そうするとどうしてか、彼の頭痛は止み、苛立ちも治まっていった。自分は余程、歌が好きなのかもしれないと思いながら、彼は度々そんな彼女の姿を目で追ったのだった。

 書類にペンを走らせているうちに、ふと歌が止んだ時、彼の方が思わず顔を上げて見てしまった。マリーツァが手を止めてこちらを見ている。

「うるさくないかしら?」

一応、気を遣っているのだ。彼はぎこちなく頭を横に振って、書類に目を戻した。

 彼女は嬉しくなったようで、ますます歌らしい歌をリズムに掃除をした。というか、殆ど踊り回っていた。昼食が運ばれて来た時も、彼女は踊りながらそれを受け取り、給仕の中年女を笑わせた。

「あら、楽しそうね」

「掃除をしているの」

マリーツァの独演を日常的に見られるなんて羨ましいと、他の者も笑いながら次の運び先へと回っていった。

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